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生みの母
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「いらっしゃいま……ッ!? こ、皇帝陛下……!」
「余のことは気にするな。ランプを買いに来ただけだ」
「こ、このような小さな店に足をお運びいただけますとは! な、なんでもおっしゃってください! 皇帝陛下のお望みのままにお作りいたします!」
「既存の物を買いに来たのだ」
「こ、ここにある物はごく一般的な物ばかりでして……!」
「それでよい」
背が高いアルフローレンスはどこにいても目立つ。入ってきた背の高い男に気付かない店主はいないだろう。
その男が誰なのか気付いた店主が胸の前で両手を握りながら必死の形相で対応している。
「決まったら呼ぶ。楽にしていろ」
「は、はい!」
「あなた、どなた……ッ」
奥から顔を出した女が手に持っていたランプを床に落とした。大きな音を立てて割れたランプが辺りに散らばる。
「お、おい! 皇帝陛下の前で失礼じゃないか!」
注意して慌てて片付けようとする男の声は女には届いていない。
唇を震わせ、目にいっぱいの涙を溜める女の目はアルフローレンスではなくミュゲットに向いていた。
「……いらっしゃいませ」
溢れる前にと涙を拭う女──彼女がエレノアだとミュゲットはすぐにわかった。
笑顔で優しい声をかけてくれる女にミュゲットも笑顔を見せる。
自分の母親がノーラであることに変わりはない。だが、目の前にいる女性が母親だと言われたほうがしっくり来るほど自分は彼女と似ていると思った。
エルドレッドが感じた感情をミュゲットも感じている。
「ランプをお探しですか?」
「あ……はい。あ、あの……わ、私……ミュ……雪降る街に落ちる雫という本が大好きで、それに似たランプが欲しいなと思って……」
一瞬、自分の名前を言おうとした。だが、言えなかった。怖かったのだ。だからランプ屋に来た理由を言った。
「そのランプなら……これかしら」
壁にかけてあったランプを手に取って目の前に差し出されるとミュゲットは小さく頷く。
「真ん中がボールのような球体になってて美しいですよね」
「夫のアイデアなの」
「グラキエスではランプが必要不可欠だから同じのばかりじゃ飽きられてしまうと思ってね。他の国から買い付けられるよりグラキエスが誇るランプを作りたいんだ」
「これがその誇りのランプですか?」
「まだまだ誇れる物は作れていないが、人気商品だよ。あの本のおかげでもあるのかな」
もし、母親の手紙に書いてあった通りだとすれば店主は自分の父親ということになる。
不思議な感じだった。
血の繋がっている二人が他人として目の前にいる。
エレノアは現在五十を過ぎている。きっと夫もそれぐらいだろう。
優しい笑顔を見せる二人にミュゲットは涙が出そうだった。
「ミュゲット、それを買うのか?」
名前を呼ばれ、ミュゲットが振り返る。涙を見せる前でよかったと安堵した。
「アルはどれがいいと思う?」
「定番品を買うと言ってなかったか?」
「アルは買わないの? 一緒に夜の廊下を歩くって約束したのに」
「余に火を持てと?」
「この鳥籠みたいなランプはどう?」
「お前が好きそうな形だな」
「大好き」
形は鳥籠だが、ちゃんと中にはガラスが張ってあってランプとなっている。
アルフローレンスが持つには可愛すぎる物だが、嫌とは言わない。
「この二つを包んでくれ」
「あ、ありがとうございます! 新しいのをご用意いたしますので少々、少々お待ちください!」
慌てて奥へ向かう夫に苦笑しながら包みを用意するエレノアをジッと見つめるミュゲット。
美しい人──それが彼女に相応しい言葉だと思った。
「あとで使いをよこす。金はそのとき受け取ってくれ」
「かしこまりました」
笑顔で頷くエレノアが改めてミュゲットを見る。
「どうして、うちの店を選んでくれたの?」
ここはグラキエス唯一のランプ屋ではなく、数件あると言っていた。
その質問にどう答えればいいのか迷ってしまう。
「彼が、連れてきてくれたんです」
「皇帝陛下、こんな小さな店に足をお運びいただきましたこと、感謝申し上げます」
「ミュゲットが見たいと言うものでな」
「そうですか。ありがとうございます」
頭を下げるエレノアの目に何度も浮かぶ涙につられそうになる。
鼻の奥がツンと痛くなる感覚に鼻を啜ると震えた息が出ていく。
「子供はいるのか?」
「……娘が二人」
「ほう」
「一人はもうすぐ十七歳になります。もう一人は十四歳になったばかりです」
「そうか」
一人目の子供が自分であることにミュゲットはすぐ気付いた。彼女の中でミュゲットという子供はちゃんといるのだと震える唇を噛み締める。
「ママ! 皇帝陛下が来てるってホント!?」
「こら、静かにしなさい!」
「え、嘘、ホント? めちゃくちゃイケメンなんだけど!」
奥で準備をしていた父親の声を振り切って店へと出てきた少女はアルフローレンスを見てはしゃぐ。
両手で口を押さえながらその場で何度も飛び跳ねる。
「背が高くてイケメンとかヤバい……!」
怖がることなく恍惚とした表情で見つめる少女にミュゲットは驚いた。こういう子もいるのだと。
「あれ……?」
「え?」
「ミュゲットお姉ちゃん?」
「アイリス!」
怒ったように声を上げる母親に怪訝な表情を見せるアイリスと呼ばれた娘。
「ミュゲットお姉ちゃんだよね?」
「え……えっと……」
「そうだ」
「やっぱり! 写真と同じだもん! すぐにわかったよ! やっと会えた!」
ミュゲットの手を握ってまた飛び跳ねるアイリスに戸惑うミュゲットはどうしていいかわからず、とりあえず手を握り返した。
「私の写真、持ってるんですか?」
「もちろん! 写真はね、毎年送られて──」
「アイリスやめなさい!」
また怒ったエレノアにアイリスは頬を膨らませる。
「さっきから何怒ってるの? いつか会いたいってママも言ってたじゃん。やっと会えたのにどうして喜ばないの?」
「……アイリス、部屋に戻ってなさい」
「どうして? 本物だよ? 写真じゃないんだよ?」
「アイリス!」
「……ママ変だよ! そんなママ好きじゃない!」
パンパンになるまで頬を膨らませたアイリスがエレノアに対抗するように大声を出して奥へと走っていく。
ドタドタドタ……バタンッ!とドアが大きく閉まる音が聞こえるまでエレノアは微動だにしなかった。
「……皇帝陛下……」
「よい、お前たちもわかっているのだろう?」
「…………はい」
「ミュゲットも同じだ」
互いの反応を見ていれば気付いているとわかるだろう。
二人は顔を伏せたまま動かなくなってしまった。
「お前たちが話したくなければそれでもかまわぬ。会うのが怖いと言っていたミュゲットをここまで連れてきたのは余の独断だ。お前たちが気まずいのであればすぐに帰る」
「……後日、こちらからお伺いさせていただくわけにはいきませんでしょうか? 見ての通り、あまり大きな店ではありません。奥と二階が私たちの住まいなのですが、あまりにも手狭でお座りいただくような場所がございませんので」
「かまわぬ。使いにお前たちの都合の良い日を伝えろ」
「ありがとうございます」
エレノアと共に頭を下げたあと奥へと戻っていった店主が箱を二つ抱えて戻ってくる。
ミュゲットのランプの箱にはあの本の表紙が描かれてあり、アルフローレンスのランプの箱には美しい青い空と海が映っていた。ミュゲットにはそれがまるでフローラリアのように見えた。
「お気をつけてお帰りくださいませ」
馬車までランプを運ぶ夫婦が深く頭を下げて見送る。
進行方向に向けて座っているミュゲットには見えなかったが、反対側に座っているアルフローレンスからは彼らの様子がよく見えた。
両手で顔を覆ってしゃがみこむ妻を慰めるように隣にしゃがんで背中を撫でる夫の姿。抱き合う二人の姿は美しいというより寂しいものに感じたアルフローレンスは頬杖をつくのをやめて顔をミュゲットへと戻す。
「ランプ」
「え?」
かけられた言葉にミュゲットが顔を上げる。
「同じ物があってよかったな」
「はい」
なぜミュゲットだと答えたのかとは聞かない。
なぜ自分から言い出さなかったのかとは聞かない。
二人は今日、彼らに会いにいったわけではなくランプを買いに行っただけ。
そう建前だった。
「ありがとうございます」
ミュゲットはむしろ感謝している。エレノアに会って彼女が生みの母だとわかった以上、あのまま何も言わずに帰ればきっとずっと『言えばよかった』と思っていただろうから。
後日となったことはミュゲットにとって心の準備ができる時間となった。
「ああ」
それだけ返事をしたアルフローレンスは伸ばされた小さな手を握りながら外の景色を眺めるミュゲットを見つめていた。
「余のことは気にするな。ランプを買いに来ただけだ」
「こ、このような小さな店に足をお運びいただけますとは! な、なんでもおっしゃってください! 皇帝陛下のお望みのままにお作りいたします!」
「既存の物を買いに来たのだ」
「こ、ここにある物はごく一般的な物ばかりでして……!」
「それでよい」
背が高いアルフローレンスはどこにいても目立つ。入ってきた背の高い男に気付かない店主はいないだろう。
その男が誰なのか気付いた店主が胸の前で両手を握りながら必死の形相で対応している。
「決まったら呼ぶ。楽にしていろ」
「は、はい!」
「あなた、どなた……ッ」
奥から顔を出した女が手に持っていたランプを床に落とした。大きな音を立てて割れたランプが辺りに散らばる。
「お、おい! 皇帝陛下の前で失礼じゃないか!」
注意して慌てて片付けようとする男の声は女には届いていない。
唇を震わせ、目にいっぱいの涙を溜める女の目はアルフローレンスではなくミュゲットに向いていた。
「……いらっしゃいませ」
溢れる前にと涙を拭う女──彼女がエレノアだとミュゲットはすぐにわかった。
笑顔で優しい声をかけてくれる女にミュゲットも笑顔を見せる。
自分の母親がノーラであることに変わりはない。だが、目の前にいる女性が母親だと言われたほうがしっくり来るほど自分は彼女と似ていると思った。
エルドレッドが感じた感情をミュゲットも感じている。
「ランプをお探しですか?」
「あ……はい。あ、あの……わ、私……ミュ……雪降る街に落ちる雫という本が大好きで、それに似たランプが欲しいなと思って……」
一瞬、自分の名前を言おうとした。だが、言えなかった。怖かったのだ。だからランプ屋に来た理由を言った。
「そのランプなら……これかしら」
壁にかけてあったランプを手に取って目の前に差し出されるとミュゲットは小さく頷く。
「真ん中がボールのような球体になってて美しいですよね」
「夫のアイデアなの」
「グラキエスではランプが必要不可欠だから同じのばかりじゃ飽きられてしまうと思ってね。他の国から買い付けられるよりグラキエスが誇るランプを作りたいんだ」
「これがその誇りのランプですか?」
「まだまだ誇れる物は作れていないが、人気商品だよ。あの本のおかげでもあるのかな」
もし、母親の手紙に書いてあった通りだとすれば店主は自分の父親ということになる。
不思議な感じだった。
血の繋がっている二人が他人として目の前にいる。
エレノアは現在五十を過ぎている。きっと夫もそれぐらいだろう。
優しい笑顔を見せる二人にミュゲットは涙が出そうだった。
「ミュゲット、それを買うのか?」
名前を呼ばれ、ミュゲットが振り返る。涙を見せる前でよかったと安堵した。
「アルはどれがいいと思う?」
「定番品を買うと言ってなかったか?」
「アルは買わないの? 一緒に夜の廊下を歩くって約束したのに」
「余に火を持てと?」
「この鳥籠みたいなランプはどう?」
「お前が好きそうな形だな」
「大好き」
形は鳥籠だが、ちゃんと中にはガラスが張ってあってランプとなっている。
アルフローレンスが持つには可愛すぎる物だが、嫌とは言わない。
「この二つを包んでくれ」
「あ、ありがとうございます! 新しいのをご用意いたしますので少々、少々お待ちください!」
慌てて奥へ向かう夫に苦笑しながら包みを用意するエレノアをジッと見つめるミュゲット。
美しい人──それが彼女に相応しい言葉だと思った。
「あとで使いをよこす。金はそのとき受け取ってくれ」
「かしこまりました」
笑顔で頷くエレノアが改めてミュゲットを見る。
「どうして、うちの店を選んでくれたの?」
ここはグラキエス唯一のランプ屋ではなく、数件あると言っていた。
その質問にどう答えればいいのか迷ってしまう。
「彼が、連れてきてくれたんです」
「皇帝陛下、こんな小さな店に足をお運びいただきましたこと、感謝申し上げます」
「ミュゲットが見たいと言うものでな」
「そうですか。ありがとうございます」
頭を下げるエレノアの目に何度も浮かぶ涙につられそうになる。
鼻の奥がツンと痛くなる感覚に鼻を啜ると震えた息が出ていく。
「子供はいるのか?」
「……娘が二人」
「ほう」
「一人はもうすぐ十七歳になります。もう一人は十四歳になったばかりです」
「そうか」
一人目の子供が自分であることにミュゲットはすぐ気付いた。彼女の中でミュゲットという子供はちゃんといるのだと震える唇を噛み締める。
「ママ! 皇帝陛下が来てるってホント!?」
「こら、静かにしなさい!」
「え、嘘、ホント? めちゃくちゃイケメンなんだけど!」
奥で準備をしていた父親の声を振り切って店へと出てきた少女はアルフローレンスを見てはしゃぐ。
両手で口を押さえながらその場で何度も飛び跳ねる。
「背が高くてイケメンとかヤバい……!」
怖がることなく恍惚とした表情で見つめる少女にミュゲットは驚いた。こういう子もいるのだと。
「あれ……?」
「え?」
「ミュゲットお姉ちゃん?」
「アイリス!」
怒ったように声を上げる母親に怪訝な表情を見せるアイリスと呼ばれた娘。
「ミュゲットお姉ちゃんだよね?」
「え……えっと……」
「そうだ」
「やっぱり! 写真と同じだもん! すぐにわかったよ! やっと会えた!」
ミュゲットの手を握ってまた飛び跳ねるアイリスに戸惑うミュゲットはどうしていいかわからず、とりあえず手を握り返した。
「私の写真、持ってるんですか?」
「もちろん! 写真はね、毎年送られて──」
「アイリスやめなさい!」
また怒ったエレノアにアイリスは頬を膨らませる。
「さっきから何怒ってるの? いつか会いたいってママも言ってたじゃん。やっと会えたのにどうして喜ばないの?」
「……アイリス、部屋に戻ってなさい」
「どうして? 本物だよ? 写真じゃないんだよ?」
「アイリス!」
「……ママ変だよ! そんなママ好きじゃない!」
パンパンになるまで頬を膨らませたアイリスがエレノアに対抗するように大声を出して奥へと走っていく。
ドタドタドタ……バタンッ!とドアが大きく閉まる音が聞こえるまでエレノアは微動だにしなかった。
「……皇帝陛下……」
「よい、お前たちもわかっているのだろう?」
「…………はい」
「ミュゲットも同じだ」
互いの反応を見ていれば気付いているとわかるだろう。
二人は顔を伏せたまま動かなくなってしまった。
「お前たちが話したくなければそれでもかまわぬ。会うのが怖いと言っていたミュゲットをここまで連れてきたのは余の独断だ。お前たちが気まずいのであればすぐに帰る」
「……後日、こちらからお伺いさせていただくわけにはいきませんでしょうか? 見ての通り、あまり大きな店ではありません。奥と二階が私たちの住まいなのですが、あまりにも手狭でお座りいただくような場所がございませんので」
「かまわぬ。使いにお前たちの都合の良い日を伝えろ」
「ありがとうございます」
エレノアと共に頭を下げたあと奥へと戻っていった店主が箱を二つ抱えて戻ってくる。
ミュゲットのランプの箱にはあの本の表紙が描かれてあり、アルフローレンスのランプの箱には美しい青い空と海が映っていた。ミュゲットにはそれがまるでフローラリアのように見えた。
「お気をつけてお帰りくださいませ」
馬車までランプを運ぶ夫婦が深く頭を下げて見送る。
進行方向に向けて座っているミュゲットには見えなかったが、反対側に座っているアルフローレンスからは彼らの様子がよく見えた。
両手で顔を覆ってしゃがみこむ妻を慰めるように隣にしゃがんで背中を撫でる夫の姿。抱き合う二人の姿は美しいというより寂しいものに感じたアルフローレンスは頬杖をつくのをやめて顔をミュゲットへと戻す。
「ランプ」
「え?」
かけられた言葉にミュゲットが顔を上げる。
「同じ物があってよかったな」
「はい」
なぜミュゲットだと答えたのかとは聞かない。
なぜ自分から言い出さなかったのかとは聞かない。
二人は今日、彼らに会いにいったわけではなくランプを買いに行っただけ。
そう建前だった。
「ありがとうございます」
ミュゲットはむしろ感謝している。エレノアに会って彼女が生みの母だとわかった以上、あのまま何も言わずに帰ればきっとずっと『言えばよかった』と思っていただろうから。
後日となったことはミュゲットにとって心の準備ができる時間となった。
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