『よいこのすすめ』

segakiyui

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「げほげほげほげほっ!」
「高岳さんっ?」
「か、かのじょっ?」
「はい?」
「ちょっと待って、葵さんって、あのその……女の人なのっ?」
「あ、えーと」
 さゆが困った顔になって口ごもる。
「生理学上は、そうですね」
「や、だってさ」
「あ、別に性同一性障害とかではなくて、葵ちゃんは単に女性が好きなだけです」
「えーとつまり」
 正志は涙目を瞬きながら確認した。
「レズ……ってこと?」
「そうです」
「あの格好は…?」
「男装じゃなくて、趣味です」
「じゃ、じゃあ」
 正志は突然とんでもないことに気づいた。それならこんな時間に男をあっさり家に招き入れた、さゆの不用心さもわかる。
「あの、その、君ってほんとは」
 女性が好きなの?
 どうしたもんだかという気分のせいで、正志がよほど情けない顔になっていたのだろう、さゆが妙な表情で見返す。
「はい?」
「えーと、例えば、君も女性の方が好き……だとか。……いや、あの別に驚かないよ、僕の従兄弟もまあ、似たようなもんだし」
 ただ、正志が二重に痛手を受けるだけで。
「あ……違います!」
「え?」
「私は男の人の方が好きです、高岳さんだって!」
「え」
「あ、あの」
 さゆが自分が口にしたことばに驚いたように瞬きした。眼鏡の奥でまっすぐだった瞳が和らいで戸惑いながら正志を見つめ、やがてそっと伏せられる。
「あの、それは私が勝手に思ってることだから」
「……」
「忘れて、下さい」
「……忘れないって言ったら」
「……ごめんなさい」
「謝っても忘れないって言ったら」
「あの」
「絶対忘れないって言ったら」
「あの……髪の毛触ってもいいですよ?」
「……なにそれ」
「だから……えーと」
「交換条件のつもり?」
「あの」
「………さゆ」
 正志が呼び掛けるとさゆはどきりとした顔で見上げてきた。
「僕がなぜ来たか話してない」
「会いに来たって」
「なんで会いに来たか話してない」
「わからないって」
「今わかったから話していい?」
「……はい」
 正志はゆっくり手を伸ばしてさゆの眼鏡を取った。大きく目を見開いたさゆが、正志の顔をじっと見る。そのさゆの腕をそっと引き寄せると、さゆは唇を尖らせた。
「……狡いですよ」
「…うん」
「………こんなふうに」
「え?」
「こんなふうに『見せられた』こと、なかった」
「君が『見えて』よかった」
 そう呟くのが我慢の限界で、抱き込んださゆに正志は慌ただしく唇を重ねた。
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