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思わず顔を上げた正志にどきりとしたようにさゆが顔を振り向けてきた。
眼鏡の向こうのかなり茶色がかった潤んだ瞳。零れてはいないけれど、もう今にも零れそうなほど涙がいっぱいで。
まずい。
慌てて目を逸らせてグラビアのページを繰る。
泣きそうじゃん。今にも泣き出しそうじゃん。相手の男は気づかないのかよ。
「ふん、ふーん……」
わけもなく頷き、添えられた記事を読み込むふりをした。
そうだ、無神経なんだ。
こんなところで、二人のことを、それも片方が片方に失望して振りましたなんてやることじゃない。ほんの少しでも好きだとか大切だとか、そういう気持ちが残っていたら、こんなところで別れ話なんか切り出したりしない。
「そっか……そういうことなのか」
だから、きっと涼子もそうだったんだ。あの話の時にはもうすっくり気持ちは決まってて、正志のことなんかこれっぽっちも思いの隅に残ってなくて、だからあんな人込みの中であんなあっさり別れ話を持ち出せた。
「は……はは」
思わず情けない笑いが零れた。
馬鹿だ、僕。
何だろう、どこかであの時ちゃんとうまく受け答えできたら、涼子とやり直せたんじゃないかと思っていた。今の今まで、それでももう一度、ちゃんと話をすれば、涼子だってわかってくれて、すぐに婚約し直すことは難しいけれど、それでももう一度付き合えるんじゃないかと思っていた。
けど、それは無理なんだな。
理由はどうあれ、涼子はもうずっと前に僕に気持ちは残してなくて、それを切り出すきっかけを待っていたってことなんだ、この隣の男のように。ベッドがどうとか弁当がどうとか、それはもう、最後のだめ押しを支えるためのもので。それは確かに理由だっただろうけど、けれどそれは「もう終わり」にくっついてるだけのもので。
「ま、とにかく、いろいろとうざいんだよ」
男はあっさりとまとめて、運ばれてきたコーヒーを一気に煽った。
「じゃあな、別れ際にごちゃごちゃするの、趣味じゃないし」
立ち上がる男にさゆは顔を上げない。
「……うん」
掠れた小さな声が応じた。
「今まで……ありがと」
「ああ、じゃ、な」
男はさっさとさゆを残してカフェを出て行く。横目で見ると、少し離れた向こうの席からも、やっぱりカップルみたいな二人連れが気になる顔で覗き込んでいて、正志と目が合うとそそくさと逸らせる。正志も慌てて視線をグラビアに戻しながら、自分もあんな顔で見られていたんだろうなと思った。
何だか痛々しくって胸が苦しい、そう思っていると、どやどやと入り口からグループがなだれ込んでくる。はっとしたように顔を上げたさゆの頬に伝わったものが光を跳ねて、怯えたように店の時計を見上げるのに正志を目を上げた。
午後11時半。
こんな時間にこんなとこに置き去られて、どうする気なんだろう。ちゃんと家に戻れるのかな。
「あ、あそこ空いてるみたいだな」
「おお」
ざわめきが近寄ってくるのに正志は気持ちを決めた。グラビア雑誌とコーヒーを持ち上げ、立ち上がって声をかける。
「あの」
「は、はい」
ごしごし、と慌てて頬を擦ったさゆが不安そうに見上げてくるのに、に、となるたけ害のなさそうな顔で笑いかけた。
「混んできたみたいだから、相席させてもらっていいですか?」
眼鏡の向こうのかなり茶色がかった潤んだ瞳。零れてはいないけれど、もう今にも零れそうなほど涙がいっぱいで。
まずい。
慌てて目を逸らせてグラビアのページを繰る。
泣きそうじゃん。今にも泣き出しそうじゃん。相手の男は気づかないのかよ。
「ふん、ふーん……」
わけもなく頷き、添えられた記事を読み込むふりをした。
そうだ、無神経なんだ。
こんなところで、二人のことを、それも片方が片方に失望して振りましたなんてやることじゃない。ほんの少しでも好きだとか大切だとか、そういう気持ちが残っていたら、こんなところで別れ話なんか切り出したりしない。
「そっか……そういうことなのか」
だから、きっと涼子もそうだったんだ。あの話の時にはもうすっくり気持ちは決まってて、正志のことなんかこれっぽっちも思いの隅に残ってなくて、だからあんな人込みの中であんなあっさり別れ話を持ち出せた。
「は……はは」
思わず情けない笑いが零れた。
馬鹿だ、僕。
何だろう、どこかであの時ちゃんとうまく受け答えできたら、涼子とやり直せたんじゃないかと思っていた。今の今まで、それでももう一度、ちゃんと話をすれば、涼子だってわかってくれて、すぐに婚約し直すことは難しいけれど、それでももう一度付き合えるんじゃないかと思っていた。
けど、それは無理なんだな。
理由はどうあれ、涼子はもうずっと前に僕に気持ちは残してなくて、それを切り出すきっかけを待っていたってことなんだ、この隣の男のように。ベッドがどうとか弁当がどうとか、それはもう、最後のだめ押しを支えるためのもので。それは確かに理由だっただろうけど、けれどそれは「もう終わり」にくっついてるだけのもので。
「ま、とにかく、いろいろとうざいんだよ」
男はあっさりとまとめて、運ばれてきたコーヒーを一気に煽った。
「じゃあな、別れ際にごちゃごちゃするの、趣味じゃないし」
立ち上がる男にさゆは顔を上げない。
「……うん」
掠れた小さな声が応じた。
「今まで……ありがと」
「ああ、じゃ、な」
男はさっさとさゆを残してカフェを出て行く。横目で見ると、少し離れた向こうの席からも、やっぱりカップルみたいな二人連れが気になる顔で覗き込んでいて、正志と目が合うとそそくさと逸らせる。正志も慌てて視線をグラビアに戻しながら、自分もあんな顔で見られていたんだろうなと思った。
何だか痛々しくって胸が苦しい、そう思っていると、どやどやと入り口からグループがなだれ込んでくる。はっとしたように顔を上げたさゆの頬に伝わったものが光を跳ねて、怯えたように店の時計を見上げるのに正志を目を上げた。
午後11時半。
こんな時間にこんなとこに置き去られて、どうする気なんだろう。ちゃんと家に戻れるのかな。
「あ、あそこ空いてるみたいだな」
「おお」
ざわめきが近寄ってくるのに正志は気持ちを決めた。グラビア雑誌とコーヒーを持ち上げ、立ち上がって声をかける。
「あの」
「は、はい」
ごしごし、と慌てて頬を擦ったさゆが不安そうに見上げてくるのに、に、となるたけ害のなさそうな顔で笑いかけた。
「混んできたみたいだから、相席させてもらっていいですか?」
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