43 / 74
43
しおりを挟む
「御注文お決まりですかぁ?」
「わっ」
ふいにすぐ側から声が響いて、正志は飛び上がりそうになった。浮いた手を急いで引っ込めながら振り向いて、ぽかんと口を開ける。
「桃花……?」
「あれ?」
黒のワンピースに水色縞のエプロンという出で立ちのウェイトレスは、つんつん金髪が茶色のショートになっているだけで、確かに桃花だ。
「正志くん」
にこぉっ、と可愛らしく笑った唇はやっぱり深紅だが、色は押さえ目になっている。
「なぁんだ、いらっしゃいませぇ」
「何、ここで……働いてんの?」
呆気にとられたままきょろきょろと見回すと、ううん、と相手は軽く首を振った。
「アルバイト。本業は歌手だもん……売れてないけど」
「え? ……じゃあ、あれって本業?」
「失礼だなあ。立派に本業です」
ぷくんと膨れてみせたが、すぐに側のさゆに笑いかけた。
「こんにちは、正志くんの彼女?」
「は?」
さゆが驚いた顔で瞬きする。
「ち、違うって!」
正志の頭を一瞬受付の男が掠めた。葵ちゃんと呼んでいる口ぶりからかなり親しいのだろうし、ひょっとしたら付き合っているかもしれない、妙な誤解をさせるわけにはいかないと思ったのだが、さ
ゆが強ばった顔で見返してきて口を噤む。
「え、だって。今仲良さそーに手繋いでたじゃん」
「あ、あれはっ」
「……あれは」
ひょい、とさゆが急に顔を桃花に振り向けた。
「あれは、高岳さんがメニューを見ようとした時に、私の手が邪魔だったからのけようとしたんですよ」
「え?」
呆然とする正志の前で、にこり、と笑って振り返る。
「ね?」
「いや、それ」
「なんだ、そうなの?」
桃花がほっとしたような口調で割り込んだ。
「よかったー。正志くんに彼女居るのかと思ったぁ」
「え?」
それはどういう意味、と思わず桃花の方に正志はまた振り向く。
「え、居るの?」
「え、いないけど」
「なら、もう少ししたら時間終わるの。待ち合わせして、ちょっと相談乗って?」
「は?」
「私はいいですよ、高岳さん」
さゆがこくんと頷いて正志を見つめる。
「ご飯食べたら、絵画展の方に戻りますから」
おいおい。何だか僕を無視して話が進んでませんか。
「ね、正志くん」
「ね、高岳さん」
二人から同時ににっこり笑われて。
「う、うん」
正志はおどおどと頷いた。
「わっ」
ふいにすぐ側から声が響いて、正志は飛び上がりそうになった。浮いた手を急いで引っ込めながら振り向いて、ぽかんと口を開ける。
「桃花……?」
「あれ?」
黒のワンピースに水色縞のエプロンという出で立ちのウェイトレスは、つんつん金髪が茶色のショートになっているだけで、確かに桃花だ。
「正志くん」
にこぉっ、と可愛らしく笑った唇はやっぱり深紅だが、色は押さえ目になっている。
「なぁんだ、いらっしゃいませぇ」
「何、ここで……働いてんの?」
呆気にとられたままきょろきょろと見回すと、ううん、と相手は軽く首を振った。
「アルバイト。本業は歌手だもん……売れてないけど」
「え? ……じゃあ、あれって本業?」
「失礼だなあ。立派に本業です」
ぷくんと膨れてみせたが、すぐに側のさゆに笑いかけた。
「こんにちは、正志くんの彼女?」
「は?」
さゆが驚いた顔で瞬きする。
「ち、違うって!」
正志の頭を一瞬受付の男が掠めた。葵ちゃんと呼んでいる口ぶりからかなり親しいのだろうし、ひょっとしたら付き合っているかもしれない、妙な誤解をさせるわけにはいかないと思ったのだが、さ
ゆが強ばった顔で見返してきて口を噤む。
「え、だって。今仲良さそーに手繋いでたじゃん」
「あ、あれはっ」
「……あれは」
ひょい、とさゆが急に顔を桃花に振り向けた。
「あれは、高岳さんがメニューを見ようとした時に、私の手が邪魔だったからのけようとしたんですよ」
「え?」
呆然とする正志の前で、にこり、と笑って振り返る。
「ね?」
「いや、それ」
「なんだ、そうなの?」
桃花がほっとしたような口調で割り込んだ。
「よかったー。正志くんに彼女居るのかと思ったぁ」
「え?」
それはどういう意味、と思わず桃花の方に正志はまた振り向く。
「え、居るの?」
「え、いないけど」
「なら、もう少ししたら時間終わるの。待ち合わせして、ちょっと相談乗って?」
「は?」
「私はいいですよ、高岳さん」
さゆがこくんと頷いて正志を見つめる。
「ご飯食べたら、絵画展の方に戻りますから」
おいおい。何だか僕を無視して話が進んでませんか。
「ね、正志くん」
「ね、高岳さん」
二人から同時ににっこり笑われて。
「う、うん」
正志はおどおどと頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる