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おまけ
ブーゲンビリア侯爵と姉弟・上【5】
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(私も将来的に子を成したら、ああやって食を与えるのですね)
ヴィオーラの様な上流階級の貴族の子供は、専ら両親が雇った乳母に育てられる。
実際にヴィオーラも、弟のマキウスも、屋敷のメイドだったペルラを乳母として付けられて、ほとんどペルラに育てられていた。
しかし市井の母親たちは、自らの手で我が子の面倒を看るらしい。
四六時中、ほぼ付きっきりで我が子に付き添い、それと平行して家事をこなすものだと、同じ小隊の女性騎士たちから聞いていた。
モニカも今は乳母のアマンテに頼っているが、本来なら母親と父親だけで我が子を育てるものだと知っているらしい。
先日の昼食の際に、モニカ自身が「本来なら一人で育てるので、こんなに楽じゃないんですよ~」と苦笑していた。「今は周囲にも手伝ってもらっていますが、いずれは一人で子育てが出来るようになりたい」とも話していたのだった。
貴族の妻なら乳母がいるのが当たり前であり、乳母に子供を任せて、自分は屋敷や家計の維持に専念する。上流階級になると、屋敷や家計の維持も任せて、自分の力を持つものであった。
それなのに、モニカも市井の母親たちと同じように、一人で育児が出来るようになりたいと考えているとは思わなかった。
弟の伴侶にしては、随分といじらしい。育った環境や国が違うと、こうも考えが異なるものなのか。
可愛げのない弟には、もったいない嫁だとヴィオーラは常々思っている。
そんな愛しい義妹や、市井の母親たちを見習って、ヴィオーラもいずれ結婚して、出産した際には自分の手で我が子を育てようと決めていた。
最初はモニカの様に、乳母の手を借りつつ、やがて慣れたら一人で育てたい。
自分が産み育てた子は、どんな人生を歩むのだろうか。自分に似るのか、相手に似るのか。
子供が産まれた際に手本となれるように、今は親となる自分が多くの経験を積まなければならない。
「モニカさんを娶った時は眉間に皺ばかり寄せて、楽しそうな話を何も聞かせてくれませんでした。……だからと言って、楽しくない話も聞かせてくれませんでしたが」
今では、マキウスと休憩を共にする際には、モニカやニコラに関する話を楽しそうに話してくれる。
本人はいつも通りに話しているつもりだろうが、表情や声、話し方から、どこか嬉しそうな弟の姿に、ヴィオーラもいつも微笑ましい気持ちで見ていたのだった。
「それは……。モニカが……」
「ええ。モニカさんの出産や怪我が原因だとわかっております。それにしても、もっと姉を頼っても良かったのですよ?」
「そうですね……」
もう過ぎた話ではあるが、もっとマキウスに頼られたかった。
大切な弟がーー家族が悩んでいるのに側で見ていることしか出来ないのは、歯痒いものだった。
(昔は、もっと頼ってくれたものですが……)
子供の頃とは違い、お互いに立場がある。身分や階級が違うから難しいというのはわかっている。
それでも、ヴィオーラにとっては苦悩する弟を前に何も出来ず、悶々とすることになったのだった。
「それでは、私はこれで失礼します」
「ええ、マキウス。また明日」
一礼して立ち去るマキウスを見送ると、ヴィオーラも荷物をまとめて、執務室を後にしたのだった。
ヴィオーラの様な上流階級の貴族の子供は、専ら両親が雇った乳母に育てられる。
実際にヴィオーラも、弟のマキウスも、屋敷のメイドだったペルラを乳母として付けられて、ほとんどペルラに育てられていた。
しかし市井の母親たちは、自らの手で我が子の面倒を看るらしい。
四六時中、ほぼ付きっきりで我が子に付き添い、それと平行して家事をこなすものだと、同じ小隊の女性騎士たちから聞いていた。
モニカも今は乳母のアマンテに頼っているが、本来なら母親と父親だけで我が子を育てるものだと知っているらしい。
先日の昼食の際に、モニカ自身が「本来なら一人で育てるので、こんなに楽じゃないんですよ~」と苦笑していた。「今は周囲にも手伝ってもらっていますが、いずれは一人で子育てが出来るようになりたい」とも話していたのだった。
貴族の妻なら乳母がいるのが当たり前であり、乳母に子供を任せて、自分は屋敷や家計の維持に専念する。上流階級になると、屋敷や家計の維持も任せて、自分の力を持つものであった。
それなのに、モニカも市井の母親たちと同じように、一人で育児が出来るようになりたいと考えているとは思わなかった。
弟の伴侶にしては、随分といじらしい。育った環境や国が違うと、こうも考えが異なるものなのか。
可愛げのない弟には、もったいない嫁だとヴィオーラは常々思っている。
そんな愛しい義妹や、市井の母親たちを見習って、ヴィオーラもいずれ結婚して、出産した際には自分の手で我が子を育てようと決めていた。
最初はモニカの様に、乳母の手を借りつつ、やがて慣れたら一人で育てたい。
自分が産み育てた子は、どんな人生を歩むのだろうか。自分に似るのか、相手に似るのか。
子供が産まれた際に手本となれるように、今は親となる自分が多くの経験を積まなければならない。
「モニカさんを娶った時は眉間に皺ばかり寄せて、楽しそうな話を何も聞かせてくれませんでした。……だからと言って、楽しくない話も聞かせてくれませんでしたが」
今では、マキウスと休憩を共にする際には、モニカやニコラに関する話を楽しそうに話してくれる。
本人はいつも通りに話しているつもりだろうが、表情や声、話し方から、どこか嬉しそうな弟の姿に、ヴィオーラもいつも微笑ましい気持ちで見ていたのだった。
「それは……。モニカが……」
「ええ。モニカさんの出産や怪我が原因だとわかっております。それにしても、もっと姉を頼っても良かったのですよ?」
「そうですね……」
もう過ぎた話ではあるが、もっとマキウスに頼られたかった。
大切な弟がーー家族が悩んでいるのに側で見ていることしか出来ないのは、歯痒いものだった。
(昔は、もっと頼ってくれたものですが……)
子供の頃とは違い、お互いに立場がある。身分や階級が違うから難しいというのはわかっている。
それでも、ヴィオーラにとっては苦悩する弟を前に何も出来ず、悶々とすることになったのだった。
「それでは、私はこれで失礼します」
「ええ、マキウス。また明日」
一礼して立ち去るマキウスを見送ると、ヴィオーラも荷物をまとめて、執務室を後にしたのだった。
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