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とりあえず、二人で少し話してみなよ。
そう言って、正志は家を出て、近くの24時間カフェに向かった。
熱はどうなの、と聞かれたけれど、夢にうなされながらでも眠ったせいで幸い微熱程度にはおさまったから、大丈夫、若者は丈夫なんだぜと強がった。
じゃあ、と見送ってくれた猛の後ろに寄り添うように立っている三上は、いつものクール・ガイに戻っていたけど、それなりにどこか嬉しそうで。それとなく伸びた手が猛の腰を抱えてるあたり、は
いはい勝手にやって下さい、けど自分のベッドでお願いしますね、と突っ込むと、さすがに猛に叩かれた。
けどなあ。
運ばれてきたホットチョコレートを飲みながら思う。
あれだけ激しいものが三上の内側にあるとは思わなかったよなあ。
あの三上が猛と殴り合いってだけでもずいぶんだけど、猛が正志と三上の仲を誤解したと気づいた時のうろたえ方は、傍で見てても必死なのが伝わってきて。
「それほど、好きだってこと……」
それほど好きな思いって、涼子に向けたことがあったっけ。
正志はまた考え込んでしまった。
それこそ、喫茶店で婚約破棄を伝えられても、どっちかというと、あ、そうですかって感じじゃなかったか。
けど、それは。
胸の中で言い訳してしまう。
あまりにも驚いて、あまりにも理由が凄くて、あまりにも意外で、あまりにも………涼子に振られてしまうなんて、世界がひっくり返ってもあるもんじゃないとどこかで思っていたからで。
「はぁ…」
これもやっぱり、婚約者のことを大事に思っていなかった、に繋がってくるんだろうか。
みるみる冷めてくるカップに余計侘びしくなって、追加でも頼もうかなと思って目が止まったのは、入ってきたカップルの女の子がひどく嬉しそうだったからだ。
花みたいに笑ってる。
一番綺麗に咲いた瞬間を見せたくて、愛しい人を振り仰いでいる。
「あそこにしよう」
「うん」
男の方が正志の隣の壁際の席を指さして、女の方がいそいそと男の後に従ってついてくる。
なんか犬ころみたい。
尻尾をちぎれんばかりに振って、無限の信頼を向けて付き従う忠実な飼い犬。
「っと………あの、コーヒー、下さい」
女の方がちらっとこちらを見遣った気がしたのに、慌てて目を逸らせて追加注文を頼んだ。いくら24時間カフェとは言え、長居しすぎるのはみっともないよなあ、かと言って、明日はまた勤務だし、これ以上体調崩したくないし、そう思った矢先に、ふいにその声が飛び込んできた。
「さゆ」
「ん?」
「あのさ」
「うん」
「今日で終わりってことにしないか?」
「え?」
え?
どこかで聞いたにしてもあまりにもそっくりなやりとりに、正志は思わず顔を上げた。
そう言って、正志は家を出て、近くの24時間カフェに向かった。
熱はどうなの、と聞かれたけれど、夢にうなされながらでも眠ったせいで幸い微熱程度にはおさまったから、大丈夫、若者は丈夫なんだぜと強がった。
じゃあ、と見送ってくれた猛の後ろに寄り添うように立っている三上は、いつものクール・ガイに戻っていたけど、それなりにどこか嬉しそうで。それとなく伸びた手が猛の腰を抱えてるあたり、は
いはい勝手にやって下さい、けど自分のベッドでお願いしますね、と突っ込むと、さすがに猛に叩かれた。
けどなあ。
運ばれてきたホットチョコレートを飲みながら思う。
あれだけ激しいものが三上の内側にあるとは思わなかったよなあ。
あの三上が猛と殴り合いってだけでもずいぶんだけど、猛が正志と三上の仲を誤解したと気づいた時のうろたえ方は、傍で見てても必死なのが伝わってきて。
「それほど、好きだってこと……」
それほど好きな思いって、涼子に向けたことがあったっけ。
正志はまた考え込んでしまった。
それこそ、喫茶店で婚約破棄を伝えられても、どっちかというと、あ、そうですかって感じじゃなかったか。
けど、それは。
胸の中で言い訳してしまう。
あまりにも驚いて、あまりにも理由が凄くて、あまりにも意外で、あまりにも………涼子に振られてしまうなんて、世界がひっくり返ってもあるもんじゃないとどこかで思っていたからで。
「はぁ…」
これもやっぱり、婚約者のことを大事に思っていなかった、に繋がってくるんだろうか。
みるみる冷めてくるカップに余計侘びしくなって、追加でも頼もうかなと思って目が止まったのは、入ってきたカップルの女の子がひどく嬉しそうだったからだ。
花みたいに笑ってる。
一番綺麗に咲いた瞬間を見せたくて、愛しい人を振り仰いでいる。
「あそこにしよう」
「うん」
男の方が正志の隣の壁際の席を指さして、女の方がいそいそと男の後に従ってついてくる。
なんか犬ころみたい。
尻尾をちぎれんばかりに振って、無限の信頼を向けて付き従う忠実な飼い犬。
「っと………あの、コーヒー、下さい」
女の方がちらっとこちらを見遣った気がしたのに、慌てて目を逸らせて追加注文を頼んだ。いくら24時間カフェとは言え、長居しすぎるのはみっともないよなあ、かと言って、明日はまた勤務だし、これ以上体調崩したくないし、そう思った矢先に、ふいにその声が飛び込んできた。
「さゆ」
「ん?」
「あのさ」
「うん」
「今日で終わりってことにしないか?」
「え?」
え?
どこかで聞いたにしてもあまりにもそっくりなやりとりに、正志は思わず顔を上げた。
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