【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

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おまけ

ブーゲンビリア侯爵と姉弟ー過去ー【6】

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「でも……」
「マキウスは気にしなくていいのよ。それより見て。お母様に頂いたの」

 ヴィオーラはポケットに入れていた包みを取り出すと、包みを解いて膝の上に広げる。

「わあ……」

 泣き顔を綻ばせて、マキウスは目を輝かせた。
 広げた包みの中には、紫やピンク、黄色などの色とりどりの花の砂糖漬けが入っていたのだった。

「お母様が、オルタンシア侯爵夫人からもらったらしいの。先日、魔法石をくれたお礼にって」

 ヴィオーラたちブーゲンビリア侯爵家と、オルタンシア侯爵家には繋がりがあった。
 また、ヴィオーラの母親の生家であるロードデンドロン公爵家も、オルタンシア侯爵夫人と懇意の仲であった。
 ヴィオーラの母親が子供の頃、オルタンシア侯爵夫人に勉学を見てもらっていたらしい。
 そういった縁もあって、ヴィオーラの母親が嫁いだ今でも親交が続いているが、ヴィオーラの母親はオルタンシア公爵夫人が嫌いなようで、ヴィオーラがオルタンシア公爵夫人について尋ねると、いつも「具合が悪く」なるのだった。
 あくまで、ヴィオーラの母親は、オルタンシア侯爵夫人とは「貴族としてのお付き合いだけ」に留めたいらしい。

「きれい……」
「そうでしょ! マキウスと一緒に食べようと思って持って来たの!」
「でも……」
「いいから! 一人で食べるより、みんなで分けた方が美味しいでしょ!」

 ヴィオーラは砂糖漬けを一つ取ると、マキウスの口に突っ込む。
 マキウスは口をモグモグと動かすと、小さく笑ったのだった。

「……美味しい」
「そうでしょ! もっと食べて!」

 ヴィオーラも紫色の砂糖漬けを口に入れる。
 砂糖の甘さと花の香りが、胸に染み入るようで心地良かった。
 ヴィオーラも自然と笑みを浮かべたのだった。

 包みが空っぽになる頃には、マキウスはすっかり泣き止んでいた。
 砂糖菓子が美味しかったのか、満足そうな笑みを浮かべる弟の姿に、ヴィオーラも安心したのだった。

「さあ、マキウスは一度部屋に帰らないと。ペルラに着替えを……」

 その時、遠くから大人の男たちの話し声が近づいてきたのだった。

「やはり、加工代は高くつくな……」
「はい。依頼される加工が結構、緻密なもので……」
「アレの無駄遣いにも困ったものだ……」

 ヴィオーラたちがいた屋敷の裏側にやってきたのは、二人の男だった。
 先を歩いていたのは、姉弟と同じ色の髪を伸ばし、うなじの辺りで結び、肩から胸元に垂らした細身の男。その後ろから話しながらやってきたのは、体つきのいい職人の様な見た目をしたユマン族人の男だった。
 ヴィオーラにも見覚えがあった。ユマン族人の男はヴィオーラの母親もよく利用しているブーゲンビリア侯爵家御用達の魔法石の加工職人だった。
 その加工職人はヴィオーラたちに気づくことなく、話しながら近づいて来たのだった。

「この辺りに、魔法石の灯りを設置するとなると、相当金額がかかりますぜ」

 先頭を歩いていた男は、姉弟の姿に近づくとピタリと足を止めた。
 後ろからやって来た加工職人の男も、先頭を歩いていた男が片手を上げると、訝しみながら立ち止まったのだった。

「お父様!」
「ヴィオーラ、そして、マキウス。こんなところで何をしている?」

 先頭を歩いていた細身の男は、姉弟の父親であるブーゲンビリア侯爵であった。
 ブーゲンビリア侯爵はアメシストのような切れ長の紫色の瞳を細めると、姉弟をじっと見つめていたのだった。

「お父様……あの……」

 マキウスは縋るようにヴィオーラの背中に隠れてしまった。
 マキウスはヴィオーラの母親だけではなく、父親のブーゲンビリア侯爵も苦手だった。マキウスがすぐ泣いて、姉の後ろに隠れてしまうことに、侯爵がよく苦言を呈されるからだろう。それが原因でますますマキウスは侯爵を怖がる様になってしまった。最近では侯爵と顔を合わせるだけで、マキウスはヴィオーラや物陰に隠れる様になり、グッと泣くのを堪える様に俯いてしまうようになった。
 そんな息子の態度に侯爵も困っているようで、侯爵はいつも眉間の皺を深くしていたのだった。

「あの、侯爵様……?」
「すまないが。あちらで使用人と打ち合わせをしてもらえるだろうか?」

 侯爵は屋敷側を指差すと、困惑していた加工職人は渋々ながら、指差した方に向かったのだった。
 そうして、加工職人の姿が見えなくなると、侯爵は姉弟に歩み寄ってきたのだった。
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