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寂しいなら・9
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「越えられない壁……ですか?」
マリスは小さく頷くと、そっと目を伏せる。
「そう。生まれながらに持っているもの、自分に付随しているものでもいい。自分ではどうすることも出来なくて、ただ見上げていることしか出来ないもの。
自分以外の周りは、そんな越えられない壁を含めた自分しか見てくれなくて……誰も手を貸してくれない。そんな時、サーヤだったらどうする?」
「どうと言われても……」
沙彩が生まれながらに持っている越えられない壁というのは、身体や容姿のことだろうか。
身体や容姿は自分ではどうすることも出来ず、自分の周りも貸してくれない。
周りはただ見ているだけで、身体や容姿を通すことでしか、沙彩を見てくれない。
沙彩自身が持つ、内面や本質そのものには、誰も目を向けてくれない。
「私も越えられない壁にぶつかったら、見上げている事しか出来ないと思います。でも見上げているだけは、なんだか悔しいです。越えられないからと言って、それで諦めてしまうのも違う気がします」
「違うというのは?」
「その壁は、本当に越えられない壁なのでしょうか? 実はどこかに抜け穴のような場所や、ギリギリ通れそうな隙間はないのでしょうか? その可能性も全て含めて確認して、それでもどこにも越えられそうな場所がないなら、その時は……その時は私も諦めます。少しでも可能性がある内は、諦めたくないです……」
最後は尻すぼみになってしまったが、マリスは目を細めると、沙彩の頭を撫でたのだった。
「そっか……。サーヤは凄いね」
「全然、すごくなんて……」
「サーヤは気づいていないだけなんだ。君自身がどんな魅力を持っているのか、思慮深く、理知的なのか」
「買い被りすぎです。私は、ただ、諦めが悪いだけです。大好きな漫画の特装版が売り切れなら、見つかるまで書店や通販サイトを巡りますし、大好きな小説の初版が欲しい時は、出版社にだって問い合わせます。本に限った話ではありませんが、自分のすぐ近くにあるのに手に入れられないって……悔しいじゃないですか……」
顔を綻ばせたマリスが真昼の太陽の様に眩しく見えるような気がして、沙彩は顔を背けるとカップに口をつける。
カップの中が空になっても、しばらくマリスから目を背け続けたのだった。
「悔しいか……。なんだか懐かしい言葉を聞いたな」
マリスの言葉に反応して、沙彩がカップから口を離すと、すかさず伸びてきたマリスの手に回収される。
もしかして、飲んでいる振りをしていたことに気づいたのだろうか。
「懐かしいですか? マリスさんは悔しいって思ったことないんですか?」
「昔、色々あってね。でもそれはまた別の機会に話そうか。あまり遅いと明日に響くだろう」
マリスのエメラルドの瞳が翳りを帯びた様に見えたのは気のせいだろうか。
それについて問い掛ける前に、マリスはすぐに頭を降るといつもの顔に戻ってしまう。
マリスは小さく頷くと、そっと目を伏せる。
「そう。生まれながらに持っているもの、自分に付随しているものでもいい。自分ではどうすることも出来なくて、ただ見上げていることしか出来ないもの。
自分以外の周りは、そんな越えられない壁を含めた自分しか見てくれなくて……誰も手を貸してくれない。そんな時、サーヤだったらどうする?」
「どうと言われても……」
沙彩が生まれながらに持っている越えられない壁というのは、身体や容姿のことだろうか。
身体や容姿は自分ではどうすることも出来ず、自分の周りも貸してくれない。
周りはただ見ているだけで、身体や容姿を通すことでしか、沙彩を見てくれない。
沙彩自身が持つ、内面や本質そのものには、誰も目を向けてくれない。
「私も越えられない壁にぶつかったら、見上げている事しか出来ないと思います。でも見上げているだけは、なんだか悔しいです。越えられないからと言って、それで諦めてしまうのも違う気がします」
「違うというのは?」
「その壁は、本当に越えられない壁なのでしょうか? 実はどこかに抜け穴のような場所や、ギリギリ通れそうな隙間はないのでしょうか? その可能性も全て含めて確認して、それでもどこにも越えられそうな場所がないなら、その時は……その時は私も諦めます。少しでも可能性がある内は、諦めたくないです……」
最後は尻すぼみになってしまったが、マリスは目を細めると、沙彩の頭を撫でたのだった。
「そっか……。サーヤは凄いね」
「全然、すごくなんて……」
「サーヤは気づいていないだけなんだ。君自身がどんな魅力を持っているのか、思慮深く、理知的なのか」
「買い被りすぎです。私は、ただ、諦めが悪いだけです。大好きな漫画の特装版が売り切れなら、見つかるまで書店や通販サイトを巡りますし、大好きな小説の初版が欲しい時は、出版社にだって問い合わせます。本に限った話ではありませんが、自分のすぐ近くにあるのに手に入れられないって……悔しいじゃないですか……」
顔を綻ばせたマリスが真昼の太陽の様に眩しく見えるような気がして、沙彩は顔を背けるとカップに口をつける。
カップの中が空になっても、しばらくマリスから目を背け続けたのだった。
「悔しいか……。なんだか懐かしい言葉を聞いたな」
マリスの言葉に反応して、沙彩がカップから口を離すと、すかさず伸びてきたマリスの手に回収される。
もしかして、飲んでいる振りをしていたことに気づいたのだろうか。
「懐かしいですか? マリスさんは悔しいって思ったことないんですか?」
「昔、色々あってね。でもそれはまた別の機会に話そうか。あまり遅いと明日に響くだろう」
マリスのエメラルドの瞳が翳りを帯びた様に見えたのは気のせいだろうか。
それについて問い掛ける前に、マリスはすぐに頭を降るといつもの顔に戻ってしまう。
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