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とっさに飛び出しかけたのを制した正志の耳に、しゃくりあげながら泣き続ける桃花の声が届く。
『あた、あたしっ……しつ……失恋……しちゃいました…っ』
『……そうですね』
『酷い……よぉっ』
『………』
『わあああんっっ』
それから十分ほども泣いていただろうか。
やがて泣き声が少しずつおさまって、くすんくすんと洟を啜り上げる音がして、それでも、それ以外の音は一切しなかった。
三上はずっと机に座ったまま。
桃花はひょっとしたら座り込んで泣いてるまま。
二人はそこから動かない。
三上はそこから立ち上がらない。
だから正志も動けない、いや、動いては駄目なのだとわかった。
これ、は正志には関係がない、のだ。
悲しくても残酷でも、それが現実なのだ。
『……帰り、ます』
『……はい』
『もう……次のコンサート、来ません』
『そうですか』
『……子ども達に約束したけど』
『……』
『辛くて……来れない……』
『………みんなには僕が謝っておきましょう』
静かに、けれど突き放すように三上が言い切った。
『っ…く』
『さようなら』
『……ひどい人ですね、三上さん』
『……』
『女の子、泣かせて』
悔しげな捨て台詞に微かに三上の声が笑う。
『僕は未熟な人間ですんで』
かたり、とようやく椅子から立った音がした。
『一つのことしかできないんですよ』
『一つのこと?』
『大切な人を泣かせない』
ごそごそと部屋を出ていく音がした。ばたりと重く閉まったドアから数分、
『高岳くん』
「………すみません」
出ていってすぐに正志は謝ってしまった。
「何が」
元通りに書類を繰りながら三上は平然としている。
「あの、僕…………猛、泣かせちゃいました」
「っっ!」
ばさばさっと書類を落として、三上が凄まじい勢いで立ち上がった。
『あた、あたしっ……しつ……失恋……しちゃいました…っ』
『……そうですね』
『酷い……よぉっ』
『………』
『わあああんっっ』
それから十分ほども泣いていただろうか。
やがて泣き声が少しずつおさまって、くすんくすんと洟を啜り上げる音がして、それでも、それ以外の音は一切しなかった。
三上はずっと机に座ったまま。
桃花はひょっとしたら座り込んで泣いてるまま。
二人はそこから動かない。
三上はそこから立ち上がらない。
だから正志も動けない、いや、動いては駄目なのだとわかった。
これ、は正志には関係がない、のだ。
悲しくても残酷でも、それが現実なのだ。
『……帰り、ます』
『……はい』
『もう……次のコンサート、来ません』
『そうですか』
『……子ども達に約束したけど』
『……』
『辛くて……来れない……』
『………みんなには僕が謝っておきましょう』
静かに、けれど突き放すように三上が言い切った。
『っ…く』
『さようなら』
『……ひどい人ですね、三上さん』
『……』
『女の子、泣かせて』
悔しげな捨て台詞に微かに三上の声が笑う。
『僕は未熟な人間ですんで』
かたり、とようやく椅子から立った音がした。
『一つのことしかできないんですよ』
『一つのこと?』
『大切な人を泣かせない』
ごそごそと部屋を出ていく音がした。ばたりと重く閉まったドアから数分、
『高岳くん』
「………すみません」
出ていってすぐに正志は謝ってしまった。
「何が」
元通りに書類を繰りながら三上は平然としている。
「あの、僕…………猛、泣かせちゃいました」
「っっ!」
ばさばさっと書類を落として、三上が凄まじい勢いで立ち上がった。
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