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代替品
しおりを挟む「で?合コン行って何でうちに来るわけ?」
言葉と共に、ベッドの下に脱ぎ散らかした服や下着を投げつけられる。
「何でって?うーん?したくなったから?」
「いや、合コンしてたならその合コンに参加してた女の子とラブボでも行けばよかったじゃん」
そう言って、拾い上げた服に袖を通しているのは所謂セフレの菜々子だ。
「同じ大学だし、友達の友達だし、色々面倒だもん」
色々と面倒なのは本当。でも、それよりも歩が気になるのは、大学には歩と同じ高校、つまり滉と同じ高校出身の者がちらほらいることだ。歩が誰と遊んでいようが滉はきっと気にすることはないし、そもそも交友関係が狭い滉に歩の浮ついた話が流れるとは思えない。それでも、歩は少なくとも大学内では“遊ぶ”ことを控えている。服を着終え、歩は床に乱雑に置かれたバッグを引き寄せる。
「吸うなら換気扇の下ね」
歩がバックから取り出したものに目敏く気付くと、菜々子はキッチンの方を目で示す。
「アイコスだよ?」
「あれ?紙タバコ辞めたの?」
「んーん。今日はたまたま」
「ふーん。でも吸うならキッチンね」
「はーい」
歩はアイコスとスティックの箱を手に、言われた通りキッチンへいく。コンロの横にはコーラのペットボトルいっぱいに細い煙草の吸い殻がぎゅうぎゅうに詰められている。歩はコンロの前に立って、換気扇のスイッチを押した。
「私もアイコスにしよっかな」
「んー、まあ、代わりにはなるよ」
歩は深く煙を吸い込んで言葉と一緒に吐き出した。暗いキッチンで青白いスマホの光が歩の顔を照らす。時刻は午前2時過ぎ。始発にはまだ時間がある。
「ななも一服しよお~」
隣に来た菜々子が、細い指先で煙草の箱を叩く。
「ねえ、明日どっか行く?行こーよ。明日なな休みなんだ」
「んー、辞めとく」
「えー。つれな。あゆくんって彼女作んないの?ってか、いた事ある?」
「一応いた事はあるよ」
「ね!もし今誰もいないなら、なながなってあげよっか?」
「辞めとく」
「えー!なな、結構尽くすよ~?あ、もしかして、好きな人いるの?」
歩は短く笑いながら煙を吐き出す。それを否定と捉えたらしい菜々子は「あゆくんが片想いとかあるわけないか」と軽い口調で言って、ふーっと顎を上げて煙を吐き出した。
「でも、あゆくんは彼氏としては良いけど、旦那としては微妙かも。なんか想像できないし。」
菜々子は最後に深く煙を吸うと、吸い殻入れに煙草を捨てた。
「私、25迄に結婚して子ども欲しいんだ」
そう言い残して、菜々子はさっさとキッチンを出ていく。
「…」
始発の電車は独特の空間だ。
仕事へ向かう人、何処かへ出掛ける人、歩のような終電を逃した人。そんな相反する人達が1つの乗り物で運ばれていく。
『私、25迄に結婚して子ども欲しいんだ』
先ほど言われたことを頭の中で反芻する。
(結婚、子ども、どれもオレには縁が無いな)
歩は、決してゲイという訳では無い。女の子はかわいいと思うし、そういう場面になればちゃんと機能もする。でも、どんな綺麗な女の子と付き合っても、どんな可愛い女の子と付き合っても、どんな素敵な女の子と付き合っても、歩が満たされることはないし、その子と一生一緒に居たいとは思わない。歩は滉ただ一人にずっと想いを寄せている。いつから好きかなんてわからないくらい、滉への気持ちは当たり前に歩の中にあり続け、歩の成長と共にその気持ちも育っていく。
(オレも普通に女の子を好きになれたらよかったのに)
滉を好きでいても、何の意味もない。滉は歩のことをただの友達としか思っていないし、歩も、滉と別の何かになれるだなんて思っていない。
明るくなっていく窓の外を見ながら今日もまた滉のことを考える。勝手に部屋を出てきてしまったけれど、当たり前に滉からは何の連絡もない。歩が連絡をしなければ簡単に切れてしまう脆い繋がりだ。歩ばかり、滉のことを考えている。歩ばかり、滉を求めている。歩は手にしていたスマホをボトムのポケットに押し込む。バラバラの人達を乗せた電車は決められたレールを真っ直ぐ進んでいく。歩はそれに身を任せて静かに目を閉じた。
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