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エリスローズは鬼胎する
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「兄さんまで一緒に来るなんて」
「悪いか? さっさと戻してやれ」
「何を言ってるんだ。まだ解放するわけにはいかん」
「あ? お前こそ何言ってんだ? お前らの金の成る木が戻ってきたんだ、コイツはお役御免だろ」
アレンもエリスローズも今日で終わりだと思っていた。だがランドルは違った。
「エリーナは少し疲れていると言っていてな。休ませてやりた──ッ!?」
アレンが足早に階段を上がって玉座に座る弟の前まで行くと同時に胸ぐらを掴んで持ち上げる。
身体が宙に浮くことで足をバタつかせるランドルがアレンの腕を掴んで離させようとするも目の前にある顔の恐ろしさに声も出ない。
「休ませてやりたい? 笑えねぇ冗談言ってんじゃねぇぞ。この一年、あのアバズレにとっちゃ最高の休暇だっただろうが。優しいだけの無価値な夫と離れて魅力的な男に股開いて過ごしてきたんだからな」
「そ、そんな言い方はよしてちょうだい!」
「黙ってろエヴリーヌ」
ビクッと身体を跳ねさせるエヴリーヌが俯いて唇を噛み締める。
「アイツの人生はアイツのもんだ。テメーらの玩具じゃねんだよ」
「け、契約が──!」
「契約はあのアバズレが戻ってくるまでって内容だろうが。契約書に書いたのか? エリーナが戻り、疲れが取れるまでってよぉ」
「そ、それはでも──!」
「あのアバズレが責務を全うしようが国を潰そうがどうだっていい。アイツの仕事は今日、この瞬間、既に終わってんだよ。さっさと取り上げたもん返せや」
王族としての品性の欠片もないような言葉遣い。
どんどんと苦しさが増していくことに耐えきれず、ランドルはバタバタと手を動かして魔法使いを呼ぶよう兵士に指示を出した。
「ゲホッゲホッ! ハッ、ハッ……に、兄さんには関係ないじゃないか! なぜ兄さんがそこまであの娘にこだわるんだ!」
手を離され、椅子に座ると上手く吸えていなかった息を吸い、呼吸を乱しながら声を張る。
「それこそお前には関係ねぇことだろ」
「関係ないわけないだろ! 兄さんが関わることで私たちがどれだけ迷惑しているか!」
「迷惑? 土下座して王位を──」
「やめろ!!」
兵士たちがいる前で暴露しようとするアレンをランドルが大声で止める。
「情けねぇな、お前。国王になってもなんも変わらねぇ。ダセェままだ」
「な、なんだと!?」
「お前はしっかり親の背中を見て育ってる。あの腐りきった両親の背中をな」
「侮辱するな!」
「されるような人間になってんじゃねぇよ」
アレンの圧にランドルはいつも怯んでしまう。妻の前で、兵士の前でそんな姿は見せたくないのに強く言い返せない。
言い返しても言い返しても必ず言葉が返ってくる。ときには拳も。
昔からそうだった。アレンはいつも拳と圧でランドルを負かす。
これで国王にでもなられたら自分は惨めなまま生きていかなければならないと思って土下座してでも王位を譲ってもらったのに、結局はこうだと拳を握る。
「来たか。さっさとコイツに戻してやれ」
魔法使いが到着すると顎で指示し、慌ててエリスローズの前まで早歩きで向かった初老の魔法使いが杖を光らせた。
「一年間ご苦労だったな。これでようやく家族のもとに帰れるぞ」
嬉しそうに笑うエリスローズの頭を撫でるアレンの目に飛び込んできたのはドアを蹴り破る勢いで入ってきたリオンの姿。
息を切らせ、真っ青な顔で立っている。
「エリー、今すぐ馬車に」
「どうした?」
「説明してる暇はない! 急げ!」
前にもこんなことがあったと思い出すのはロイが高熱を出したとき。
また誰かが高熱を出したのだろうかと不安になるエリスローズの手を掴んだリオンが馬車まで引っ張っていく。
ロイをアレンが抱き上げ、一緒になって馬車へと向かうと既に用意された馬車に皆で乗り込んだ。
「何があったのか説明しろよ」
震えた声でロイが問いかける。
「さっき、別荘の兵士から伝達があって……」
一度言葉を切ってカラカラの喉を潤すように唾液を飲み込むと膝の上でグッと拳を握ってロイを見た。
「コリンたちが……倒れたと……」
「……は? たち、って……なんだよ……」
「コリンとフィーネだ」
エリスローズとロイの心臓が大きく跳ねる。
風邪ならそれでいい。今はまだ適切な治療を受けられるし、スラム街にいた頃より栄養も摂っていて免疫力も上がっているはずだから治る可能性が高い。
二人が心配しているのは一緒に暮らしているメイとシオン。
ロイが風邪をひいたとき両親が部屋に近付かないようにしていたが、その両親が倒れたらどうしているんだと心配になった。
「風邪か?」
アレンの問いかけにリオンは頷かない。それどころか更に顔色を悪くして俯いた。
「なんだよ……言えよ……」
心臓が大きく動き続けているロイが自分の胸を掴みながら促す。
「……ペスト、かも……しれないって……」
その言葉に目を見開いたのはアレンだけで、ロイとエリスローズはそれがなんなのか知らなかった。
「なんだよそのペストって……」
「僕も詳しいことはわからないんだけど、地方で今すごく流行ってる病気らしくて……感染率が高いって──ッ!」
立ち上がったロイがリオンの胸ぐらを掴んで背もたれに押し付けるのをアレンがすぐに引き剥がすが、ロイは手足をバタつかせてリオンを睨む。
「感染率が高いって……メイとシオンはどうなってんだよ! アイツらまで倒れてんじゃねぇだろうな!?」
「僕も詳しい話は聞いてないんだ。君たちに伝えなきゃと思って話を途中で切り上げたから……」
「なんで──」
「一分一秒を争う事態かもしれねぇからだ」
アレンの言葉にロイの目が見開かれ、そのままエリスローズを見た。
「エリー、大丈夫だ。父さんと母さんが俺らを残してどうにかなるわけないし、メイとシオンだってきっと大丈夫だから」
無表情で固まっているエリスローズは今、取り乱さないように必死なのだとわかったロイが膝の上に乗って抱きしめる。
ロイの背中に回ってくる腕が震えている。
「大丈夫。絶対大丈夫。ただの風邪だって。俺だってケロッとしてんだもん。皆すぐにケロッとするって」
頷かないエリスローズの中で不安は既に大きくなりすぎて涙を流すこともできない。
「そのペストとかって風邪なんだろ? 助かるんだよな? 薬飲めば良くなるんだろ?」
リオンは俯いたまま、アレンはロイを見つめたまま静かに首を振る。
「なん、だよ……それ……。嘘、つくなよ……」
ロイが高熱を出したとき、リオンは別荘に着くまで大丈夫だと言い聞かせてくれた。
何度も何度も大丈夫だと言ってエリスローズを安心させてくれたのに、それがないということはそういうことなのだとエリスローズは思った。
スラム街では明日があるかもわからない者ばかりが暮らしていた。朝見たときは元気だったのに急に体調を崩してその日のうちに息を引き取る者も珍しくはなかった。
だからどこの誰が死んだと聞いても大体の人間が「そうか」で終わらせた。
エリスローズもそうだ。二軒隣で暮らしていた工場の同僚が死んだと聞いても大した驚きはなかった。
しかし、ここはスラムではない。餓死することのない場所だ。なのにどうしてとロイを抱きしめる腕に力が入る。
「大丈夫だって。大丈夫。きっと大袈裟だって笑ってるはずだから、そんな心配すんなよ」
不安なのは両親揃って倒れたこと。どちらか片方が倒れてその看病で次いで倒れるのならわかるが、今日両方が倒れたというのはおかしい。
「こないだは元気だったのに」
先日、給料を持って行ったばかりだった。
ロイに笑顔が戻り、元気にやっていると聞いて二人とも喜んでいた。
シオンにだけメイの世話をさせていることを申し訳なく思っているロイが謝ったのが印象的だった。
メイのこと大好きだから毎日楽しいと笑うシオンも。
家族六人で過ごせる日を楽しみにしていると言っていた両親の笑顔を見たのは数日前のことだ。
ロイが風邪をひいた原因となった雨は降っていない。
寒さだろうかと考えても別荘には暖炉があって部屋の中は暖かかった。
快適すぎるぐらいだと言っていたのにとロイは唇を噛み締める。
「心配すんな。大丈夫だからな」
別荘に着くまでロイはエリスローズを励まし続けた。
「ロイ、飛び出しちゃダメだよ。皆で一緒に行こう」
「さっさと開けろよ」
「感染率が──」
「一分一秒争うんだろッ!?」
ロイの怒声にリオンは眉を下げながらドアを開けた。
飛び出しはしない。ロイはエリスローズの手をしっかりと握っている。
「エリー、降りられるか?」
馬車から降りるエリスローズの顔色は良くない。
別荘の周りに配置されている兵士たちの様子がおかしいことで安心できる状態ではないとわかったから。
エリスローズよりも小さく軽いロイは抱き上げて馬車から降ろすことができない悔しさを感じながらエリスローズが降りるのを待った。
一分一秒を争うのなら急がなければならないと震える足に力を入れて馬車から降りた。
「アレン様、リオン様……残念ですが、中にお入りいただくことはできません」
二人の前に立った兵士が静かに告げて首を振る。
「二人の容体は?」
眉を寄せながら問いかけるリオンの声が震えている。
後ろに立っているロイとエリスローズを見てからリオンに視線を戻した兵士はゆっくりと口を開いた。
「……両親のほうはまだ──」
その言葉にアレン以外の三人の目が見開かれる。
「ロイッ!」
「ッ! なん、だよコレ!」
「魔法障壁か」
駆け出したロイが兵士の隙間を縫って中に入ろうとしたが、見えない壁にぶつかって地面に倒れた。
その壁に触れたアレンがロイを抱き起こして兵士に向く。
「肺ペストか?」
「はい」
最悪の結果だと目を閉じるアレンが庭のほうへと回っていく。
『メイとシオンは?』
「え?」
『メイとシオンはどこにいるの?』
口だけで問いかけるエリスローズが何を言っているのか兵士はわからない。
戸惑う兵士に何度も同じことを問いかけるが聞きたい言葉は聞こえない。
「エリー、僕たちも裏へ回ろう。窓の外からならあえるかもしれない」
エリスローズの腕を掴むリオンの手が震えている。
それを感じるとエリスローズは兵士の服から手を離して一緒にアレンたちの後を追った。
「悪いか? さっさと戻してやれ」
「何を言ってるんだ。まだ解放するわけにはいかん」
「あ? お前こそ何言ってんだ? お前らの金の成る木が戻ってきたんだ、コイツはお役御免だろ」
アレンもエリスローズも今日で終わりだと思っていた。だがランドルは違った。
「エリーナは少し疲れていると言っていてな。休ませてやりた──ッ!?」
アレンが足早に階段を上がって玉座に座る弟の前まで行くと同時に胸ぐらを掴んで持ち上げる。
身体が宙に浮くことで足をバタつかせるランドルがアレンの腕を掴んで離させようとするも目の前にある顔の恐ろしさに声も出ない。
「休ませてやりたい? 笑えねぇ冗談言ってんじゃねぇぞ。この一年、あのアバズレにとっちゃ最高の休暇だっただろうが。優しいだけの無価値な夫と離れて魅力的な男に股開いて過ごしてきたんだからな」
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「黙ってろエヴリーヌ」
ビクッと身体を跳ねさせるエヴリーヌが俯いて唇を噛み締める。
「アイツの人生はアイツのもんだ。テメーらの玩具じゃねんだよ」
「け、契約が──!」
「契約はあのアバズレが戻ってくるまでって内容だろうが。契約書に書いたのか? エリーナが戻り、疲れが取れるまでってよぉ」
「そ、それはでも──!」
「あのアバズレが責務を全うしようが国を潰そうがどうだっていい。アイツの仕事は今日、この瞬間、既に終わってんだよ。さっさと取り上げたもん返せや」
王族としての品性の欠片もないような言葉遣い。
どんどんと苦しさが増していくことに耐えきれず、ランドルはバタバタと手を動かして魔法使いを呼ぶよう兵士に指示を出した。
「ゲホッゲホッ! ハッ、ハッ……に、兄さんには関係ないじゃないか! なぜ兄さんがそこまであの娘にこだわるんだ!」
手を離され、椅子に座ると上手く吸えていなかった息を吸い、呼吸を乱しながら声を張る。
「それこそお前には関係ねぇことだろ」
「関係ないわけないだろ! 兄さんが関わることで私たちがどれだけ迷惑しているか!」
「迷惑? 土下座して王位を──」
「やめろ!!」
兵士たちがいる前で暴露しようとするアレンをランドルが大声で止める。
「情けねぇな、お前。国王になってもなんも変わらねぇ。ダセェままだ」
「な、なんだと!?」
「お前はしっかり親の背中を見て育ってる。あの腐りきった両親の背中をな」
「侮辱するな!」
「されるような人間になってんじゃねぇよ」
アレンの圧にランドルはいつも怯んでしまう。妻の前で、兵士の前でそんな姿は見せたくないのに強く言い返せない。
言い返しても言い返しても必ず言葉が返ってくる。ときには拳も。
昔からそうだった。アレンはいつも拳と圧でランドルを負かす。
これで国王にでもなられたら自分は惨めなまま生きていかなければならないと思って土下座してでも王位を譲ってもらったのに、結局はこうだと拳を握る。
「来たか。さっさとコイツに戻してやれ」
魔法使いが到着すると顎で指示し、慌ててエリスローズの前まで早歩きで向かった初老の魔法使いが杖を光らせた。
「一年間ご苦労だったな。これでようやく家族のもとに帰れるぞ」
嬉しそうに笑うエリスローズの頭を撫でるアレンの目に飛び込んできたのはドアを蹴り破る勢いで入ってきたリオンの姿。
息を切らせ、真っ青な顔で立っている。
「エリー、今すぐ馬車に」
「どうした?」
「説明してる暇はない! 急げ!」
前にもこんなことがあったと思い出すのはロイが高熱を出したとき。
また誰かが高熱を出したのだろうかと不安になるエリスローズの手を掴んだリオンが馬車まで引っ張っていく。
ロイをアレンが抱き上げ、一緒になって馬車へと向かうと既に用意された馬車に皆で乗り込んだ。
「何があったのか説明しろよ」
震えた声でロイが問いかける。
「さっき、別荘の兵士から伝達があって……」
一度言葉を切ってカラカラの喉を潤すように唾液を飲み込むと膝の上でグッと拳を握ってロイを見た。
「コリンたちが……倒れたと……」
「……は? たち、って……なんだよ……」
「コリンとフィーネだ」
エリスローズとロイの心臓が大きく跳ねる。
風邪ならそれでいい。今はまだ適切な治療を受けられるし、スラム街にいた頃より栄養も摂っていて免疫力も上がっているはずだから治る可能性が高い。
二人が心配しているのは一緒に暮らしているメイとシオン。
ロイが風邪をひいたとき両親が部屋に近付かないようにしていたが、その両親が倒れたらどうしているんだと心配になった。
「風邪か?」
アレンの問いかけにリオンは頷かない。それどころか更に顔色を悪くして俯いた。
「なんだよ……言えよ……」
心臓が大きく動き続けているロイが自分の胸を掴みながら促す。
「……ペスト、かも……しれないって……」
その言葉に目を見開いたのはアレンだけで、ロイとエリスローズはそれがなんなのか知らなかった。
「なんだよそのペストって……」
「僕も詳しいことはわからないんだけど、地方で今すごく流行ってる病気らしくて……感染率が高いって──ッ!」
立ち上がったロイがリオンの胸ぐらを掴んで背もたれに押し付けるのをアレンがすぐに引き剥がすが、ロイは手足をバタつかせてリオンを睨む。
「感染率が高いって……メイとシオンはどうなってんだよ! アイツらまで倒れてんじゃねぇだろうな!?」
「僕も詳しい話は聞いてないんだ。君たちに伝えなきゃと思って話を途中で切り上げたから……」
「なんで──」
「一分一秒を争う事態かもしれねぇからだ」
アレンの言葉にロイの目が見開かれ、そのままエリスローズを見た。
「エリー、大丈夫だ。父さんと母さんが俺らを残してどうにかなるわけないし、メイとシオンだってきっと大丈夫だから」
無表情で固まっているエリスローズは今、取り乱さないように必死なのだとわかったロイが膝の上に乗って抱きしめる。
ロイの背中に回ってくる腕が震えている。
「大丈夫。絶対大丈夫。ただの風邪だって。俺だってケロッとしてんだもん。皆すぐにケロッとするって」
頷かないエリスローズの中で不安は既に大きくなりすぎて涙を流すこともできない。
「そのペストとかって風邪なんだろ? 助かるんだよな? 薬飲めば良くなるんだろ?」
リオンは俯いたまま、アレンはロイを見つめたまま静かに首を振る。
「なん、だよ……それ……。嘘、つくなよ……」
ロイが高熱を出したとき、リオンは別荘に着くまで大丈夫だと言い聞かせてくれた。
何度も何度も大丈夫だと言ってエリスローズを安心させてくれたのに、それがないということはそういうことなのだとエリスローズは思った。
スラム街では明日があるかもわからない者ばかりが暮らしていた。朝見たときは元気だったのに急に体調を崩してその日のうちに息を引き取る者も珍しくはなかった。
だからどこの誰が死んだと聞いても大体の人間が「そうか」で終わらせた。
エリスローズもそうだ。二軒隣で暮らしていた工場の同僚が死んだと聞いても大した驚きはなかった。
しかし、ここはスラムではない。餓死することのない場所だ。なのにどうしてとロイを抱きしめる腕に力が入る。
「大丈夫だって。大丈夫。きっと大袈裟だって笑ってるはずだから、そんな心配すんなよ」
不安なのは両親揃って倒れたこと。どちらか片方が倒れてその看病で次いで倒れるのならわかるが、今日両方が倒れたというのはおかしい。
「こないだは元気だったのに」
先日、給料を持って行ったばかりだった。
ロイに笑顔が戻り、元気にやっていると聞いて二人とも喜んでいた。
シオンにだけメイの世話をさせていることを申し訳なく思っているロイが謝ったのが印象的だった。
メイのこと大好きだから毎日楽しいと笑うシオンも。
家族六人で過ごせる日を楽しみにしていると言っていた両親の笑顔を見たのは数日前のことだ。
ロイが風邪をひいた原因となった雨は降っていない。
寒さだろうかと考えても別荘には暖炉があって部屋の中は暖かかった。
快適すぎるぐらいだと言っていたのにとロイは唇を噛み締める。
「心配すんな。大丈夫だからな」
別荘に着くまでロイはエリスローズを励まし続けた。
「ロイ、飛び出しちゃダメだよ。皆で一緒に行こう」
「さっさと開けろよ」
「感染率が──」
「一分一秒争うんだろッ!?」
ロイの怒声にリオンは眉を下げながらドアを開けた。
飛び出しはしない。ロイはエリスローズの手をしっかりと握っている。
「エリー、降りられるか?」
馬車から降りるエリスローズの顔色は良くない。
別荘の周りに配置されている兵士たちの様子がおかしいことで安心できる状態ではないとわかったから。
エリスローズよりも小さく軽いロイは抱き上げて馬車から降ろすことができない悔しさを感じながらエリスローズが降りるのを待った。
一分一秒を争うのなら急がなければならないと震える足に力を入れて馬車から降りた。
「アレン様、リオン様……残念ですが、中にお入りいただくことはできません」
二人の前に立った兵士が静かに告げて首を振る。
「二人の容体は?」
眉を寄せながら問いかけるリオンの声が震えている。
後ろに立っているロイとエリスローズを見てからリオンに視線を戻した兵士はゆっくりと口を開いた。
「……両親のほうはまだ──」
その言葉にアレン以外の三人の目が見開かれる。
「ロイッ!」
「ッ! なん、だよコレ!」
「魔法障壁か」
駆け出したロイが兵士の隙間を縫って中に入ろうとしたが、見えない壁にぶつかって地面に倒れた。
その壁に触れたアレンがロイを抱き起こして兵士に向く。
「肺ペストか?」
「はい」
最悪の結果だと目を閉じるアレンが庭のほうへと回っていく。
『メイとシオンは?』
「え?」
『メイとシオンはどこにいるの?』
口だけで問いかけるエリスローズが何を言っているのか兵士はわからない。
戸惑う兵士に何度も同じことを問いかけるが聞きたい言葉は聞こえない。
「エリー、僕たちも裏へ回ろう。窓の外からならあえるかもしれない」
エリスローズの腕を掴むリオンの手が震えている。
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