『よいこのすすめ』

segakiyui

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「あのですねー」
 何か微妙な気配になってきたのに、正志はあらぬ方を向いたまま続けた。
「頻度とか回数とか、どーでもいいけど」
「どうでもよくない」
「だって、まーちゃん、俺にしてみればっ」
「だーかーらっ」
 思わず殺気立ったのをさすがに気づいたのだろう、黙り込んだ二人の方を振り向く。
「とりあえず、三上さんは納得しました? 猛、僕のことが好きなわけじゃない」
「……ああ」
「猛もわかった? ただ、三上さんはお前と一緒に居たいんだよ」
「う…ん」
「ってことで」
 椅子から立ち上がって、じろりと二人を睨み付ける。
「僕は完全に巻き込まれて迷惑かぶったってこと、わかりますよね?」
「……不本意だが」
「ごめん……まーちゃん」
「……なら」
 ふう、と大きく息を吐いた。
「今度めいっぱい奢って下さいね。……じゃ、ま、そういうことで」
 ちょっと出掛けてきますね、と玄関へ向かいかけて、あ、そうだ、と思いついて振り返り、三上の首に縋りつきかけている猛を見つけてまたため息をつく。
「三上さん」
「うん?」
「僕、猛と三上さんの同居、賛成ですから。三上さんならこいつをちゃんと面倒みてくれますよね?」
「任せてくれ」
「鷹…」
「じゃ、後はよろしく~」
 嬉しそうに笑った猛に、世間体とか外聞とかそういうあれやこれやも、三上はしたたかにタフに切り抜けていってしまうんだろうな、と苦笑しながら、正志は家を出た。

「いいよなー」
 夕暮れにかかった街をのろのろと歩きながら、正志は溜め息を重ねていく。
「好きな人が居て、好きな人と一緒に暮らして……」
 なんか嬉しそうで幸せそうでいいよね?
「で、僕ときたら」
 涼子に振られて、桃花に当て馬にされて、さゆには葵ちゃんとか言うのがいるし?
「……何か悪いことしたか、僕?」
 頑張ってるわりには微妙にずっと報われてないよな。
 駅前のカフェで時間を潰すか、けれど今夜あのまま居るって可能性もなきにしもあらず、じゃあ24時間カフェがいいかなと思って、さゆのことを改めて思い出す。
「駅前の文具店……『レイン』シリーズ、か」
 望みとか未練とか、わけのわからぬ半端で物寂しい気持ちって言うのは、なんかいい季節になってきているのに自分一人で歩いてなくちゃならないからかもしれない。
 そう思いながら、正志は駅前ビルの文具店を目指した。
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