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「御注文お決まりですかぁ?」
「わっ」
ふいにすぐ側から声が響いて、正志は飛び上がりそうになった。浮いた手を急いで引っ込めながら振り向いて、ぽかんと口を開ける。
「桃花……?」
「あれ?」
黒のワンピースに水色縞のエプロンという出で立ちのウェイトレスは、つんつん金髪が茶色のショートになっているだけで、確かに桃花だ。
「正志くん」
にこぉっ、と可愛らしく笑った唇はやっぱり深紅だが、色は押さえ目になっている。
「なぁんだ、いらっしゃいませぇ」
「何、ここで……働いてんの?」
呆気にとられたままきょろきょろと見回すと、ううん、と相手は軽く首を振った。
「アルバイト。本業は歌手だもん……売れてないけど」
「え? ……じゃあ、あれって本業?」
「失礼だなあ。立派に本業です」
ぷくんと膨れてみせたが、すぐに側のさゆに笑いかけた。
「こんにちは、正志くんの彼女?」
「は?」
さゆが驚いた顔で瞬きする。
「ち、違うって!」
正志の頭を一瞬受付の男が掠めた。葵ちゃんと呼んでいる口ぶりからかなり親しいのだろうし、ひょっとしたら付き合っているかもしれない、妙な誤解をさせるわけにはいかないと思ったのだが、さ
ゆが強ばった顔で見返してきて口を噤む。
「え、だって。今仲良さそーに手繋いでたじゃん」
「あ、あれはっ」
「……あれは」
ひょい、とさゆが急に顔を桃花に振り向けた。
「あれは、高岳さんがメニューを見ようとした時に、私の手が邪魔だったからのけようとしたんですよ」
「え?」
呆然とする正志の前で、にこり、と笑って振り返る。
「ね?」
「いや、それ」
「なんだ、そうなの?」
桃花がほっとしたような口調で割り込んだ。
「よかったー。正志くんに彼女居るのかと思ったぁ」
「え?」
それはどういう意味、と思わず桃花の方に正志はまた振り向く。
「え、居るの?」
「え、いないけど」
「なら、もう少ししたら時間終わるの。待ち合わせして、ちょっと相談乗って?」
「は?」
「私はいいですよ、高岳さん」
さゆがこくんと頷いて正志を見つめる。
「ご飯食べたら、絵画展の方に戻りますから」
おいおい。何だか僕を無視して話が進んでませんか。
「ね、正志くん」
「ね、高岳さん」
二人から同時ににっこり笑われて。
「う、うん」
正志はおどおどと頷いた。
「わっ」
ふいにすぐ側から声が響いて、正志は飛び上がりそうになった。浮いた手を急いで引っ込めながら振り向いて、ぽかんと口を開ける。
「桃花……?」
「あれ?」
黒のワンピースに水色縞のエプロンという出で立ちのウェイトレスは、つんつん金髪が茶色のショートになっているだけで、確かに桃花だ。
「正志くん」
にこぉっ、と可愛らしく笑った唇はやっぱり深紅だが、色は押さえ目になっている。
「なぁんだ、いらっしゃいませぇ」
「何、ここで……働いてんの?」
呆気にとられたままきょろきょろと見回すと、ううん、と相手は軽く首を振った。
「アルバイト。本業は歌手だもん……売れてないけど」
「え? ……じゃあ、あれって本業?」
「失礼だなあ。立派に本業です」
ぷくんと膨れてみせたが、すぐに側のさゆに笑いかけた。
「こんにちは、正志くんの彼女?」
「は?」
さゆが驚いた顔で瞬きする。
「ち、違うって!」
正志の頭を一瞬受付の男が掠めた。葵ちゃんと呼んでいる口ぶりからかなり親しいのだろうし、ひょっとしたら付き合っているかもしれない、妙な誤解をさせるわけにはいかないと思ったのだが、さ
ゆが強ばった顔で見返してきて口を噤む。
「え、だって。今仲良さそーに手繋いでたじゃん」
「あ、あれはっ」
「……あれは」
ひょい、とさゆが急に顔を桃花に振り向けた。
「あれは、高岳さんがメニューを見ようとした時に、私の手が邪魔だったからのけようとしたんですよ」
「え?」
呆然とする正志の前で、にこり、と笑って振り返る。
「ね?」
「いや、それ」
「なんだ、そうなの?」
桃花がほっとしたような口調で割り込んだ。
「よかったー。正志くんに彼女居るのかと思ったぁ」
「え?」
それはどういう意味、と思わず桃花の方に正志はまた振り向く。
「え、居るの?」
「え、いないけど」
「なら、もう少ししたら時間終わるの。待ち合わせして、ちょっと相談乗って?」
「は?」
「私はいいですよ、高岳さん」
さゆがこくんと頷いて正志を見つめる。
「ご飯食べたら、絵画展の方に戻りますから」
おいおい。何だか僕を無視して話が進んでませんか。
「ね、正志くん」
「ね、高岳さん」
二人から同時ににっこり笑われて。
「う、うん」
正志はおどおどと頷いた。
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