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怖いよー怖いよー怖いよー。
「事と次第によっては」
怖いってば、三上さん、目の色がすんごく怖いって。
「この家から無事に出られると思わない方が」
やんわり脅しをかけつつ、その実、やる気満々でテーブルの向こうからねめつけてくる三上を前に、正志は正直怯え切っている。
猛が泣いた。
それを聞いた瞬間に三上が取った行動というのは、正志を引っ掴み、事務局に連絡を入れ、あらんかぎりの早さで猛が一人でうだうだしているはずの正志の家に乗り込むということだった。
がんがん車をぶっ飛ばす三上は、頼みますから三上さん、落ち着いて、僕何もしてないです、ぎゃー、と叫びまくる正志を完全に無視したばかりか、家になぜか猛がいないと知ると、殺気をまき散らして正志を軟禁状態だ。
「だから……よくわかんないんですって」
「始めから話して下さい」
「話しますけど、なんであんたまで敬語?」
「へたなことばを使いたくありません」
「は?」
「ことばに刺激されてとんでもないことをしそうですから」
「は、はは」
なるほど、敬語使ってるから大人しくしてられるってこと。
やばいじゃん!
三上がぶち切れたところはまだ見たことがないが、この異常な冷静さをベースにぶち切れられてしまっては、まさにとんでもないことをされそうだと正志は冷や汗をかいた。
けど、これだけ猛のことが大事なんだなあ。
こんなかっこいい男がなりふり構わず焦っちゃって。
少し微笑ましいかも、とうっすら笑ってしまうと、三上が目をわずかに細めた。
「薄気味悪い笑い方すると」
「すると?」
「殴ります」
「わあ」
無表情でこぶしを固めないでよ、怖いから。
もしこれで、正志が今危惧しているように、猛が正志に「性的な興味」を抱いているかもしれないとわかったら。
「……殺されるかも」
「は?」
「いや、あのですね」
きゅ、と軽く三上が手に力をいれたのに慌てて正志は朝の一件を話す。
「……でですね、コーヒーが当たったからやけどしてないかと見ようとしただけなんですよ」
普通やるでしょ、身内なら、ほら、大丈夫とか掴んだり確認したりするでしょう?
必死に三上に同意を求めるが、相手は険しい顔で正志を睨んでいる。
「……それで嫌がった、と。他には?」
訊問って言いませんか、これ。
そう思いつつ、正志はああ、これもあるかも、と最近くっついてこなくなったんですよ、と付け加えた。
「くっついてこない?」
「飯作ってると、よくまーちゃん、お腹減ったー、とかのしかかられたんだけど」
「のしかかられた……」
「そういうのがなくなったなあ。そうそう、パジャマで飯食ってたのに、最近必ず着替えるし」
「………」
三上が一層眉を寄せ、やがて携帯を取り出した。
「?」
「………ああ、もしもし? 大沢不動産ですか」
「……ふどうさん?」
「三上です……ええ、先日の物件、購入します。はい、進めて下さい、手続きはまた後で」
「あの……」
購入って何を、と尋ねると、三上はしらっとした顔で応えた。
「マンションです」
「は?」
「猛、と同居します」
「はぁあっ?」
「同居ぉっ?」
正志の声に素頓狂な声が玄関の方から重なった。振り向くとそこに、コンビニの袋にサンドイッチを詰め込んだ猛が茫然とした顔で立ちすくんでいた。
「事と次第によっては」
怖いってば、三上さん、目の色がすんごく怖いって。
「この家から無事に出られると思わない方が」
やんわり脅しをかけつつ、その実、やる気満々でテーブルの向こうからねめつけてくる三上を前に、正志は正直怯え切っている。
猛が泣いた。
それを聞いた瞬間に三上が取った行動というのは、正志を引っ掴み、事務局に連絡を入れ、あらんかぎりの早さで猛が一人でうだうだしているはずの正志の家に乗り込むということだった。
がんがん車をぶっ飛ばす三上は、頼みますから三上さん、落ち着いて、僕何もしてないです、ぎゃー、と叫びまくる正志を完全に無視したばかりか、家になぜか猛がいないと知ると、殺気をまき散らして正志を軟禁状態だ。
「だから……よくわかんないんですって」
「始めから話して下さい」
「話しますけど、なんであんたまで敬語?」
「へたなことばを使いたくありません」
「は?」
「ことばに刺激されてとんでもないことをしそうですから」
「は、はは」
なるほど、敬語使ってるから大人しくしてられるってこと。
やばいじゃん!
三上がぶち切れたところはまだ見たことがないが、この異常な冷静さをベースにぶち切れられてしまっては、まさにとんでもないことをされそうだと正志は冷や汗をかいた。
けど、これだけ猛のことが大事なんだなあ。
こんなかっこいい男がなりふり構わず焦っちゃって。
少し微笑ましいかも、とうっすら笑ってしまうと、三上が目をわずかに細めた。
「薄気味悪い笑い方すると」
「すると?」
「殴ります」
「わあ」
無表情でこぶしを固めないでよ、怖いから。
もしこれで、正志が今危惧しているように、猛が正志に「性的な興味」を抱いているかもしれないとわかったら。
「……殺されるかも」
「は?」
「いや、あのですね」
きゅ、と軽く三上が手に力をいれたのに慌てて正志は朝の一件を話す。
「……でですね、コーヒーが当たったからやけどしてないかと見ようとしただけなんですよ」
普通やるでしょ、身内なら、ほら、大丈夫とか掴んだり確認したりするでしょう?
必死に三上に同意を求めるが、相手は険しい顔で正志を睨んでいる。
「……それで嫌がった、と。他には?」
訊問って言いませんか、これ。
そう思いつつ、正志はああ、これもあるかも、と最近くっついてこなくなったんですよ、と付け加えた。
「くっついてこない?」
「飯作ってると、よくまーちゃん、お腹減ったー、とかのしかかられたんだけど」
「のしかかられた……」
「そういうのがなくなったなあ。そうそう、パジャマで飯食ってたのに、最近必ず着替えるし」
「………」
三上が一層眉を寄せ、やがて携帯を取り出した。
「?」
「………ああ、もしもし? 大沢不動産ですか」
「……ふどうさん?」
「三上です……ええ、先日の物件、購入します。はい、進めて下さい、手続きはまた後で」
「あの……」
購入って何を、と尋ねると、三上はしらっとした顔で応えた。
「マンションです」
「は?」
「猛、と同居します」
「はぁあっ?」
「同居ぉっ?」
正志の声に素頓狂な声が玄関の方から重なった。振り向くとそこに、コンビニの袋にサンドイッチを詰め込んだ猛が茫然とした顔で立ちすくんでいた。
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