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滉の隣
しおりを挟む暫くそうして滉こうを眺めていると、手にしたままの歩あゆむのスマホが振動した。
(着信か?)
画面に視線を落とすと、そこには見慣れた名前が表示されていた。そう言えば、とメッセージが何件か届いていた事を思い出す。歩は一瞬の逡巡の末、着信には応答せずにスマホをスウェットパンツのポケットに入れた。
(ああ、好きだな)
歩は滉を見下ろして目を細める。昨日はちゃんと風呂に入ったんだろうかと思いながら、少しベタつく滉の髪を撫でる。
「ふふ」
寝顔は案外幼くて、薄く開いた唇の隙間からすーすーと寝息が聞こえてくる。歩はそれ以上触れたくなってしまう衝動をぐっと抑えて立ち上がり、ベッドから持ち出したブランケットを滉の体に掛けてやる。細身とはいえ長身の滉の体をすっぽりと覆うことはできないが、腹を壊しやすい彼の腹が冷えないようにすることくらいはできるだろう。歩は滉の手からそっとゲーム機を取り上げると、スリープモードにしてテーブルの上に置いた。電気を消して真っ暗な部屋をスマホのライトで照らしながらベッドを目指す。今日のように滉がソファで寝落ちしてしまった時は止むを得ず滉のベッドを拝借している。ギシリと音を立てて、ベッドの布団にもぐり込む。ふわっと滉の香りがする。その香が歩の心に温かな感情を呼び起こす。それと同時にその香は歩の心に小さな憂いをもたらす。歩は深く息を吸い込んで、ゆっくりと息を吐き出す。歩の意識は安心する香りに包まれてゆっくりと沈んでいく。今はせめて、幸せな気分で眠りたい。
滉と歩は幼馴染だ。出会いは幼稚園。幼稚園の頃から滉は大人しい子だった。他の子がお喋りをしたり、窓の外を眺めてはしゃいだりしている中、滉は静かにバスの座席に座ってじっと前を見つめていた。そんな滉の隣に座るのはいつも歩だった。滉の隣はいつも空いているけど、他の子にとられてしまっては嫌だから、歩はいつもバスに一番乗りで乗り込んで先に乗っている滉の隣に座るのだ。
「こうくん!おはよ!」
「…おはよ」
笑顔で挨拶する歩に、滉は目線を合わせないままぼそっと返事をした。
バス乗り場にいた子ども全員がバスに乗り込んで、バスのドアが閉まる。そして、窓の外の景色が動き出した。歩と一緒のバス停から乗ってきた子たちは、どの子も窓の外のママに手を降っている。
「こうくん!昨日のプイキュアみた!?かっこよかったね!」
「…!見たよ!敵を倒すときみんなで協力して倒しててかっこよかった!」
今まで無表情に前を見つめていた滉が、歩の方を向いてパアッと瞳を輝かせた。滉は昨日の放送回が如何にかっこよく、素晴らしく、最高だったかを鼻息荒く語っている。歩はそんな滉を見てにんまり笑った。歩はプイキュアなんか興味ない。でも、歩は滉がこうして歩の目を見て、歩とお話しししてくれる時間が好きだった。だから、歩は毎週プイキュアを観るし、今年の誕生日にはプイキュアのおもちゃを買ってもらった。
「ねぇ、こうくん、ぼくこないだの誕生日にプイキュアのおもちゃ買ってもらったんだ!次のお休みの日ぼくんちで遊ぼうよ!」
「…!遊びたいっ」
いつもは無表情な滉のキラキラした笑顔を独占できるなら、なんだってよかった。歩はそれを見るだけで、心臓がとくとくと脈打って、温かな気持ちなるから。
「じゃあ、約束ね!こうくん!」
「うん」
幼稚園はもうすぐそこだった。二人は小さな小指を絡ませた。
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