『よいこのすすめ』

segakiyui

文字の大きさ
27 / 74

27

しおりを挟む
「……え?」
 女の方は瞬きして、そっと眼鏡を押し上げる。無邪気な微笑がそのまま固まって、大きく見開いた目に不似合いだった。
 やべ。とんでもないところに出くわしちゃったかも。
 さりげなく視線を逸らせながら、正志はどきどきと走り出した心臓を押さえる。
 わー困った。
 かといって、今コーヒー頼んだところで、運ばれてこないのに立ったら店の人が困るだろうし、来たとたんにそれ持って席移動なんて、あまりにもあまりだろうし。
 悩んだあげくに、さりげなく立ち上がって、店の片隅に置かれているファッション雑誌を持ってくる。大判の華やかなグラビア雑誌、これならぱらぱら捲ってぼーっとしてても大丈夫だろう。
 持ち帰って最初のページを開いたとたんにコーヒーがやってきて、まずは一口と含んだとたんに、男の方がうっとうしそうに言った。
「あのさ、前にも言ったと思うけど、弁当とかうざいんだよ」
「あ」
 さゆ、と呼ばれた女の子が慌てたように正志側の椅子に置いた鞄に手をのせる。
「今どきどこにそんなの食べるところある? しかも友達と一緒だと他のやつらだって困るだろ」
「あ、の、うん、ごめん」
 何度か瞬きして恥ずかしそうに俯いた。
「郊外のフラワーパークだって聞いたから。さっちとか篠原くんや岡部くんが一緒だって、聞かなかった、から、二人だと、思って」
「だからそれは説明しただろ、急に来ることになったって。それにフラワーパークっても薔薇園の温室がある遊園地だって、ちょっと調べればわかるだろ」
 や、ちょっと待てよ。
 思わず正志はグラビア雑誌を見ながら眉を寄せた。
 じゃ、何か? こいつは二人で行くようなこと言っといて、しかも場所がどういうところだか説明もしないで出掛けて、それでこの子がお弁当作ってきたって文句言ってるの? そんなの、あんたの説明不足じゃんか。恋人じゃないの? デートに急に友人が来るってだけでも論外だろうに、そのうえ行き先を知らないって、どうしてそこでぶつぶつ言わなくちゃならないんだよ。
「ご、ごめん」
 さゆはなおも俯いてしまった気配、けれど途中で気を取り直したように、
「あの、だけど、急におしまいって……理由を知りたい、な」
 そらそうだよな。うん。
 正志は頷き、思い出してページを捲る。
「だからさあ、そんなこと一々説明しなくちゃなんないってのがうざいって」
 男が溜息をついてコーヒーを啜った。
「ちょっとは気配り? 配慮? そういうものがちゃんとできる女と付き合いたいんだよ、俺は」
「あ……うん」
 むかあっ。
 じゃあ何だよ、お前は。
 思わず正志は唇を尖らせる。
 こんな人がいっぱいいるところで、そんなふうに仮にも付き合ってる女をくそみそにやっつけて、お前のどこに気配りがあるんだ。そんなのうんと無神経じゃないか。ちっともこの子を大事にしてやってない……。
「あ」
 そうか、そういうことなのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...