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選んだのは・2
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部屋の中には誰もいなかった。ベッドも確認したが、アズールスは寝ていなかった。
(アズールスさん、どこに行ったの?)
柚子は何気なく、アズールスの部屋のバルコニーに出てみた。
空にはピンク色の月が高い位置に昇っていた。
「ユズ?」
柚子がバルコニーから月を眺めていると、下から名前を呼ばれた。
「アズールスさん!? お庭に居たんですか?」
アズールスは庭に立っていた。
部屋に戻った時に着替えたのだろうか。アズールスの服は部屋着へと変わっていた。
アズールスは驚愕の顔で、柚子を見上げていたのだった。
「何故、俺の部屋に居るんだ? それより、早く自分の部屋に戻るんだ! 元の世界に帰れなくなる!」
アズールスは部屋に戻るように言ってくるが、柚子は首を振った。
「私は、まだアズールスさんに何もお礼をしていません!」
「ユズは充分過ぎるくらい礼をしてくれた。誰かと過ごす時間の大切さ、夢を追いかける事の大切さを教えてくれた。それだけでもう充分だ」
アズールスは微笑んだ。その笑顔はとても寂しそうだった。
また、アズールスは自分の気持ちに嘘をついている、と柚子は思った。
昨夜の「帰らないで欲しい」がアズールスの本当の気持ちで。
けれども、アズールスは柚子の気持ちを尊重しようとしてくれる。
アズールスは優しい。優し過ぎる。
失うくらいなら、自分から手放す事にしたのだ。
柚子は泣きそうになって歪ませていた口を大きく開くと、アズールスに向かって叫んだ。
「私はアズールスさんの事が好きです!」
アズールスは、ハッとして柚子を見つめてきた。
「だから、アズールスさんの側に居たい。アズールスさんの近くに居たい。これからも!」
柚子はバルコニーから身を乗り出しながら続ける。
「アズールスさんは私の夢を応援してくれると言ってくれました。だったら、私は応援してくれる人の近くで夢を叶えたい。夢を叶えた姿を見て欲しいんです」
口先だけの「応援している」なら、元の世界で散々言われた。
けれども、アズールスが言っている「応援している」は本当に心がこもったものだった。
「このままだと、元の世界に帰っても後悔ばかりして……。アズールスさんの事を忘れられそうにない。気持ちに区切りをつけられそうにないです!」
「ユズ……」
アズールスは柚子が立っているバルコニーの近くまでやってくると、立ち止まった。
月明かりに照らさ
元の世界に戻ったとして、またアズールスの様な人に出会えるだろうか?
アズールスの様に、誰かの夢を大切にして、応援してくれる人と。
ーーこんな、柚子《わたし》を愛してくれる人と。
「それに」
柚子は涙を流しそうになって言葉を切った。
これを言ってしまったら、元の世界に帰れなくなるような気がした。
でも、言いたかった。伝えたいと思った。
言わなければ、きっと後悔する。
柚子は大きく息を吸い込むと、バルコニーから更に身を乗り出した。
そうして、庭に居るアズールスに向かって、精一杯、叫んだ。
「私はアズールスさんの事が好きです! だから、もっとアズールスさんの事を知りたい!」
すると、アズールスはこれまで見た事がない、とびきりの笑顔で返してくれたのだった。
「俺もだ」
その言葉に、柚子は破顔した。
ようやく、二人の想いが重なったのだと。
安心してアズールスを見つめていた柚子を、ひときわ強く風が吹いた。
バルコニーから身を乗り出していた柚子はバランスを崩しそうになった。
「ユズ!?」
「大丈夫です! だいじょ……」
柚子は返事をする時に、身体を支えていた腕の力を抜いてしまった。
「あわわわ!」
片腕だけでもバルコニーを掴もうとしたが、柚子の体重を支えきれなかった。
「ユズ!」
柚子はバルコニーから転落してしまったのだった。
れたアズールスの黒髪が、輝いているように思えたのだった。
(アズールスさん、どこに行ったの?)
柚子は何気なく、アズールスの部屋のバルコニーに出てみた。
空にはピンク色の月が高い位置に昇っていた。
「ユズ?」
柚子がバルコニーから月を眺めていると、下から名前を呼ばれた。
「アズールスさん!? お庭に居たんですか?」
アズールスは庭に立っていた。
部屋に戻った時に着替えたのだろうか。アズールスの服は部屋着へと変わっていた。
アズールスは驚愕の顔で、柚子を見上げていたのだった。
「何故、俺の部屋に居るんだ? それより、早く自分の部屋に戻るんだ! 元の世界に帰れなくなる!」
アズールスは部屋に戻るように言ってくるが、柚子は首を振った。
「私は、まだアズールスさんに何もお礼をしていません!」
「ユズは充分過ぎるくらい礼をしてくれた。誰かと過ごす時間の大切さ、夢を追いかける事の大切さを教えてくれた。それだけでもう充分だ」
アズールスは微笑んだ。その笑顔はとても寂しそうだった。
また、アズールスは自分の気持ちに嘘をついている、と柚子は思った。
昨夜の「帰らないで欲しい」がアズールスの本当の気持ちで。
けれども、アズールスは柚子の気持ちを尊重しようとしてくれる。
アズールスは優しい。優し過ぎる。
失うくらいなら、自分から手放す事にしたのだ。
柚子は泣きそうになって歪ませていた口を大きく開くと、アズールスに向かって叫んだ。
「私はアズールスさんの事が好きです!」
アズールスは、ハッとして柚子を見つめてきた。
「だから、アズールスさんの側に居たい。アズールスさんの近くに居たい。これからも!」
柚子はバルコニーから身を乗り出しながら続ける。
「アズールスさんは私の夢を応援してくれると言ってくれました。だったら、私は応援してくれる人の近くで夢を叶えたい。夢を叶えた姿を見て欲しいんです」
口先だけの「応援している」なら、元の世界で散々言われた。
けれども、アズールスが言っている「応援している」は本当に心がこもったものだった。
「このままだと、元の世界に帰っても後悔ばかりして……。アズールスさんの事を忘れられそうにない。気持ちに区切りをつけられそうにないです!」
「ユズ……」
アズールスは柚子が立っているバルコニーの近くまでやってくると、立ち止まった。
月明かりに照らさ
元の世界に戻ったとして、またアズールスの様な人に出会えるだろうか?
アズールスの様に、誰かの夢を大切にして、応援してくれる人と。
ーーこんな、柚子《わたし》を愛してくれる人と。
「それに」
柚子は涙を流しそうになって言葉を切った。
これを言ってしまったら、元の世界に帰れなくなるような気がした。
でも、言いたかった。伝えたいと思った。
言わなければ、きっと後悔する。
柚子は大きく息を吸い込むと、バルコニーから更に身を乗り出した。
そうして、庭に居るアズールスに向かって、精一杯、叫んだ。
「私はアズールスさんの事が好きです! だから、もっとアズールスさんの事を知りたい!」
すると、アズールスはこれまで見た事がない、とびきりの笑顔で返してくれたのだった。
「俺もだ」
その言葉に、柚子は破顔した。
ようやく、二人の想いが重なったのだと。
安心してアズールスを見つめていた柚子を、ひときわ強く風が吹いた。
バルコニーから身を乗り出していた柚子はバランスを崩しそうになった。
「ユズ!?」
「大丈夫です! だいじょ……」
柚子は返事をする時に、身体を支えていた腕の力を抜いてしまった。
「あわわわ!」
片腕だけでもバルコニーを掴もうとしたが、柚子の体重を支えきれなかった。
「ユズ!」
柚子はバルコニーから転落してしまったのだった。
れたアズールスの黒髪が、輝いているように思えたのだった。
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