『よいこのすすめ』

segakiyui

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 最低だ。
 がらがらがらがら。
 僕ってひょっとしてとんでもなく最低な男じゃないの?
 がらがらがらがら。
 三上病院の廊下をカートを押しながら、正志は落ち込みのどん底にいる。
「はぁ……」
 さゆと会ったのは昨日のことなのに、何だか数年もたったような気がする。
 あの後、カフェを飛び出したもののどうしようかなとぶらぶらしていたら、猛と三上が仲良さそうに肩を並べてやってきて、これから三上と出かけるから部屋を使っていいよ、と言われた。どこ行くの、と聞くと、うっすら赤くなった猛が聞くなよ、と応え、ドライブですよ、と三上が微笑んだ。そ
の満足そうな顔に、あーさいですか、どうぞいってらっしゃいと手を振って送りだして。
 けれど、結局、眠れなかった。
「あの後どうしたかなあ……」
 がやがや入ってきた連中を不安そうに見ていた顔とか、目を潤ませながらも最後まで泣かなかった顔とか、じっと正志を見上げていた顔とか、さゆの顔がとにかく頭の中にいっぱいだ。
「ちゃんと帰れたかなあ」
 心配して改めて正志が気づいたのは、自分がさゆの名前しか知らないってことだった。
 住所どころか、どのあたりに住んでいるのかさえも聞いていない。
「もう……会えないのかなあ」
 眼鏡を外すと人の気持ちが見えるだとか、涼子のことを言われたとか、酷いことを言ってしまったとか、あれこれ考えなくてはならないことはあるのに、朝出勤してきてから気になるのは、そればかりだ。
「会って……どうするってもんでも……ないけど」
 ぶつぶつ言いながらカートを押す。
 今日は郵便物は比較的少ないし、手が空いたら整形外科の理療を手伝っていいと言われているから、普段なら少しでも看護師の仕事に近いと嬉しくなるはずだったのだが。
「どうなるもんでも………僕は……何をしようって言うんだ……?」
 はあ、とまたため息をついて、エレベーターに乗る。扉が閉まりかけた矢先に、慌てたように飛び込んできた白衣に急いでボタンを押す。
「っ、ごめん、ありがと……あ、まーちゃん」
「だーかーら、それやめろって」
 猛がへらんと笑って腰に手を当て、いた、と呟いた。
「どうしたの?」
「え…あ、はは」
 引きつった顔で苦笑いしながら目を逸らせる。
「もう、やだ、って言ったのに…」
「あ……」
 猛が背けた首筋をじわっと染めていくから、ついつい正志も顔が熱くなった。
「……できんの、そんなので」
「仕事は仕事だもん、大丈夫」
 にこ、と猛は嬉しそうに笑った。
「それに今日は美保ちゃん退院するし」
「ああ、そうなんだ」
「うん、緩解も順調だし……よかったよ~」
「よかったな」
 微笑む猛に少し気持ちが楽になった。  
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