食堂のおばあちゃん物語

みどり

文字の大きさ
上 下
23 / 38

カマキリからの

しおりを挟む
オレはカマキリだった。


それもとびきり強くて体も大きかった。


一目惚れしたあの子と愛を誓い合った後


食べられてしまったのだった。


でも、なんか意識あるぞ。


腕を動かしてみた。


「何だこれ。」


オレは人間の女の子に転生してしまった。


「ねぇねぇ、君いくつ?どうしてこんなトコにいるのかな?」


「お兄さんたちが家まで送ってあげるよ。」


繁華街の外れにある飲食店の裏のゴミ箱の隣でオレは膝を抱えてうずくまっていた。


少女だった。


この感覚は、寄生虫がカマキリを宿主とするのと同じか?


寄生虫になったのか?


落ちぶれたのか?高尚になったのかわからない。


男たちに言われるがまま駐車場へとやって来た。


そして車に押し込められた。


何やらよからぬことを考えているような顔つきだ。


早朝の街を通り抜け高速道路へと入る。


家の場所など伝えていない。


この先どこへ行くのか?


男たちは話してはいないが持っているスマホで会話しているようだ。


「ねぇ、何か食べる?」


飲み物を差し出されるも、直感が飲むなと言う。


オレもオスだからわかるよ。


オマエたちが考えてることは何となく。


「腹へったろ?何か食おうぜ。」


車はサービスエリアに入る。


駐車場の端に車は停まる。


男たちは目配せする。


弱い者は淘汰される。


男たちは弱そうに見えるオレを見て笑う。


「車に乗せてもらって、まさかタダで済むとは思ってないよな?」


オレが獲物を襲う時はいつもひとりだぜ。


ずるいじゃないか。


寄生虫舐めんなよ!


オレはひと暴れする。


「そこらでやめとけ。」


運転席の男が言う。


「おぼえとけよ。」


この腕が鎌でなくてよかったな。


「トイレ休憩だ。」


オレも車を降りる。


車の陰で一発殴られる。


それを合図に全員ボコボコにしてやったぜ。



「お、アレは好みの女の子!」


人間になったんだから、もう食される心配は無い。


思いっきり行こう!


「ちょっとそこのキミ!」


思ったより声がかわいい。


そういえば人間になってから声出してなかった。


かわいいキミは怯えた顔で逃げ始めた。


「ちょっと待ってよ。」


追いかけるのももどかしいので


カマキリになって飛んでみました。


「きゃー!虫!」


彼女は車の間をちょこまかと逃げる。


「おっとうまく曲がれない!」


オーバーランしてしまった先に


おばあちゃんが3人いた。


勢い余って真ん中のおばあちゃんの服にとまってしまう。


「カマキリじゃないか。」


おばあちゃんに首根っこつかまれる。


愛しの彼女を見失う。


「すごく立派な体つきですね。」


3人は代わる代わる顔を近づける。


そのうちどこかへ連れて行かれる。


「車に轢かれるんじゃないよ。」


また草むらに戻ってきた。


鎌で身だしなみを整える。


「さ、第三の人生始まりだ。」







しおりを挟む

処理中です...