64 / 74
64
しおりを挟む
駅前ビルの文具店は最上階にあって、隣が本屋。文具店とはいえ、卓上インテリアから小さなタペストリー、特殊な色画用紙、多種類のペンや便箋、ミニスタンプまで置いてあり、色とりどり様々な品揃え、店名も『COLORS』と言う。
「女の子がいっぱい……」
どこからこれほど湧いてきたんだと言うぐらい小学生から大学生っぽい女性、社会人らしい服装の女性も居る。
「…これはちょっと入りにくいかなあ」
それでもあれこれ苦労してようやく手に入れた情報、しかも家にはまだ帰れそうにないと諦めて、正志は隅からそっと店に入り込んだ。
壁に作りつけの棚が3~4段あり、上の方には小物入れやブックエンド、中段から下は色とりどりの便箋のコーナーで、意匠を凝らした様々な色や形のカードもある。
「あ」
その中の一枚、見覚えがある青のカードを取り上げて、それが羽ばたく鳥の形をしたミニカードを半透明の封筒に入れて送るものだと気づく。こんなのがあるんだ、と裏を返してどきりとした。
『Sayu Morino』
「さゆのだ」
ポストカードとかにも絵を使ってもらってるんだ、頑張ってるんだなあ。
頷きながらその隣を見てどきりとする。
『Office 葵』
「葵……って葵ちゃん?」
あの男だよな? さゆがしがみついて泣いていた。受付でさゆを呼び捨てにして笑っていた。
「そっか」
あいつのところで描いてるんだ。ってか、あいつと一緒に仕事してるんだ?
気合い十分とは言えなかったが、それでも結構自分が期待してやってきたのだと思い知らされた気がして、正志は小さく溜息をついた。電話番号は書いてあるが、繋がるのは葵という男の声なのだろうと思うとさすがに気分が萎えてくる。
未練がましいと思いつつも、青い鳥に描かれた空はいつか見た『窓』の一部を切り取ったもののようで、とりあえずこれだけでも買おうかと向きを変えかけた瞬間、慌てて身を翻した。
「……っ」
涼子。
急いで棚の影に入り込みながら横目で伺う。
間違いない。
真後ろの入り口から友達と笑いながら入ってきたのは、パールピンクのスーツの涼子だ。
「んー、どこにあるの、それ」
「こっち……ほら、『レイン』シリーズ」
「あ、かっこいい~」
正志が居るのと一筋隔てた並びの棚の前に入っていきながらはしゃいだ声が聞こえた。機嫌のいい時によく聞いた甘い声。
ずきん、と胸の奥が痛む。
「でしょ、なんかいいよね、このシルエットみたいなの」
「男の人の肩? 首? あっち向いてるの? 微妙な感じだね」
「知るかよ、みたいな感じがあるよね~。クールだけど、ちょっと甘えてるって感じ」
「やっぱそそられるよね、そういうのって」
「……ふふ」
連れが微かに含み笑いをした。
「なあに?」
「結局正志くん、振っちゃったんだ?」
「え?」
は?
突然自分の名前が響いて正志は固まった。
「女の子がいっぱい……」
どこからこれほど湧いてきたんだと言うぐらい小学生から大学生っぽい女性、社会人らしい服装の女性も居る。
「…これはちょっと入りにくいかなあ」
それでもあれこれ苦労してようやく手に入れた情報、しかも家にはまだ帰れそうにないと諦めて、正志は隅からそっと店に入り込んだ。
壁に作りつけの棚が3~4段あり、上の方には小物入れやブックエンド、中段から下は色とりどりの便箋のコーナーで、意匠を凝らした様々な色や形のカードもある。
「あ」
その中の一枚、見覚えがある青のカードを取り上げて、それが羽ばたく鳥の形をしたミニカードを半透明の封筒に入れて送るものだと気づく。こんなのがあるんだ、と裏を返してどきりとした。
『Sayu Morino』
「さゆのだ」
ポストカードとかにも絵を使ってもらってるんだ、頑張ってるんだなあ。
頷きながらその隣を見てどきりとする。
『Office 葵』
「葵……って葵ちゃん?」
あの男だよな? さゆがしがみついて泣いていた。受付でさゆを呼び捨てにして笑っていた。
「そっか」
あいつのところで描いてるんだ。ってか、あいつと一緒に仕事してるんだ?
気合い十分とは言えなかったが、それでも結構自分が期待してやってきたのだと思い知らされた気がして、正志は小さく溜息をついた。電話番号は書いてあるが、繋がるのは葵という男の声なのだろうと思うとさすがに気分が萎えてくる。
未練がましいと思いつつも、青い鳥に描かれた空はいつか見た『窓』の一部を切り取ったもののようで、とりあえずこれだけでも買おうかと向きを変えかけた瞬間、慌てて身を翻した。
「……っ」
涼子。
急いで棚の影に入り込みながら横目で伺う。
間違いない。
真後ろの入り口から友達と笑いながら入ってきたのは、パールピンクのスーツの涼子だ。
「んー、どこにあるの、それ」
「こっち……ほら、『レイン』シリーズ」
「あ、かっこいい~」
正志が居るのと一筋隔てた並びの棚の前に入っていきながらはしゃいだ声が聞こえた。機嫌のいい時によく聞いた甘い声。
ずきん、と胸の奥が痛む。
「でしょ、なんかいいよね、このシルエットみたいなの」
「男の人の肩? 首? あっち向いてるの? 微妙な感じだね」
「知るかよ、みたいな感じがあるよね~。クールだけど、ちょっと甘えてるって感じ」
「やっぱそそられるよね、そういうのって」
「……ふふ」
連れが微かに含み笑いをした。
「なあに?」
「結局正志くん、振っちゃったんだ?」
「え?」
は?
突然自分の名前が響いて正志は固まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる