鬼の棲む島

祈り

そんなある日

隣町からロクの家を訪ねてきた人がいます。

旅館、富屋の主人夫婦でした。

ひとり娘、なつがロクのお母さんと同じ病気で、もう何年も苦しんでいるというのです。

ロクのお母さんは、お風呂で使っている石を、富屋の主人に譲りました。

鬼からもらったその石は、毎日お風呂に入れていると、不思議と石から小さな泡が出て肌の調子も良くなり元気も湧いてくるのです。

ロクとロクのお母さんは「自分たちは健康になったのでこれを使ってください」と言いました。

なつもまた、お医者さんの薬と不思議な石のおかげで少しづつ体調がよくなりました。

なつがすっかり元気になった時、旅館のお風呂にこの石を入れました。

旅人にも疲れを癒して欲しかったのです。

お風呂が大きくなっても石は泡を出し続けました。

富屋の主人は不思議な石のことを誰にも話していませんでしたが、旅人たちは「体が軽くなる」と言いました。
「若返りの湯」として評判になり、お客が押し寄せ、旅館は大繁盛しました。

「そのお礼に」と富屋の主人は船にお金や宝石を山のように積み込んで鬼の棲む島にやって来ると、洞窟の入口で降ろしました。

鬼たちは「いらない」と言いましたが、富屋の主人は無理矢理置いて帰ったのです。



それを、少し離れた船の上から見ている者がいました。



それから、どれくらい月日が流れたでしょうか。


波の静かなある満月の夜。


突然、のぼりを持った男たちが鬼の棲む島へやって来ました。

よく切れる刀を持ったその男は、眠っている鬼たちの前でその刀を振りかざすと、鬼の命を次々に奪っていったのです。

そして、町の人々や富屋の主人からもらった財宝や着物などを奪い去りました。

財宝を奪うために命を取る必要があったでしょうか。


何も知らないロクがセキのところに遊びに来た時、船着場には、満月の夜に取りこぼした宝石が落ちていました。

洞窟の中では、コハクが大切にしていた木の箱が踏みにじられていました。


ロクのために作ってくれた船着場がこんなことになってしまい、ロクはたくさんたくさん泣きました。



人々は洞窟の中に祠を作り、手を合わせて祈りました。
コハクには、綺麗な貝殻の入った木の箱が新しく贈られました。




自動操縦の大きな船が行き交うようになった今、その島には灯台が作られました。

四季折々に咲く花たちが人々を静かに見守っています。