『よいこのすすめ』

segakiyui

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「正志、いつも別のところ見てて」
 涼子が小さな声で呟く。
「私じゃない何かばっかり見てて」
「……」
「全然、私を……欲しがってくれなかった」
「………」
 はぁい……?
 何だか魂を引き抜かれてしまったような気がして、正志は呆然とした。
 や、だってそれは。
 いろいろと忙しくて。
 涼子もいろいろ忙しそうで。
 正志だけのせいじゃなかったはずだ。お互いの都合とか気持ちとかタイミングとか。
「……新しい香水つけてっても気づいてくれないし」
 ………香水?
 そんなの変わってたの? いつもいい匂いするなあと思ってたけど。
「違う人と出かけるって言っても、楽しんできてねって言うだけだし」
 ……だってそれは。
 正志が忙しくてデートもままならないから、そんな正志に退屈されるよりは涼子が楽しめた方がいいと思って。
「イヤリングとかスカーフとか……美園さんとかにもらったのしてっても怒らないし」
 ……怒るもんなの?
 ってか、美園さんってのも初耳だよ。
「ようやく映画一緒に行けて……うんとうんと楽しみにしてたのに、途中で寝ちゃうし……」
 ……だって、あれは。
 あれは。
「……なんか、そういうのが重なってくと、正志は私なんか欲しくないんだなとか思って。だから誘ってもくれないんだなと思いだしちゃって」
「うーん、なるほど」
 涼子の友人が溜め息まじりに頷いて、正志はぼんやりした。
 なるほど、なんだ。涼子の気持ちは他の人間にもよくわかる、ってことだよね。
 けど。
「……知らなかったよ」
 正志はこっそり呟く。
 そんなことを涼子が考えていたなんて。
 正志はただただ涼子に置いていかれないように頑張って頑張って、けれどどうしても結局追いつけなかった、そういうことだったとばかり思っていた。
「……決定的だと思ったのはね」
「うん」
「へただって言っても怒らなかったこと」
「…うん」
「……怒ってほしかった」
 淋しそうに涼子が続ける。
「他の誰と比較してんだって」
「うん」
「俺以外の男と付き合っているのかって」
「うん」
「そんなこと言えるほど付き合ってないだろって」
「うん」
「お前は………俺のものだって………言ってほしかったな……」
「……涼子……」
 くすん、と微かに鼻を鳴らす音がした。
「……けど……そこまで欲しがっては……もらえなかったよ、みさと」
「………」
「そしたら……なんか結婚しちゃったら、もっとどうでもよくなるんじゃないかって思って」
「……うん」
「…………怖くなった」
「………うん」
 そんなの、あり?
 正志は俯いた。
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