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「おはよーございまーす」
「…ああ、おはよう」
もう院長室に居るのが当たり前になりつつある三上がひょいと顔を上げた。
「向こうの方はいいんですか」
「昨日退職届を出してきた」
書類を繰りながら三上がさらっと言い捨てて、正志は驚く。
「え、もう?」
「………来月末か5月の頭にはマンションに引っ越す」
「ああ、それは猛から聞きました……あ」
思いついて、にやりと笑った。
「ひょっとしたら、三上さん、この間の送別会の一件」
「確認しなくていい」
ぶすっとむくれた表情になったところを見ると図星なのだろう。
3月も末になってきて、あちこちで送別会が催されているが、この間小児科の送別会があったときに、猛が密かに一緒に仕事をしていた看護師に告白されちゃったらしい。ずっとずっと好きでした、もう田舎に帰っちゃうから、最後の思い出にキスして下さい、そう強請られて。
「猛はキスしなかったんでしょ」
「していたら、今日にでも攫って帰る」
「ははっ」
三上ならやりかねないよなあと思わず笑う。
この、傍から見るとどう見たってずば抜けたハンサムは、いつまでたっても自分が猛に愛されてると確信できないらしくて、ことあるごとに周囲と仲良くしちゃう猛にぴりぴりしたまんまだ。
「だから予定を早めたんだ」
にやにや頷く。
「もともと6月ぐらいって聞いてたから、何だろうって猛が不思議がってた」
「………あんな危なっかしいのを放っておけるか」
また新しい研修医とか新人看護師とか来るんだぞ、と眉を寄せた三上が、ふと思い出したように正志を見上げる。
「そうだ、4月から看護師職、空きができる。入るか?」
「え……ほんとですか」
三上の机に郵便物を載せていた手を思わず止めた。
「ああ」
「入れます、もちろん」
「ポーターは別の人間を入れる……君も知ってるだろう、片桐さんだ」
「ええええっ」
「………大声を出すな」
「片桐さんって、あの、片桐さんっ!」
「片桐桃花さんだ」
「まじっすか」
あれだけ手酷く三上に振られて、なのにまだアプローチすんの、と瞬きすると、違う、と三上が苦笑した。
「勤めていた店が一旦閉店して改装する。バイトも一新することになったそうだ。何か仕事はないか、と言いに来た」
「ううう」
凄いよね、タフだよね、ってか、それって猛にまずくない?
「君が小児科に入って、彼女がポーターに入る、ということで」
「ちょっと待った!」
「うん?」
正志は慌てて三上を覗き込んだ。
「小児科っ? 猛と同じとこっ?」
「ああそうだ」
「や、それって」
三上の精神衛生上、なおよくないんじゃ。
そう言いかけてはっとする。
「三上さん、ひょっとして小児科に入る新人看護師って」
うっすらと三上が笑った。
「君一人だが」
「あ~」
別のやつを近付けるぐらいなら、知ってるやつで押さえておこうって腹か!
「それに」
郵便ありがとう、と封筒を開け始めながら、三上が平然と続けた。
「君なら万が一にも僕がぶち切れたら何をするかわかってるだろう」
「…ああ、おはよう」
もう院長室に居るのが当たり前になりつつある三上がひょいと顔を上げた。
「向こうの方はいいんですか」
「昨日退職届を出してきた」
書類を繰りながら三上がさらっと言い捨てて、正志は驚く。
「え、もう?」
「………来月末か5月の頭にはマンションに引っ越す」
「ああ、それは猛から聞きました……あ」
思いついて、にやりと笑った。
「ひょっとしたら、三上さん、この間の送別会の一件」
「確認しなくていい」
ぶすっとむくれた表情になったところを見ると図星なのだろう。
3月も末になってきて、あちこちで送別会が催されているが、この間小児科の送別会があったときに、猛が密かに一緒に仕事をしていた看護師に告白されちゃったらしい。ずっとずっと好きでした、もう田舎に帰っちゃうから、最後の思い出にキスして下さい、そう強請られて。
「猛はキスしなかったんでしょ」
「していたら、今日にでも攫って帰る」
「ははっ」
三上ならやりかねないよなあと思わず笑う。
この、傍から見るとどう見たってずば抜けたハンサムは、いつまでたっても自分が猛に愛されてると確信できないらしくて、ことあるごとに周囲と仲良くしちゃう猛にぴりぴりしたまんまだ。
「だから予定を早めたんだ」
にやにや頷く。
「もともと6月ぐらいって聞いてたから、何だろうって猛が不思議がってた」
「………あんな危なっかしいのを放っておけるか」
また新しい研修医とか新人看護師とか来るんだぞ、と眉を寄せた三上が、ふと思い出したように正志を見上げる。
「そうだ、4月から看護師職、空きができる。入るか?」
「え……ほんとですか」
三上の机に郵便物を載せていた手を思わず止めた。
「ああ」
「入れます、もちろん」
「ポーターは別の人間を入れる……君も知ってるだろう、片桐さんだ」
「ええええっ」
「………大声を出すな」
「片桐さんって、あの、片桐さんっ!」
「片桐桃花さんだ」
「まじっすか」
あれだけ手酷く三上に振られて、なのにまだアプローチすんの、と瞬きすると、違う、と三上が苦笑した。
「勤めていた店が一旦閉店して改装する。バイトも一新することになったそうだ。何か仕事はないか、と言いに来た」
「ううう」
凄いよね、タフだよね、ってか、それって猛にまずくない?
「君が小児科に入って、彼女がポーターに入る、ということで」
「ちょっと待った!」
「うん?」
正志は慌てて三上を覗き込んだ。
「小児科っ? 猛と同じとこっ?」
「ああそうだ」
「や、それって」
三上の精神衛生上、なおよくないんじゃ。
そう言いかけてはっとする。
「三上さん、ひょっとして小児科に入る新人看護師って」
うっすらと三上が笑った。
「君一人だが」
「あ~」
別のやつを近付けるぐらいなら、知ってるやつで押さえておこうって腹か!
「それに」
郵便ありがとう、と封筒を開け始めながら、三上が平然と続けた。
「君なら万が一にも僕がぶち切れたら何をするかわかってるだろう」
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