『よいこのすすめ』

segakiyui

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 正直言って、運ばれてきた『しめじどぉんとスパゲッティ』の味なんか、正志にはほとんどわからなかった。
 目の前には『ぎゅっと愛情トマトリングイネ』を俯きがちに黙々と片付けるさゆがいて、こちらは明らかに沈んだ様子だったし、脳裏には久しぶりにあった桃花の、それこそ大輪の薔薇みたいな晴れ
やかな笑顔がぐるぐる回っていて。
 相談、って何だろう。
 考えないでおこうと思うのに、ついついそれが正志の頭を一杯にする。
「さっきの」
「…え?」
「あ、いえ」
 考え事をしていたせいで反応が遅れた正志にさゆが急いで首を振る。
「さっきの、何?」
「……さっきの、人……お友達ですか?」
「あ、えーと、その」
 桃花には正志が一方的にどきどきしただけだと言えばそうで、お友達、にもなっていないかもしれない。
「まあ、そう、かも」
「付き合ってる、とか」
「あ、いや」
 しめじを突き刺して集めながら正志は首を振った。
「会ったのも久しぶり……って言うほども時間が空いてないのか」
「そう、ですか」
「……何?」
「いえ、あの……っ」
 はっとした顔で目を上げたさゆが一瞬ずれた眼鏡の上から正志を見つめ、目を見開く。それからうろたえた顔で眼鏡を押し上げて俯き、ことさらフォークでパスタを掻き寄せた。
「……よかったですね」
「え?」
「いえ、何か相談事、あるって………きっと正志さん頼りにされてるんですよ」
「そうかな…」
 けどね、前に会ったときはもうほんと僕はだめだめでさ、何やっても彼女の合格点にならなかったんだよね、と続けながら、ふいに奇妙な違和感に気づく。
「…なんで」
「え?」
「………なんで、僕がよかったって?」
「……え?」
 きょとんと顔を上げたさゆが瞬きして見つめ返し、やがて見る見る赤くなる。
「あ…」
「僕、そんなに桃花に会って嬉しそうだった? それとも…………」
 ごくんと唾を呑んでさゆの目を見返す。
「何か、見えた……?」
「ごめ……なさい」
 赤くなった頬が一気に血の気を抜かれたように白くなっていった。
「あの、見るつもりじゃなくて」
 不安そうに瞬いた瞳が必死に笑おうとして、笑い損ねて潤んで俯く。
「眼鏡ずれて……でも、言い訳ですね……ごめんなさい……」
「見えたんだ、何か」
「……はい」
 肩を竦めたさゆが、高岳さんがあの人と一緒に居たいと思ってるって、そうわかりました、と掠れた声で呟いた。
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