『よいこのすすめ』

segakiyui

文字の大きさ
44 / 74

44

しおりを挟む
 正直言って、運ばれてきた『しめじどぉんとスパゲッティ』の味なんか、正志にはほとんどわからなかった。
 目の前には『ぎゅっと愛情トマトリングイネ』を俯きがちに黙々と片付けるさゆがいて、こちらは明らかに沈んだ様子だったし、脳裏には久しぶりにあった桃花の、それこそ大輪の薔薇みたいな晴れ
やかな笑顔がぐるぐる回っていて。
 相談、って何だろう。
 考えないでおこうと思うのに、ついついそれが正志の頭を一杯にする。
「さっきの」
「…え?」
「あ、いえ」
 考え事をしていたせいで反応が遅れた正志にさゆが急いで首を振る。
「さっきの、何?」
「……さっきの、人……お友達ですか?」
「あ、えーと、その」
 桃花には正志が一方的にどきどきしただけだと言えばそうで、お友達、にもなっていないかもしれない。
「まあ、そう、かも」
「付き合ってる、とか」
「あ、いや」
 しめじを突き刺して集めながら正志は首を振った。
「会ったのも久しぶり……って言うほども時間が空いてないのか」
「そう、ですか」
「……何?」
「いえ、あの……っ」
 はっとした顔で目を上げたさゆが一瞬ずれた眼鏡の上から正志を見つめ、目を見開く。それからうろたえた顔で眼鏡を押し上げて俯き、ことさらフォークでパスタを掻き寄せた。
「……よかったですね」
「え?」
「いえ、何か相談事、あるって………きっと正志さん頼りにされてるんですよ」
「そうかな…」
 けどね、前に会ったときはもうほんと僕はだめだめでさ、何やっても彼女の合格点にならなかったんだよね、と続けながら、ふいに奇妙な違和感に気づく。
「…なんで」
「え?」
「………なんで、僕がよかったって?」
「……え?」
 きょとんと顔を上げたさゆが瞬きして見つめ返し、やがて見る見る赤くなる。
「あ…」
「僕、そんなに桃花に会って嬉しそうだった? それとも…………」
 ごくんと唾を呑んでさゆの目を見返す。
「何か、見えた……?」
「ごめ……なさい」
 赤くなった頬が一気に血の気を抜かれたように白くなっていった。
「あの、見るつもりじゃなくて」
 不安そうに瞬いた瞳が必死に笑おうとして、笑い損ねて潤んで俯く。
「眼鏡ずれて……でも、言い訳ですね……ごめんなさい……」
「見えたんだ、何か」
「……はい」
 肩を竦めたさゆが、高岳さんがあの人と一緒に居たいと思ってるって、そうわかりました、と掠れた声で呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...