『よいこのすすめ』

segakiyui

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 駅前ビルの文具店は最上階にあって、隣が本屋。文具店とはいえ、卓上インテリアから小さなタペストリー、特殊な色画用紙、多種類のペンや便箋、ミニスタンプまで置いてあり、色とりどり様々な品揃え、店名も『COLORS』と言う。
「女の子がいっぱい……」
 どこからこれほど湧いてきたんだと言うぐらい小学生から大学生っぽい女性、社会人らしい服装の女性も居る。
「…これはちょっと入りにくいかなあ」
 それでもあれこれ苦労してようやく手に入れた情報、しかも家にはまだ帰れそうにないと諦めて、正志は隅からそっと店に入り込んだ。
 壁に作りつけの棚が3~4段あり、上の方には小物入れやブックエンド、中段から下は色とりどりの便箋のコーナーで、意匠を凝らした様々な色や形のカードもある。
「あ」
 その中の一枚、見覚えがある青のカードを取り上げて、それが羽ばたく鳥の形をしたミニカードを半透明の封筒に入れて送るものだと気づく。こんなのがあるんだ、と裏を返してどきりとした。
『Sayu Morino』
「さゆのだ」
 ポストカードとかにも絵を使ってもらってるんだ、頑張ってるんだなあ。
 頷きながらその隣を見てどきりとする。
『Office 葵』
「葵……って葵ちゃん?」
 あの男だよな? さゆがしがみついて泣いていた。受付でさゆを呼び捨てにして笑っていた。
「そっか」
 あいつのところで描いてるんだ。ってか、あいつと一緒に仕事してるんだ?
 気合い十分とは言えなかったが、それでも結構自分が期待してやってきたのだと思い知らされた気がして、正志は小さく溜息をついた。電話番号は書いてあるが、繋がるのは葵という男の声なのだろうと思うとさすがに気分が萎えてくる。
 未練がましいと思いつつも、青い鳥に描かれた空はいつか見た『窓』の一部を切り取ったもののようで、とりあえずこれだけでも買おうかと向きを変えかけた瞬間、慌てて身を翻した。
「……っ」
 涼子。
 急いで棚の影に入り込みながら横目で伺う。
 間違いない。
 真後ろの入り口から友達と笑いながら入ってきたのは、パールピンクのスーツの涼子だ。
「んー、どこにあるの、それ」
「こっち……ほら、『レイン』シリーズ」
「あ、かっこいい~」
 正志が居るのと一筋隔てた並びの棚の前に入っていきながらはしゃいだ声が聞こえた。機嫌のいい時によく聞いた甘い声。
 ずきん、と胸の奥が痛む。
「でしょ、なんかいいよね、このシルエットみたいなの」
「男の人の肩? 首? あっち向いてるの? 微妙な感じだね」
「知るかよ、みたいな感じがあるよね~。クールだけど、ちょっと甘えてるって感じ」
「やっぱそそられるよね、そういうのって」
「……ふふ」
 連れが微かに含み笑いをした。
「なあに?」
「結局正志くん、振っちゃったんだ?」
「え?」
 は?
 突然自分の名前が響いて正志は固まった。
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