79 / 357
移送作戦【準備】・4
しおりを挟む
「その代わりと言いますか、妻も、妻の両親も、貴女に会いたがっていました。特に妻はアリーシャ嬢と同年代なので、きっと良き友人になれると思います」
言われてみれば、セシリアは今年で二十三になるはずだ。
アリーシャの年齢は聞いていなかったが、おそらくセシリアと同い年くらいだろう。
「その妻の両親は、産まれた頃から世話を焼いてきたオーキッド坊ちゃんの結婚相手に興味があるそうです。アリーシャ嬢さえ良ければ、会ってやって下さい」
クシャースラの聞き捨てならない言葉に、オルキデアは口を挟む。
「おい、ちょっと待て。その『産まれた頃から世話を焼いてきたオーキッド坊ちゃん』って、まさか俺のことじゃないよな?」
「まさに、お前さんのことだよ。オーキッド坊ちゃん……いや、オルキデア・アシャ・ラナンキュラス少将」
「全く……」
面白そうに話すクシャースラに、オルキデアは掌で額を押さえて溜め息を吐いたのだった。
セシリアの母親のマルテは、結婚するまではラナンキュラス家で働くメイドであった。
父のエラフに会いに屋敷に訪問した後のセシリアの父親であるメイソン・コーンウォールに惚れられ、度重なる求婚の末に結婚した。
結婚する際にマルテはメイドを辞めてしまったが、マルテの結婚後もエラフとメイソンの関係が良好なこともあり、オルキデアが産まれる際やエラフの葬儀の際には手伝いに来てくれたのだった。
そういった縁もあり、マルテとメイソンの娘であるセシリアとは子供の頃から付き合いがあった。セシリアの歳の離れた弟たちとはあまり縁は無いが、セシリアが幼い頃は遊び相手になったものだった。
セシリアが子供の頃は「オーキッドさま」と言って、何かとオルキデアの後をついて来て、オルキデアの真似ばかりしていた。
血の繋がりはないものの、セシリアはオルキデアにとって実の妹の様に大切な存在であった。
そんなセシリアが選んだ相手が、驕っているだけのどこぞのぼんくら貴族ではなく、信頼の置ける実直な親友で良かったと密かに安心している。
二人の様子を見ていたアリーシャは、「是非、お会いしたいです」と微笑む。
「私、学校に通っていなかったんです。だから、友人がいなくて……」
「そうなのか?」
これにはクシャースラだけではなく、オルキデアも目を丸くした。
「はい。だから、オルキデア様とクシャースラ様を見ていると、すっごく羨ましくて……。いつか、同年代のお友達が欲しいと思っていたんです」
いつもの様に微笑を浮かべるアリーシャの顔に、どこか陰りが差していた。
それに気づいているのかいないのか、本人は「奥様のご両親にもお会いしたいです」と続けたのだった。
「オルキデア様が産まれた頃から知っている、ということは、私たちが知らない話も沢山知っていますよね? 子供の頃のオルキデア様や、私と出会う前のオルキデア様を」
「……聞いても面白いものは何も無いと思うぞ」
それどころか、オルキデア自身も忘れているような恥ずかしい話まで覚えていて、アリーシャに話してしまうかもしれない。
アリーシャに会わせる前に、コーンウォール夫妻に言い含める必要があるだろう。
二人の話しを聞きながらコーヒーを飲んでいたクシャースラは、「まあまあ」と止めたのだった。
「その話は置いといて。それで、いつだって?」
「調べたら、丁度四日後、軍で大きな演習がある。今回の演習では、王都に駐在している部隊のうち、約三分の二以上が参加するらしいな」
「ああ。そうだったな」
「その日に、アリーシャをここから移送させようと思う」
言われてみれば、セシリアは今年で二十三になるはずだ。
アリーシャの年齢は聞いていなかったが、おそらくセシリアと同い年くらいだろう。
「その妻の両親は、産まれた頃から世話を焼いてきたオーキッド坊ちゃんの結婚相手に興味があるそうです。アリーシャ嬢さえ良ければ、会ってやって下さい」
クシャースラの聞き捨てならない言葉に、オルキデアは口を挟む。
「おい、ちょっと待て。その『産まれた頃から世話を焼いてきたオーキッド坊ちゃん』って、まさか俺のことじゃないよな?」
「まさに、お前さんのことだよ。オーキッド坊ちゃん……いや、オルキデア・アシャ・ラナンキュラス少将」
「全く……」
面白そうに話すクシャースラに、オルキデアは掌で額を押さえて溜め息を吐いたのだった。
セシリアの母親のマルテは、結婚するまではラナンキュラス家で働くメイドであった。
父のエラフに会いに屋敷に訪問した後のセシリアの父親であるメイソン・コーンウォールに惚れられ、度重なる求婚の末に結婚した。
結婚する際にマルテはメイドを辞めてしまったが、マルテの結婚後もエラフとメイソンの関係が良好なこともあり、オルキデアが産まれる際やエラフの葬儀の際には手伝いに来てくれたのだった。
そういった縁もあり、マルテとメイソンの娘であるセシリアとは子供の頃から付き合いがあった。セシリアの歳の離れた弟たちとはあまり縁は無いが、セシリアが幼い頃は遊び相手になったものだった。
セシリアが子供の頃は「オーキッドさま」と言って、何かとオルキデアの後をついて来て、オルキデアの真似ばかりしていた。
血の繋がりはないものの、セシリアはオルキデアにとって実の妹の様に大切な存在であった。
そんなセシリアが選んだ相手が、驕っているだけのどこぞのぼんくら貴族ではなく、信頼の置ける実直な親友で良かったと密かに安心している。
二人の様子を見ていたアリーシャは、「是非、お会いしたいです」と微笑む。
「私、学校に通っていなかったんです。だから、友人がいなくて……」
「そうなのか?」
これにはクシャースラだけではなく、オルキデアも目を丸くした。
「はい。だから、オルキデア様とクシャースラ様を見ていると、すっごく羨ましくて……。いつか、同年代のお友達が欲しいと思っていたんです」
いつもの様に微笑を浮かべるアリーシャの顔に、どこか陰りが差していた。
それに気づいているのかいないのか、本人は「奥様のご両親にもお会いしたいです」と続けたのだった。
「オルキデア様が産まれた頃から知っている、ということは、私たちが知らない話も沢山知っていますよね? 子供の頃のオルキデア様や、私と出会う前のオルキデア様を」
「……聞いても面白いものは何も無いと思うぞ」
それどころか、オルキデア自身も忘れているような恥ずかしい話まで覚えていて、アリーシャに話してしまうかもしれない。
アリーシャに会わせる前に、コーンウォール夫妻に言い含める必要があるだろう。
二人の話しを聞きながらコーヒーを飲んでいたクシャースラは、「まあまあ」と止めたのだった。
「その話は置いといて。それで、いつだって?」
「調べたら、丁度四日後、軍で大きな演習がある。今回の演習では、王都に駐在している部隊のうち、約三分の二以上が参加するらしいな」
「ああ。そうだったな」
「その日に、アリーシャをここから移送させようと思う」
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる