『よいこのすすめ』

39

　地下1階で探していた店はすぐに見つかった。
「いらっしゃいませ」
「あの、花束、作れますか？」
「はい、どのような……プレゼントでしょうか」
「今渡したいんですけど、えーと」
　正志は花屋に並ぶ色とりどりの花を見回した。
「物凄い数ですね…」
　茫然としてしまう。
　こん中から三上とかって選んでくるの？　
　もうそれって人間業じゃないような、と一瞬気分が萎えかけたが、桃花にふふん、と鼻で笑われたのを思い出して気合いを入れ直す。
「あの、女の子に、贈りたいんですけど、そのあまり」
　さゆの格好を思い出した。しなっとしたワンピ、きっと他にも花束ってもらうよね。帰りは誰かが送るのかもしれないけれど、あんまり荷物になっちゃいけないだろう。
「おっきくなくて、手にちょっと持てるぐらいの」
「ブーケですか？」
「え？」
「花嫁さんのブーケぐらい？」
「ブー…」
　それは早いよ、そう言いかけて、慌てて首を振った。
「違います、その、他にも花束もらうだろうし、こじんまりしたやつで、でもちょっと変わったのが」
「どんなお花がいいですか？」
「は？」
「薔薇や蘭より、チューリップとかカトレア…もありふれてますか？」
「あ、僕、よくわかんなくて………あ、あれ」
「ああ、アルストロメリア」
「は？　アルストロ……？？」
「インカの百合、ともいいますよ。あれの何色で？」
「百合、か」
　そりゃいいかも、とさゆの胸のコサージュを思い出した。ただの百合じゃなくて、ちょっと変わった花びらと鮮やかな色、斑点が入っていて可愛い。
「じゃあ、ピンクで」
「ピンクね……いいお花ですよ。花言葉は『やわらかな気配り』ですし」
「柔らかな……なるほど」
　ああ、何となく、さゆにぴったりって感じする。
　そう思うとほのかに湧き立つような嬉しさが広がって、そうか、花を買うのも意外に楽しいんだな、と正志は思った。
「はい、如何でしょう？」
「あ、いい感じ」
　値段もまあ悪くなくて、それを綺麗な薄く透けた青と白の紙とセロファンで包んでもらって、正志は急いで今度はエレベーターに飛び込んだ。