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5.魂への旅
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「は!」
『グリーン・アイズ』は沈黙を無理やり破るように、体を後ろに逸らせて笑った。
「は、ははっ、お笑いだね」
すぐに体を立て直し、ぐい、とテーブルの上に体を突き出す。
「何もかいてないから、僕の中には何にもない、って? 何だよ、それは。子どもだって、もっとましなことをいうぜ。がっかりだよ、ひどいもんだ、それに、僕はそんなことなんか聞いちゃいないんだ、僕は聞いたのは」
「あなたは怯えているんでしょう?」
瑞穂はうろたえなかった。
『気配』が見せてくれる波紋は、それがどれほど見当違いなものに見えても、その場に必要で十分なものだと知っているからだ。
『魂への旅』で瑞穂がすることは、『気配』が見せてくれたものをただ確実に相手に伝えることだけ、それが、瑞穂の役目のすべてなのだ。
そして、瑞穂のことばが『気配』の望むことだったことはすぐにわかった。
さきほどの長部のように、やっぱり、ぐ、と『グリーン・アイズ』がことばを失って喉を詰まらせる。
瑞穂は静かにカードを読むようにことばを続けた。
「あなたは自分の未来がないと思ってる。それは、自分の中に未来へ続くものが何もないとわかっているから。あなたの持っているものは、あなたの望む未来に何の役にも立たないと知っているから……だから、あなたは怯え恐れて、何も未来に描こうとしない……この紙のように白紙のままにしておこうとする……白紙に戻したいとさえ思ってしまう…あっ!」
パシッ、と鋭い音がして、突然テーブルの上のランプが弾けるように飛んだ。
同時に何かがそのランプから跳ね返るように飛んできて頬をかすめ、瑞穂はとっさに顔を逸らせた。
「つっ…」
目を閉じ体をすくめた瑞穂に小さな呻きが聞こえる。
そっと片目を開けて見ると、瑞穂の顔をかばうように『グリーン・アイズ』の手が広げられているのがわかった。
その手の輪郭の端の部分から、つるつると赤いものが滑り出して玉をつくり、ぽとりと下に落ちる。
血だった。
鮮やかな紅が、テーブルに広げた真っ白な紙の上に落ちてにじむ。
(ああ、この子は傷ついている)
瑞穂の中で『気配』が深いため息を漏らした。
(自分の中に何もないことに気づいて、それで深く傷ついている。だから、世界を憎み、破壊したいと思っているんだ。そこに、彼の生きられる場所はないから)
瑞穂は顔を上げた。
彼女に背中を向けて、本当にとっさの動きだったのだろう、『グリーン・アイズ』は片手を瑞穂の前にかざしている。
そのみじろぎもしない体の向こうには、部屋のパーテーションに当たって砕けたようなランプの残がいがあった。
その白いきらびやかな姿とランプ、テーブルの上の赤い血のしみを、瑞穂は静かに眺めていった。
『気配』がささやく。
(そう、それでも、彼は、未来を手にいれたいと望み、そして、きっと手に入れられる、傷つく覚悟さえあるならば)
びく、と『グリーン・アイズ』の体が強ばって、相手は激しい勢いで振り返った。
「今、何て?」
再び緊張してしまった白い顔、青く見えるほど色を失った唇が掠れた声を絞り出す。イミテーションの緑の目が内側からあふれ出す、正視しがたいほどの激情に揺れている。
「何て、言った?」
『グリーン・アイズ』は混乱していた。
瑞穂の心から読み取った声を現実に話しかけられたようにふるまっているのに、それにさえ気づかない。
けれど、瑞穂はそれについては考えまいとした。
目を閉じ、深く呼吸し、『気配』に自分を同調させる。
それは、瑞穂の中にある泉に接触するだけではない、『グリーン・アイズ』の中にもあるはずの、暗くて遠い『気配』にも助けを願うためだ。
(お願い、力をかして)
体が細かく震えていた。
今が全ての始まりと終わりを変えられるときの一つなのだとわかっている。
こうして、泉の波が動いたときにこそ、人は未来を変える可能性をその手にできるはずなのだ。
だが、次の一瞬、その可能性が瑞穂の指の間を擦り抜けた感覚が襲って、瑞穂は驚きに目を開けた。
「ふうん、可能性、しかないんだ」
『グリーン・アイズ』がこちらに向き直っていた。皮肉っぽくゆがめた唇から、冷めた笑いとともに凍りつくような声を吐き捨てる。
「じゃあ、未来はあんたにも変えられないんだ」
そうじゃない、という瑞穂の反論は声にも出せないままにすぐに封じられた。
「そりゃそうだよな。あんたは神さまじゃないし、ただの占いおたくの高校生だし。それこそ、僕みたいに人の心が読めるわけもないんだし。ばかだったな、少しでも何かあるかもって思うなんて」
「違う」
瑞穂は『グリーン・アイズ』の冷笑にかろうじてことばを挟んだ。
「あんたもそこらにいる怪しげな宗教と同じなんだ? 人の弱みに付け込んで、さも救いがありそうなことを口にして、ほんとはそうやって人を脅して追い落としてさ」
「違うの、そうじゃなくて」
瑞穂は首を振った。
「変えるのはあたしじゃない、あなたの未来を変えるのはあなたなの、あなたが未来を手にしたいと望むから、未来は新しい道を開いてくれる。でも、あなたは今を変えようとはしていないでしょう? 今が変えられなければ、未来は変わらない。未来は今が作るものだから」
そして、破滅の未来は唯一その破滅を覚悟して向き合ったときにだけ、初めてわずかな可能性を教えてくれる。
(そう、なんだけど)
瑞穂の胸の中を炎の悪夢が走り抜けたあの破滅に瑞穂はまだ立ち向かう術を知らない。
と、その思いをすぐに読み取ったように、ぎら、と『グリーン・アイズ』が殺気を瞳にみなぎらせた。
「じゃあ、あなたが変えてみろよ、家族を救えなかった炎の夢を」
冷酷な『グリーン・アイズ』の声が響き、瑞穂は体を凍らせた。
『グリーン・アイズ』は傷ついた右手を垂らしたままだ。その手からは、床に点々と血が垂れ続けている。
瑞穂を見下ろす『グリーン・アイズ』の表情はさっきよりも凍てついていて、感情が消え、触ると切れそうな刃物のにおいを漂わせている。
「今、わかった。あなたは未来を見ているんじゃない、あなたにとって都合のいい想像を見ているだけなんだ。さっきの奴のことだって、あなたがあいつと付き合っていたからわかっただけのことで、そうだよな、人がそんなことできるわけがない、あなたは奴と顔を合わせていて、奴から何か読み取っただけなんだ」
絶対瑞穂は真実のことなど見えてはいない、そう言いたげな激しい口調だった。
それでも、その『グリーン・アイズ』の頑な姿の中に身を竦めて泣いている小さな、ほんの小さな子どもがいることを、『気配』は瑞穂に伝えてきた。
(傷つけた、また、この子を、私が傷つけてしまった)
瑞穂の胸の奥で、炎の夢と走り去った長部、そして、目の前で仁王立ちになって瑞穂を冷ややかににらみつけている『グリーン・アイズ』が次々と重なっていく。
(これは、テーマだ)
瑞穂は気づいた。
どうしても同じことを繰り返すとき、なぜかいつも同じ状態に追い込まれてしまうとき、人はそこに一つの未解決のテーマを背負っている。
炎の夢が示す無力感から逃れようとした瑞穂が、ここで長部にあって、彼の行き詰まって行く人生に何もできないと再び思い知ったことのように。
そして、それをどう扱えばいいのかわからないままにいることで、『グリーン・アイズ』に未来を変えることについて問われることのように。。
これらはつまり全て同じ問題から動いていることなのだ。
(私が、自分の力を扱いあぐねているということ)
目の前にいる『グリーン・アイズ』は、言わば、瑞穂の内側からの問いかけが現実の形に映されたものに過ぎないとも言える。
(そして、『グリーン・アイズ』と同じように、私もまた、自分の力の扱い方がわからなければ、世界を壊すか、自分を傷つけて死んでいくしかないということ)
そして、『グリーン・アイズ』はこうも言ったのだ。瑞穂自身がまず、炎の夢を変えてみろ、と。
「うん、わかった」
瑞穂は答えた。
それは、目の前の『グリーン・アイズ』に対しての答えでも、瑞穂の内側の『気配』に対しての答えでもあった。
それが意外な答えだったのだろう、『グリーン・アイズ』はどこか惚けたような顔になって瑞穂を見た。
瑞穂は立ち上がり、ポケットからハンカチを出して、『グリーン・アイズ』の右手を取った。
『グリーン・アイズ』は動かない。
何かの呪文にかけられたように、されるがままになっている。その冷えて固まったような手に、瑞穂はゆっくりしっかりとハンカチを巻き付けた。
「変えて、みる。そうすれば、あなたは生き残れるのね?」
顔を上げ、『グリーン・アイズ』に瑞穂は尋ねた。同時にそれは、瑞穂自身への答えとなって、『グリーン・アイズ』の口から、鏡のように響き返ってくるはずだった。
瑞穂を見下ろした『グリーン・アイズ』の瞳が不安定に揺れた。何かを答えようとして、その答えに戸惑い口に出せずにひるむような、意固地な曲線でねじれた口元。
だが、それは開かない。
やがてふいに、我に返ったように右手を握り締め、『グリーン・アイズ』は瑞穂の手から体ごと引いて、そのまま無言で部屋を出て行った。カーテンが揺れて、その向こうからも気配が消える。
それを見送った後、瑞穂は緊張を解いた。
部屋の隅の壊れたランプに近寄り、拾い上げる。
ランプは壁に叩きつけてもこれほどには壊れないだろうというように、変形し折れ曲がっている。まるで、内側から何か荒々しい力が飛び出して、それがランプそのものも壊してしまったようだ。
そのランプを瑞穂はテーブルの上に置かれた紙の血の染みに並べて置いた。
あんたは自分に都合のいい想像をしているだけだ、と『グリーン・アイズ』は言った。
そうだろうか。これらは単に、落っこちて壊れたランプと、何かの拍子にケガをして流れた血がついただけの紙だろうか。
それとも、瑞穂の『気配』がささやくように、この紙は傷ついた『グリーン・アイズ』の中の子どもの姿で、ランプはこのまま放置しておくと引き寄せてしまう『グリーン・アイズ』の未来の象徴だということだろうか。
「『ブラック・アイズ』、よろしいですか?」
ふいに外のカーテンの向こうから柔らかな声が尋ねてきた。
「はい?」
「何かすごい物音がしましたが、トラブルでもありましたか?」
カーテンから今度ひょいと顔を突き出したのは境谷だった。
テーブルの上の壊れたランプと濁り始めた血の染みにすぐに気が付いて、問いかけるような視線を瑞穂に投げてくる。
「いえ、すみません。ランプ、壊しちゃいました」
「そうですか、そういう時もありますからね」
境谷はうなずいた。
「もう少しで八時になります。もう予約客はいませんから、片付けていいですけど………何か、話したそうですね」
小首を傾げて瑞穂を見る。
ためらってから瑞穂は口を開いた。
「あの、ひょっとすると、これからも、こういうことがたびたびあるかもしれません。私、たぶん、けっこう騒ぎを起こすことになると思います」
『魂への旅』が始まっているのなら、そこには大きな変化が起こる。それは瑞穂にだけ影響するというものではなく、巻き込まれてくる周囲というものもある。
結局人は一人で生きているものではなく、多かれ少なかれ、見えるところ見えないところで関わっているものだからだ。
だが、境谷は動じた様子もなかった。
「ああ、そうですか。まあ、話題性につながるなら、犯罪でない限り別段構いませんよ、もともとが怪しげなものですしね、占いなんていうのは」
のうのうと言い切った境谷のことばには、真面目なのか不真面目なのかわからない軽さがあった。
「でも、私のすることは、ひょっとすると、正しくないかも」
「はあ?」
「だから、私の感じているものはきっと、世間からずれてるし、それは境谷さんにも迷惑をかけるかもしれないし」
「ははあ」
境谷は唐突ににこっと可愛らしく笑った。ひょうひょうと部屋に入ってきて、瑞穂の前に腰を下ろす。瑞穂にも腰かけるようにすすめて、ひょいと顔を突き出した。
「私の目、どう見えます?」
「どうって」
「義眼なんですよ、両方とも」
言われて始めて瑞穂は気づいた。
境谷の両目が動かないのだ。
いつも少し目を細めて笑っているような顔だから、気づかなかったのかもしれないが。
「え? でも」
瑞穂は思わず被っている服に触った。
境谷がこの服を作った、といったことを思い出したのだ。
白杖を使ってない、というレベルの問題ではないし、単に慣れや鋭い感覚という範囲を超えているように思える。
瑞穂の問いかけは境谷にとっては繰り返された質問の一つだったらしい。少し目を見開いて、自分の両目を確認させるようにうなずき、続いて優しい声で、
「そう、でも、見えるんですよ、なぜか」
境谷はほほ笑んだ。
「鷹栖さんが髪の毛を後ろで三つ編みにしてるのも、今テーブルの上にぶっ壊れたランプとなぜか血のついた紙があるのも、ちゃんと見えてますよ。まあ、厳密に言うと、カメラの原理で見えているのではなくて、何だかわからないけど、脳の中に見えているといいますか。でも、最新の医学では、結局普通の視覚でも脳内処理をして映像化しているそうですから、私にとっては同じことだと思うんですがね」
境谷は少しことばを切って考え、静かに付け加えた。
「目玉がなくても見えてるなんて、まあ普通一般に言う世間じゃ許してくれないんです。ましてや、超能力でもなくてただ『普通に』見えてるだけ、ただ『視覚受容器官』がないだけなんていうのはね。障害者の仲間にも入れないんですよ、私は。『見えて』ますからね」
境谷の穏やかな笑みの向こうに一瞬修羅場が見えた気がした。
「鷹栖さんもそういうものだと考えられたらどうでしょうか」
境谷は初めて会ったときのように、両手を無邪気な女子高校生のようにあわせてにこにこした。
「見えてるものが正しいかどうかなんて、あんまり意味はありません。世間からずれてるというのも、どこを世間と呼ぶかで変わってくる程度のものです。今、鷹栖さんにとっては、この『エターナル・アイズ』こそが世間だと考えれば、けっこう気楽にやれるんじゃないでしょうか」
「あの、ひょっとして」
瑞穂は気づいた。
「境谷さんは、『グリーン・アイズ』が、特別な力を持っているって気づいていて雇ったんですか?」
「いいえ」
境谷はにやっと唇を上げ、したたかな笑みに目を細めた。
「見栄えがいいからですよ。こういう商売は『見えている』ものも意外と大切な要素なのでね」
それがあまりにも当然のように続けられたので、瑞穂は思わず吹き出してしまった。
「ああ、笑われましたね、いい顔です」
境谷はうれしそうにうなずいて立ち上がった。
「それじゃあ、今日は終わりにしましょうね。あ、ところで」
カーテンをくぐりかけて振り返る。
「私の代金はどうしたらいいと思います? 時間外ということで、鷹栖さんのバイト代に上乗せしておきましょうか?」
「は?」
瑞穂はきょとんとした。
「境谷さんの、ですか?」
「はい、今、私は『ブラック・アイズ』に見てもらったわけでしょう?」
「でも、それは」
瑞穂は首を傾げた。
「えーと、逆で、あたしが話を聞いてもらった、んじゃないでしょうか」
「ああ、そうですね。私があなたのカウンセリングをした、と、そういうことでいいですか。その方が、お金がかからなくて、私としてはありがたいんですよ、どうもすみませんね」
境谷はにこにことまた元の無邪気な笑いに戻って、カーテンを開いた。
(やっぱり、どうも変な人)
そう思ったとたん、境谷が動きをとめて、瑞穂はぎょっとした。
(まさか、この人まで『人の心が読める』っていうんじゃない、よね)
「一つ、言っておいたほうがいいかもしれませんね」
境谷は瑞穂に背中を向けたまま、低い声でつぶやいた。
「あなたには、たぶん、信じられないようなものがある、と思いますよ」
「どういうことですか?」
瑞穂は体を固くした。
「それは、奇跡を生む、力です」
「は、あ?」
境谷があまりにも妙なことを言い出して、瑞穂は一瞬頭が白くなった。
「奇跡、ですかあ?」
口に出してみると、一層奇妙な響きに聞こえてためらう。
「そう、人を、変える、力。物事の、未来を、変える、力」
ぐ、と境谷の背中に、さっき一瞬見えた修羅場の殺気が広がった。ことさらに区切って続けたことばの一つ一つにすさまじい緊張感がこもっている。
瑞穂は無意識に息を詰めた。
(この人も外見通りの人じゃない)
「私が、自分から目のことを話したのは」
境谷はするりとカーテンの向こうへすりぬけながら、
「あなただけだということです」
境谷の声に初めて激しさが光った。
瑞穂がその意味に気づく前に、境谷の姿はその場から消えていた。
(目のことを話したのは、あたしにだけ)
瑞穂は張り詰めていた緊張を吐き出して、立ち上がった。のろのろと後ろのカーテンをわけ、奥の部屋に入って鏡をのぞき、ふいにあることに気づく。
瑞穂はずっとベールを被っていた。境谷と話しているときも。だから、瑞穂がどんな顔をしようと、境谷に見えるはずがなかったのだ、ただの『普通』の視力なら。
(『気配』が尋ねているんだ)
瑞穂はベールを脱ぎ、ドレスも脱いで畳み整えた。
(『見えないもの』が見える力を、人はどうして受け入れればいいのか、と)
『グリーン・アイズ』も境谷も、そして瑞穂自身も、その力を扱いあぐねて傷つき続けている。
境谷は物事をあいまいにすることで、『グリーン・アイズ』は破壊することで、そして瑞穂は世界を拒むことで、その苦痛から逃れようとしている。
(けれど、どれも、救いにならない)
そして、瑞穂は、それらのテーマを見事に解決して見せろ、と『グリーン・アイズ』に挑まれているのだ。
(ううん、『気配』に。あたし自身の『未来』に)
部屋の薄いドアを開けて、後ろの通路に出ても、人の気配はどこにもなかった。『グリーン・アイズ』は先に帰ったにせよ、境谷はどこかにいるはずだが、まったく人気がなくなっている。
瑞穂はためらいながら、ドアを閉め、通路を抜けて外に出た。
時計を見ると、八時を少し過ぎているぐらい、街の中はうっすらと明るい夏の夜だ。
(これから、家に帰って、ごはん、かあ)
マンションの昼間の熱に蒸された部屋に戻るのは、少し疲れる気がして、瑞穂は近くのバーガーショップに寄った。店内は明るくて、学生や勤め帰りのサラリーマンが思い思いに席に座り、目の前のトレーに載せたバーガーやポテトを口に運びストローをくわえている。
瑞穂はチーズバーガーとオレンジジュースを頼み、店の隅のテーブルに滑り込んだ。
(みんな、幸せそうだなあ)
自分が大海にただ一人、頼りにもならないぼろ船で、仲間を得られるあてさえなく旅立った小さな小さな子どものような気がした。
『グリーン・アイズ』は沈黙を無理やり破るように、体を後ろに逸らせて笑った。
「は、ははっ、お笑いだね」
すぐに体を立て直し、ぐい、とテーブルの上に体を突き出す。
「何もかいてないから、僕の中には何にもない、って? 何だよ、それは。子どもだって、もっとましなことをいうぜ。がっかりだよ、ひどいもんだ、それに、僕はそんなことなんか聞いちゃいないんだ、僕は聞いたのは」
「あなたは怯えているんでしょう?」
瑞穂はうろたえなかった。
『気配』が見せてくれる波紋は、それがどれほど見当違いなものに見えても、その場に必要で十分なものだと知っているからだ。
『魂への旅』で瑞穂がすることは、『気配』が見せてくれたものをただ確実に相手に伝えることだけ、それが、瑞穂の役目のすべてなのだ。
そして、瑞穂のことばが『気配』の望むことだったことはすぐにわかった。
さきほどの長部のように、やっぱり、ぐ、と『グリーン・アイズ』がことばを失って喉を詰まらせる。
瑞穂は静かにカードを読むようにことばを続けた。
「あなたは自分の未来がないと思ってる。それは、自分の中に未来へ続くものが何もないとわかっているから。あなたの持っているものは、あなたの望む未来に何の役にも立たないと知っているから……だから、あなたは怯え恐れて、何も未来に描こうとしない……この紙のように白紙のままにしておこうとする……白紙に戻したいとさえ思ってしまう…あっ!」
パシッ、と鋭い音がして、突然テーブルの上のランプが弾けるように飛んだ。
同時に何かがそのランプから跳ね返るように飛んできて頬をかすめ、瑞穂はとっさに顔を逸らせた。
「つっ…」
目を閉じ体をすくめた瑞穂に小さな呻きが聞こえる。
そっと片目を開けて見ると、瑞穂の顔をかばうように『グリーン・アイズ』の手が広げられているのがわかった。
その手の輪郭の端の部分から、つるつると赤いものが滑り出して玉をつくり、ぽとりと下に落ちる。
血だった。
鮮やかな紅が、テーブルに広げた真っ白な紙の上に落ちてにじむ。
(ああ、この子は傷ついている)
瑞穂の中で『気配』が深いため息を漏らした。
(自分の中に何もないことに気づいて、それで深く傷ついている。だから、世界を憎み、破壊したいと思っているんだ。そこに、彼の生きられる場所はないから)
瑞穂は顔を上げた。
彼女に背中を向けて、本当にとっさの動きだったのだろう、『グリーン・アイズ』は片手を瑞穂の前にかざしている。
そのみじろぎもしない体の向こうには、部屋のパーテーションに当たって砕けたようなランプの残がいがあった。
その白いきらびやかな姿とランプ、テーブルの上の赤い血のしみを、瑞穂は静かに眺めていった。
『気配』がささやく。
(そう、それでも、彼は、未来を手にいれたいと望み、そして、きっと手に入れられる、傷つく覚悟さえあるならば)
びく、と『グリーン・アイズ』の体が強ばって、相手は激しい勢いで振り返った。
「今、何て?」
再び緊張してしまった白い顔、青く見えるほど色を失った唇が掠れた声を絞り出す。イミテーションの緑の目が内側からあふれ出す、正視しがたいほどの激情に揺れている。
「何て、言った?」
『グリーン・アイズ』は混乱していた。
瑞穂の心から読み取った声を現実に話しかけられたようにふるまっているのに、それにさえ気づかない。
けれど、瑞穂はそれについては考えまいとした。
目を閉じ、深く呼吸し、『気配』に自分を同調させる。
それは、瑞穂の中にある泉に接触するだけではない、『グリーン・アイズ』の中にもあるはずの、暗くて遠い『気配』にも助けを願うためだ。
(お願い、力をかして)
体が細かく震えていた。
今が全ての始まりと終わりを変えられるときの一つなのだとわかっている。
こうして、泉の波が動いたときにこそ、人は未来を変える可能性をその手にできるはずなのだ。
だが、次の一瞬、その可能性が瑞穂の指の間を擦り抜けた感覚が襲って、瑞穂は驚きに目を開けた。
「ふうん、可能性、しかないんだ」
『グリーン・アイズ』がこちらに向き直っていた。皮肉っぽくゆがめた唇から、冷めた笑いとともに凍りつくような声を吐き捨てる。
「じゃあ、未来はあんたにも変えられないんだ」
そうじゃない、という瑞穂の反論は声にも出せないままにすぐに封じられた。
「そりゃそうだよな。あんたは神さまじゃないし、ただの占いおたくの高校生だし。それこそ、僕みたいに人の心が読めるわけもないんだし。ばかだったな、少しでも何かあるかもって思うなんて」
「違う」
瑞穂は『グリーン・アイズ』の冷笑にかろうじてことばを挟んだ。
「あんたもそこらにいる怪しげな宗教と同じなんだ? 人の弱みに付け込んで、さも救いがありそうなことを口にして、ほんとはそうやって人を脅して追い落としてさ」
「違うの、そうじゃなくて」
瑞穂は首を振った。
「変えるのはあたしじゃない、あなたの未来を変えるのはあなたなの、あなたが未来を手にしたいと望むから、未来は新しい道を開いてくれる。でも、あなたは今を変えようとはしていないでしょう? 今が変えられなければ、未来は変わらない。未来は今が作るものだから」
そして、破滅の未来は唯一その破滅を覚悟して向き合ったときにだけ、初めてわずかな可能性を教えてくれる。
(そう、なんだけど)
瑞穂の胸の中を炎の悪夢が走り抜けたあの破滅に瑞穂はまだ立ち向かう術を知らない。
と、その思いをすぐに読み取ったように、ぎら、と『グリーン・アイズ』が殺気を瞳にみなぎらせた。
「じゃあ、あなたが変えてみろよ、家族を救えなかった炎の夢を」
冷酷な『グリーン・アイズ』の声が響き、瑞穂は体を凍らせた。
『グリーン・アイズ』は傷ついた右手を垂らしたままだ。その手からは、床に点々と血が垂れ続けている。
瑞穂を見下ろす『グリーン・アイズ』の表情はさっきよりも凍てついていて、感情が消え、触ると切れそうな刃物のにおいを漂わせている。
「今、わかった。あなたは未来を見ているんじゃない、あなたにとって都合のいい想像を見ているだけなんだ。さっきの奴のことだって、あなたがあいつと付き合っていたからわかっただけのことで、そうだよな、人がそんなことできるわけがない、あなたは奴と顔を合わせていて、奴から何か読み取っただけなんだ」
絶対瑞穂は真実のことなど見えてはいない、そう言いたげな激しい口調だった。
それでも、その『グリーン・アイズ』の頑な姿の中に身を竦めて泣いている小さな、ほんの小さな子どもがいることを、『気配』は瑞穂に伝えてきた。
(傷つけた、また、この子を、私が傷つけてしまった)
瑞穂の胸の奥で、炎の夢と走り去った長部、そして、目の前で仁王立ちになって瑞穂を冷ややかににらみつけている『グリーン・アイズ』が次々と重なっていく。
(これは、テーマだ)
瑞穂は気づいた。
どうしても同じことを繰り返すとき、なぜかいつも同じ状態に追い込まれてしまうとき、人はそこに一つの未解決のテーマを背負っている。
炎の夢が示す無力感から逃れようとした瑞穂が、ここで長部にあって、彼の行き詰まって行く人生に何もできないと再び思い知ったことのように。
そして、それをどう扱えばいいのかわからないままにいることで、『グリーン・アイズ』に未来を変えることについて問われることのように。。
これらはつまり全て同じ問題から動いていることなのだ。
(私が、自分の力を扱いあぐねているということ)
目の前にいる『グリーン・アイズ』は、言わば、瑞穂の内側からの問いかけが現実の形に映されたものに過ぎないとも言える。
(そして、『グリーン・アイズ』と同じように、私もまた、自分の力の扱い方がわからなければ、世界を壊すか、自分を傷つけて死んでいくしかないということ)
そして、『グリーン・アイズ』はこうも言ったのだ。瑞穂自身がまず、炎の夢を変えてみろ、と。
「うん、わかった」
瑞穂は答えた。
それは、目の前の『グリーン・アイズ』に対しての答えでも、瑞穂の内側の『気配』に対しての答えでもあった。
それが意外な答えだったのだろう、『グリーン・アイズ』はどこか惚けたような顔になって瑞穂を見た。
瑞穂は立ち上がり、ポケットからハンカチを出して、『グリーン・アイズ』の右手を取った。
『グリーン・アイズ』は動かない。
何かの呪文にかけられたように、されるがままになっている。その冷えて固まったような手に、瑞穂はゆっくりしっかりとハンカチを巻き付けた。
「変えて、みる。そうすれば、あなたは生き残れるのね?」
顔を上げ、『グリーン・アイズ』に瑞穂は尋ねた。同時にそれは、瑞穂自身への答えとなって、『グリーン・アイズ』の口から、鏡のように響き返ってくるはずだった。
瑞穂を見下ろした『グリーン・アイズ』の瞳が不安定に揺れた。何かを答えようとして、その答えに戸惑い口に出せずにひるむような、意固地な曲線でねじれた口元。
だが、それは開かない。
やがてふいに、我に返ったように右手を握り締め、『グリーン・アイズ』は瑞穂の手から体ごと引いて、そのまま無言で部屋を出て行った。カーテンが揺れて、その向こうからも気配が消える。
それを見送った後、瑞穂は緊張を解いた。
部屋の隅の壊れたランプに近寄り、拾い上げる。
ランプは壁に叩きつけてもこれほどには壊れないだろうというように、変形し折れ曲がっている。まるで、内側から何か荒々しい力が飛び出して、それがランプそのものも壊してしまったようだ。
そのランプを瑞穂はテーブルの上に置かれた紙の血の染みに並べて置いた。
あんたは自分に都合のいい想像をしているだけだ、と『グリーン・アイズ』は言った。
そうだろうか。これらは単に、落っこちて壊れたランプと、何かの拍子にケガをして流れた血がついただけの紙だろうか。
それとも、瑞穂の『気配』がささやくように、この紙は傷ついた『グリーン・アイズ』の中の子どもの姿で、ランプはこのまま放置しておくと引き寄せてしまう『グリーン・アイズ』の未来の象徴だということだろうか。
「『ブラック・アイズ』、よろしいですか?」
ふいに外のカーテンの向こうから柔らかな声が尋ねてきた。
「はい?」
「何かすごい物音がしましたが、トラブルでもありましたか?」
カーテンから今度ひょいと顔を突き出したのは境谷だった。
テーブルの上の壊れたランプと濁り始めた血の染みにすぐに気が付いて、問いかけるような視線を瑞穂に投げてくる。
「いえ、すみません。ランプ、壊しちゃいました」
「そうですか、そういう時もありますからね」
境谷はうなずいた。
「もう少しで八時になります。もう予約客はいませんから、片付けていいですけど………何か、話したそうですね」
小首を傾げて瑞穂を見る。
ためらってから瑞穂は口を開いた。
「あの、ひょっとすると、これからも、こういうことがたびたびあるかもしれません。私、たぶん、けっこう騒ぎを起こすことになると思います」
『魂への旅』が始まっているのなら、そこには大きな変化が起こる。それは瑞穂にだけ影響するというものではなく、巻き込まれてくる周囲というものもある。
結局人は一人で生きているものではなく、多かれ少なかれ、見えるところ見えないところで関わっているものだからだ。
だが、境谷は動じた様子もなかった。
「ああ、そうですか。まあ、話題性につながるなら、犯罪でない限り別段構いませんよ、もともとが怪しげなものですしね、占いなんていうのは」
のうのうと言い切った境谷のことばには、真面目なのか不真面目なのかわからない軽さがあった。
「でも、私のすることは、ひょっとすると、正しくないかも」
「はあ?」
「だから、私の感じているものはきっと、世間からずれてるし、それは境谷さんにも迷惑をかけるかもしれないし」
「ははあ」
境谷は唐突ににこっと可愛らしく笑った。ひょうひょうと部屋に入ってきて、瑞穂の前に腰を下ろす。瑞穂にも腰かけるようにすすめて、ひょいと顔を突き出した。
「私の目、どう見えます?」
「どうって」
「義眼なんですよ、両方とも」
言われて始めて瑞穂は気づいた。
境谷の両目が動かないのだ。
いつも少し目を細めて笑っているような顔だから、気づかなかったのかもしれないが。
「え? でも」
瑞穂は思わず被っている服に触った。
境谷がこの服を作った、といったことを思い出したのだ。
白杖を使ってない、というレベルの問題ではないし、単に慣れや鋭い感覚という範囲を超えているように思える。
瑞穂の問いかけは境谷にとっては繰り返された質問の一つだったらしい。少し目を見開いて、自分の両目を確認させるようにうなずき、続いて優しい声で、
「そう、でも、見えるんですよ、なぜか」
境谷はほほ笑んだ。
「鷹栖さんが髪の毛を後ろで三つ編みにしてるのも、今テーブルの上にぶっ壊れたランプとなぜか血のついた紙があるのも、ちゃんと見えてますよ。まあ、厳密に言うと、カメラの原理で見えているのではなくて、何だかわからないけど、脳の中に見えているといいますか。でも、最新の医学では、結局普通の視覚でも脳内処理をして映像化しているそうですから、私にとっては同じことだと思うんですがね」
境谷は少しことばを切って考え、静かに付け加えた。
「目玉がなくても見えてるなんて、まあ普通一般に言う世間じゃ許してくれないんです。ましてや、超能力でもなくてただ『普通に』見えてるだけ、ただ『視覚受容器官』がないだけなんていうのはね。障害者の仲間にも入れないんですよ、私は。『見えて』ますからね」
境谷の穏やかな笑みの向こうに一瞬修羅場が見えた気がした。
「鷹栖さんもそういうものだと考えられたらどうでしょうか」
境谷は初めて会ったときのように、両手を無邪気な女子高校生のようにあわせてにこにこした。
「見えてるものが正しいかどうかなんて、あんまり意味はありません。世間からずれてるというのも、どこを世間と呼ぶかで変わってくる程度のものです。今、鷹栖さんにとっては、この『エターナル・アイズ』こそが世間だと考えれば、けっこう気楽にやれるんじゃないでしょうか」
「あの、ひょっとして」
瑞穂は気づいた。
「境谷さんは、『グリーン・アイズ』が、特別な力を持っているって気づいていて雇ったんですか?」
「いいえ」
境谷はにやっと唇を上げ、したたかな笑みに目を細めた。
「見栄えがいいからですよ。こういう商売は『見えている』ものも意外と大切な要素なのでね」
それがあまりにも当然のように続けられたので、瑞穂は思わず吹き出してしまった。
「ああ、笑われましたね、いい顔です」
境谷はうれしそうにうなずいて立ち上がった。
「それじゃあ、今日は終わりにしましょうね。あ、ところで」
カーテンをくぐりかけて振り返る。
「私の代金はどうしたらいいと思います? 時間外ということで、鷹栖さんのバイト代に上乗せしておきましょうか?」
「は?」
瑞穂はきょとんとした。
「境谷さんの、ですか?」
「はい、今、私は『ブラック・アイズ』に見てもらったわけでしょう?」
「でも、それは」
瑞穂は首を傾げた。
「えーと、逆で、あたしが話を聞いてもらった、んじゃないでしょうか」
「ああ、そうですね。私があなたのカウンセリングをした、と、そういうことでいいですか。その方が、お金がかからなくて、私としてはありがたいんですよ、どうもすみませんね」
境谷はにこにことまた元の無邪気な笑いに戻って、カーテンを開いた。
(やっぱり、どうも変な人)
そう思ったとたん、境谷が動きをとめて、瑞穂はぎょっとした。
(まさか、この人まで『人の心が読める』っていうんじゃない、よね)
「一つ、言っておいたほうがいいかもしれませんね」
境谷は瑞穂に背中を向けたまま、低い声でつぶやいた。
「あなたには、たぶん、信じられないようなものがある、と思いますよ」
「どういうことですか?」
瑞穂は体を固くした。
「それは、奇跡を生む、力です」
「は、あ?」
境谷があまりにも妙なことを言い出して、瑞穂は一瞬頭が白くなった。
「奇跡、ですかあ?」
口に出してみると、一層奇妙な響きに聞こえてためらう。
「そう、人を、変える、力。物事の、未来を、変える、力」
ぐ、と境谷の背中に、さっき一瞬見えた修羅場の殺気が広がった。ことさらに区切って続けたことばの一つ一つにすさまじい緊張感がこもっている。
瑞穂は無意識に息を詰めた。
(この人も外見通りの人じゃない)
「私が、自分から目のことを話したのは」
境谷はするりとカーテンの向こうへすりぬけながら、
「あなただけだということです」
境谷の声に初めて激しさが光った。
瑞穂がその意味に気づく前に、境谷の姿はその場から消えていた。
(目のことを話したのは、あたしにだけ)
瑞穂は張り詰めていた緊張を吐き出して、立ち上がった。のろのろと後ろのカーテンをわけ、奥の部屋に入って鏡をのぞき、ふいにあることに気づく。
瑞穂はずっとベールを被っていた。境谷と話しているときも。だから、瑞穂がどんな顔をしようと、境谷に見えるはずがなかったのだ、ただの『普通』の視力なら。
(『気配』が尋ねているんだ)
瑞穂はベールを脱ぎ、ドレスも脱いで畳み整えた。
(『見えないもの』が見える力を、人はどうして受け入れればいいのか、と)
『グリーン・アイズ』も境谷も、そして瑞穂自身も、その力を扱いあぐねて傷つき続けている。
境谷は物事をあいまいにすることで、『グリーン・アイズ』は破壊することで、そして瑞穂は世界を拒むことで、その苦痛から逃れようとしている。
(けれど、どれも、救いにならない)
そして、瑞穂は、それらのテーマを見事に解決して見せろ、と『グリーン・アイズ』に挑まれているのだ。
(ううん、『気配』に。あたし自身の『未来』に)
部屋の薄いドアを開けて、後ろの通路に出ても、人の気配はどこにもなかった。『グリーン・アイズ』は先に帰ったにせよ、境谷はどこかにいるはずだが、まったく人気がなくなっている。
瑞穂はためらいながら、ドアを閉め、通路を抜けて外に出た。
時計を見ると、八時を少し過ぎているぐらい、街の中はうっすらと明るい夏の夜だ。
(これから、家に帰って、ごはん、かあ)
マンションの昼間の熱に蒸された部屋に戻るのは、少し疲れる気がして、瑞穂は近くのバーガーショップに寄った。店内は明るくて、学生や勤め帰りのサラリーマンが思い思いに席に座り、目の前のトレーに載せたバーガーやポテトを口に運びストローをくわえている。
瑞穂はチーズバーガーとオレンジジュースを頼み、店の隅のテーブルに滑り込んだ。
(みんな、幸せそうだなあ)
自分が大海にただ一人、頼りにもならないぼろ船で、仲間を得られるあてさえなく旅立った小さな小さな子どものような気がした。
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