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もういいじゃん。そんな男なんか振って正解だったよ、おいしいもんでも食べに行こうよ。
涼子の友人が促して、うん、と掠れた声で頷いた涼子が店を出ていく。
それを背中で聞きながら、正志は手にした青い鳥のカードを凝視した。
なんだよそれは、自分ばっかり被害者なのかよ、そう詰りたい一方で、振られた瞬間にそれでもどうしても諦め切れないと涼子の腕を掴めなかった自分に気づいた。
さゆは違うのに。
追い掛けて、探して、引っ掛かって、こだわって。
涼子達が出ていった後、そっと裏の棚に回って、『レイン』シリーズを見つけた。
銀色のメタルフレーム、白い木枠、木目調の素朴なタイプ。聞いてたよりずっとバラエティに富んだ種類があって、その中の一つ、涼子達が騒いでいたフレームを見つけた。
透明なアクリルプレートを二枚合わせた四方を銀の星が止めている。その中に挟み込まれたのは一枚のポストカード、モノトーンで構成された抽象的な画面は確かに見ようによっては、意地をはって
軽く反らせた男の首から肩のシルエットに見える。
あいつだ。
伸びたラインの滑らかさ、さゆ、と呼び掛けた時の葵を思い出した。
さゆがこの絵を描くために、何度あの男を見つめていただろう。何時間あの男と一緒に居たんだろう。そう思うと、じり、と微かに胸の底が疼く。
「……何やってんのかなあ……」
どうしてさゆにこだわるのか。
なんでさゆのことを考えてしまうのか。
今もこうやって、他の男が一緒に居るとわかっているのに、忘れられなくて、みっともない惨めだなんて思ってるのに、さゆのカードを探したりしている。さゆに連絡がとれる方法を探して、けれど
会ってしまえばどうしようもなく不器用で、傷つけることしかできなくて…………ただ、泣かせて。
「何もできないのに」
葵みたいにさゆの力になれない。
三上みたいに支えてやることもできない。
桃花みたいに自分の気持ちをはっきりもさせられない。
それこそ、嫌われてるかもしれないけれど好きだから頑張っていたさゆほど、誰かを想うことさえできなくて。
なのになんで。
「会いたいとか……思っちゃうかなあ……」
会ってどうするってわけでもない。
会って何を話したいわけでもない。
けれど、さゆに会いたくて。
さゆの声を聞きたくて。
「……これ…下さい」
「はい」
青い鳥のポストカードを買って、店を出た。
携帯を開き番号をプッシュする。しばらくコール音が鳴って、
『はいもしもし、「オフィス葵」です』
「あの……僕、以前森野さゆさんに御会いしたことがあるものなんですが」
『はい…?』
いぶかしげな女性の声がトーンを下げる。
「森野さんに連絡を取りたい時にはどうすればいいんでしょうか」
『……少々お待ち下さい』
何やってんの、僕は。こんな目一杯不審な電話かけて。
『もしもしお電話、変わりました』
「……葵さん、ですか?」
『あなたは?』
「以前展覧会で……森野さんと一緒に食事をした高岳といいます」
『ああ……さゆにどんな御用ですか』
「……森野さんに会いたいんです」
ああ……言っちゃった。
正志のことばに、電話の向こうの声は一瞬重く沈黙した。
涼子の友人が促して、うん、と掠れた声で頷いた涼子が店を出ていく。
それを背中で聞きながら、正志は手にした青い鳥のカードを凝視した。
なんだよそれは、自分ばっかり被害者なのかよ、そう詰りたい一方で、振られた瞬間にそれでもどうしても諦め切れないと涼子の腕を掴めなかった自分に気づいた。
さゆは違うのに。
追い掛けて、探して、引っ掛かって、こだわって。
涼子達が出ていった後、そっと裏の棚に回って、『レイン』シリーズを見つけた。
銀色のメタルフレーム、白い木枠、木目調の素朴なタイプ。聞いてたよりずっとバラエティに富んだ種類があって、その中の一つ、涼子達が騒いでいたフレームを見つけた。
透明なアクリルプレートを二枚合わせた四方を銀の星が止めている。その中に挟み込まれたのは一枚のポストカード、モノトーンで構成された抽象的な画面は確かに見ようによっては、意地をはって
軽く反らせた男の首から肩のシルエットに見える。
あいつだ。
伸びたラインの滑らかさ、さゆ、と呼び掛けた時の葵を思い出した。
さゆがこの絵を描くために、何度あの男を見つめていただろう。何時間あの男と一緒に居たんだろう。そう思うと、じり、と微かに胸の底が疼く。
「……何やってんのかなあ……」
どうしてさゆにこだわるのか。
なんでさゆのことを考えてしまうのか。
今もこうやって、他の男が一緒に居るとわかっているのに、忘れられなくて、みっともない惨めだなんて思ってるのに、さゆのカードを探したりしている。さゆに連絡がとれる方法を探して、けれど
会ってしまえばどうしようもなく不器用で、傷つけることしかできなくて…………ただ、泣かせて。
「何もできないのに」
葵みたいにさゆの力になれない。
三上みたいに支えてやることもできない。
桃花みたいに自分の気持ちをはっきりもさせられない。
それこそ、嫌われてるかもしれないけれど好きだから頑張っていたさゆほど、誰かを想うことさえできなくて。
なのになんで。
「会いたいとか……思っちゃうかなあ……」
会ってどうするってわけでもない。
会って何を話したいわけでもない。
けれど、さゆに会いたくて。
さゆの声を聞きたくて。
「……これ…下さい」
「はい」
青い鳥のポストカードを買って、店を出た。
携帯を開き番号をプッシュする。しばらくコール音が鳴って、
『はいもしもし、「オフィス葵」です』
「あの……僕、以前森野さゆさんに御会いしたことがあるものなんですが」
『はい…?』
いぶかしげな女性の声がトーンを下げる。
「森野さんに連絡を取りたい時にはどうすればいいんでしょうか」
『……少々お待ち下さい』
何やってんの、僕は。こんな目一杯不審な電話かけて。
『もしもしお電話、変わりました』
「……葵さん、ですか?」
『あなたは?』
「以前展覧会で……森野さんと一緒に食事をした高岳といいます」
『ああ……さゆにどんな御用ですか』
「……森野さんに会いたいんです」
ああ……言っちゃった。
正志のことばに、電話の向こうの声は一瞬重く沈黙した。
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