41 / 74
41
しおりを挟む
「今回出したのでは、あれが一番好きだから」
正志の差し出した花束を片手にさゆが進む。
「違うのを表紙にって言われたけれど、無理を通しました」
「そうなの」
「うん」
こくんと頷く横顔は、カフェで見かけた時とは別人のようにしっかりしていて、何だかきらきらしていてまばゆい気がする。
さっきのやつ、葵ちゃん、って誰?
いつから絵を描いていたの?
今何をしているの?
聞きたいことはいっぱいあるのに、側にさゆが居るのが奇跡に思えて、その奇跡だけでもう十分な気がして、正志はあちらこちらの絵の説明をしてくれるさゆの顔をじっと見つめた。
「これ、でしょう?」
「え……ああ、うん、これだ」
やがて一番奥の隅に飾られていた一枚をさゆが指差して、正志は立ち止まってゆっくり眺めた。
思っていたより大きい。さゆの半身ほどはある。背後が黒いビロードのような布がかかった壁だから、その絵がまるで窓のように見える。
「窓みたいだ」
「え?」
「ここから、体を出して、外を覗けそう」
「あ…」
さゆがまた目を見張って、正志は瞬きした。
「あ、ごめん、僕、ほんと絵のことって知らないから」
「ううん、ほんと、そうなんです。このタイトル、『窓』って言うんです」
「あ、そうなんだ?」
「はい」
さゆは嬉しそうに笑って正志を見上げ、それからふと小首を傾げた。
「二人目です」
「は?」
「これ、窓みたいだって言ってくれたの、二人目」
「……それ」
ふいにわかった。
「え?」
「一人目、さっきの人、でしょ」
「え」
さゆがびっくりした顔で瞬きする。
「違う?」
「ううん、そう。葵ちゃん…………でも、どうしてわかったんですか?」
「………なんとなく」
あいつなら、わかりそうだと思った。
正志の差し出した花束を片手にさゆが進む。
「違うのを表紙にって言われたけれど、無理を通しました」
「そうなの」
「うん」
こくんと頷く横顔は、カフェで見かけた時とは別人のようにしっかりしていて、何だかきらきらしていてまばゆい気がする。
さっきのやつ、葵ちゃん、って誰?
いつから絵を描いていたの?
今何をしているの?
聞きたいことはいっぱいあるのに、側にさゆが居るのが奇跡に思えて、その奇跡だけでもう十分な気がして、正志はあちらこちらの絵の説明をしてくれるさゆの顔をじっと見つめた。
「これ、でしょう?」
「え……ああ、うん、これだ」
やがて一番奥の隅に飾られていた一枚をさゆが指差して、正志は立ち止まってゆっくり眺めた。
思っていたより大きい。さゆの半身ほどはある。背後が黒いビロードのような布がかかった壁だから、その絵がまるで窓のように見える。
「窓みたいだ」
「え?」
「ここから、体を出して、外を覗けそう」
「あ…」
さゆがまた目を見張って、正志は瞬きした。
「あ、ごめん、僕、ほんと絵のことって知らないから」
「ううん、ほんと、そうなんです。このタイトル、『窓』って言うんです」
「あ、そうなんだ?」
「はい」
さゆは嬉しそうに笑って正志を見上げ、それからふと小首を傾げた。
「二人目です」
「は?」
「これ、窓みたいだって言ってくれたの、二人目」
「……それ」
ふいにわかった。
「え?」
「一人目、さっきの人、でしょ」
「え」
さゆがびっくりした顔で瞬きする。
「違う?」
「ううん、そう。葵ちゃん…………でも、どうしてわかったんですか?」
「………なんとなく」
あいつなら、わかりそうだと思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる