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「……え?」
女の方は瞬きして、そっと眼鏡を押し上げる。無邪気な微笑がそのまま固まって、大きく見開いた目に不似合いだった。
やべ。とんでもないところに出くわしちゃったかも。
さりげなく視線を逸らせながら、正志はどきどきと走り出した心臓を押さえる。
わー困った。
かといって、今コーヒー頼んだところで、運ばれてこないのに立ったら店の人が困るだろうし、来たとたんにそれ持って席移動なんて、あまりにもあまりだろうし。
悩んだあげくに、さりげなく立ち上がって、店の片隅に置かれているファッション雑誌を持ってくる。大判の華やかなグラビア雑誌、これならぱらぱら捲ってぼーっとしてても大丈夫だろう。
持ち帰って最初のページを開いたとたんにコーヒーがやってきて、まずは一口と含んだとたんに、男の方がうっとうしそうに言った。
「あのさ、前にも言ったと思うけど、弁当とかうざいんだよ」
「あ」
さゆ、と呼ばれた女の子が慌てたように正志側の椅子に置いた鞄に手をのせる。
「今どきどこにそんなの食べるところある? しかも友達と一緒だと他のやつらだって困るだろ」
「あ、の、うん、ごめん」
何度か瞬きして恥ずかしそうに俯いた。
「郊外のフラワーパークだって聞いたから。さっちとか篠原くんや岡部くんが一緒だって、聞かなかった、から、二人だと、思って」
「だからそれは説明しただろ、急に来ることになったって。それにフラワーパークっても薔薇園の温室がある遊園地だって、ちょっと調べればわかるだろ」
や、ちょっと待てよ。
思わず正志はグラビア雑誌を見ながら眉を寄せた。
じゃ、何か? こいつは二人で行くようなこと言っといて、しかも場所がどういうところだか説明もしないで出掛けて、それでこの子がお弁当作ってきたって文句言ってるの? そんなの、あんたの説明不足じゃんか。恋人じゃないの? デートに急に友人が来るってだけでも論外だろうに、そのうえ行き先を知らないって、どうしてそこでぶつぶつ言わなくちゃならないんだよ。
「ご、ごめん」
さゆはなおも俯いてしまった気配、けれど途中で気を取り直したように、
「あの、だけど、急におしまいって……理由を知りたい、な」
そらそうだよな。うん。
正志は頷き、思い出してページを捲る。
「だからさあ、そんなこと一々説明しなくちゃなんないってのがうざいって」
男が溜息をついてコーヒーを啜った。
「ちょっとは気配り? 配慮? そういうものがちゃんとできる女と付き合いたいんだよ、俺は」
「あ……うん」
むかあっ。
じゃあ何だよ、お前は。
思わず正志は唇を尖らせる。
こんな人がいっぱいいるところで、そんなふうに仮にも付き合ってる女をくそみそにやっつけて、お前のどこに気配りがあるんだ。そんなのうんと無神経じゃないか。ちっともこの子を大事にしてやってない……。
「あ」
そうか、そういうことなのか。
女の方は瞬きして、そっと眼鏡を押し上げる。無邪気な微笑がそのまま固まって、大きく見開いた目に不似合いだった。
やべ。とんでもないところに出くわしちゃったかも。
さりげなく視線を逸らせながら、正志はどきどきと走り出した心臓を押さえる。
わー困った。
かといって、今コーヒー頼んだところで、運ばれてこないのに立ったら店の人が困るだろうし、来たとたんにそれ持って席移動なんて、あまりにもあまりだろうし。
悩んだあげくに、さりげなく立ち上がって、店の片隅に置かれているファッション雑誌を持ってくる。大判の華やかなグラビア雑誌、これならぱらぱら捲ってぼーっとしてても大丈夫だろう。
持ち帰って最初のページを開いたとたんにコーヒーがやってきて、まずは一口と含んだとたんに、男の方がうっとうしそうに言った。
「あのさ、前にも言ったと思うけど、弁当とかうざいんだよ」
「あ」
さゆ、と呼ばれた女の子が慌てたように正志側の椅子に置いた鞄に手をのせる。
「今どきどこにそんなの食べるところある? しかも友達と一緒だと他のやつらだって困るだろ」
「あ、の、うん、ごめん」
何度か瞬きして恥ずかしそうに俯いた。
「郊外のフラワーパークだって聞いたから。さっちとか篠原くんや岡部くんが一緒だって、聞かなかった、から、二人だと、思って」
「だからそれは説明しただろ、急に来ることになったって。それにフラワーパークっても薔薇園の温室がある遊園地だって、ちょっと調べればわかるだろ」
や、ちょっと待てよ。
思わず正志はグラビア雑誌を見ながら眉を寄せた。
じゃ、何か? こいつは二人で行くようなこと言っといて、しかも場所がどういうところだか説明もしないで出掛けて、それでこの子がお弁当作ってきたって文句言ってるの? そんなの、あんたの説明不足じゃんか。恋人じゃないの? デートに急に友人が来るってだけでも論外だろうに、そのうえ行き先を知らないって、どうしてそこでぶつぶつ言わなくちゃならないんだよ。
「ご、ごめん」
さゆはなおも俯いてしまった気配、けれど途中で気を取り直したように、
「あの、だけど、急におしまいって……理由を知りたい、な」
そらそうだよな。うん。
正志は頷き、思い出してページを捲る。
「だからさあ、そんなこと一々説明しなくちゃなんないってのがうざいって」
男が溜息をついてコーヒーを啜った。
「ちょっとは気配り? 配慮? そういうものがちゃんとできる女と付き合いたいんだよ、俺は」
「あ……うん」
むかあっ。
じゃあ何だよ、お前は。
思わず正志は唇を尖らせる。
こんな人がいっぱいいるところで、そんなふうに仮にも付き合ってる女をくそみそにやっつけて、お前のどこに気配りがあるんだ。そんなのうんと無神経じゃないか。ちっともこの子を大事にしてやってない……。
「あ」
そうか、そういうことなのか。
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