陰キャに恋は早すぎる

ツワブキ

文字の大きさ
4 / 35

代替品

しおりを挟む

「で?合コン行って何でうちに来るわけ?」

 言葉と共に、ベッドの下に脱ぎ散らかした服や下着を投げつけられる。

「何でって?うーん?したくなったから?」

「いや、合コンしてたならその合コンに参加してた女の子とラブボでも行けばよかったじゃん」

 そう言って、拾い上げた服に袖を通しているのは所謂セフレの菜々子だ。

「同じ大学だし、友達の友達だし、色々面倒だもん」

 色々と面倒なのは本当。でも、それよりも歩が気になるのは、大学には歩と同じ高校、つまり滉と同じ高校出身の者がちらほらいることだ。歩が誰と遊んでいようが滉はきっと気にすることはないし、そもそも交友関係が狭い滉に歩の浮ついた話が流れるとは思えない。それでも、歩は少なくとも大学内では“遊ぶ”ことを控えている。服を着終え、歩は床に乱雑に置かれたバッグを引き寄せる。

「吸うなら換気扇の下ね」

 歩がバックから取り出したものに目敏く気付くと、菜々子はキッチンの方を目で示す。

「アイコスだよ?」

「あれ?紙タバコ辞めたの?」

「んーん。今日はたまたま」

「ふーん。でも吸うならキッチンね」

「はーい」

 歩はアイコスとスティックの箱を手に、言われた通りキッチンへいく。コンロの横にはコーラのペットボトルいっぱいに細い煙草の吸い殻がぎゅうぎゅうに詰められている。歩はコンロの前に立って、換気扇のスイッチを押した。

「私もアイコスにしよっかな」

「んー、まあ、代わりにはなるよ」

 歩は深く煙を吸い込んで言葉と一緒に吐き出した。暗いキッチンで青白いスマホの光が歩の顔を照らす。時刻は午前2時過ぎ。始発にはまだ時間がある。

「ななも一服しよお~」

 隣に来た菜々子が、細い指先で煙草の箱を叩く。

「ねえ、明日どっか行く?行こーよ。明日なな休みなんだ」

「んー、辞めとく」

「えー。つれな。あゆくんって彼女作んないの?ってか、いた事ある?」

「一応いた事はあるよ」

「ね!もし今誰もいないなら、なながなってあげよっか?」

「辞めとく」

「えー!なな、結構尽くすよ~?あ、もしかして、好きな人いるの?」

 歩は短く笑いながら煙を吐き出す。それを否定と捉えたらしい菜々子は「あゆくんが片想いとかあるわけないか」と軽い口調で言って、ふーっと顎を上げて煙を吐き出した。

「でも、あゆくんは彼氏としては良いけど、旦那としては微妙かも。なんか想像できないし。」

 菜々子は最後に深く煙を吸うと、吸い殻入れに煙草を捨てた。

「私、25迄に結婚して子ども欲しいんだ」

そう言い残して、菜々子はさっさとキッチンを出ていく。

「…」





 始発の電車は独特の空間だ。

 仕事へ向かう人、何処かへ出掛ける人、歩のような終電を逃した人。そんな相反する人達が1つの乗り物で運ばれていく。

『私、25迄に結婚して子ども欲しいんだ』

 先ほど言われたことを頭の中で反芻する。

(結婚、子ども、どれもオレには縁が無いな)

 歩は、決してゲイという訳では無い。女の子はかわいいと思うし、そういう場面になればちゃんと機能もする。でも、どんな綺麗な女の子と付き合っても、どんな可愛い女の子と付き合っても、どんな素敵な女の子と付き合っても、歩が満たされることはないし、その子と一生一緒に居たいとは思わない。歩は滉ただ一人にずっと想いを寄せている。いつから好きかなんてわからないくらい、滉への気持ちは当たり前に歩の中にあり続け、歩の成長と共にその気持ちも育っていく。

(オレも普通に女の子を好きになれたらよかったのに)

 滉を好きでいても、何の意味もない。滉は歩のことをただの友達としか思っていないし、歩も、滉と別の何かになれるだなんて思っていない。

 明るくなっていく窓の外を見ながら今日もまた滉のことを考える。勝手に部屋を出てきてしまったけれど、当たり前に滉からは何の連絡もない。歩が連絡をしなければ簡単に切れてしまう脆い繋がりだ。歩ばかり、滉のことを考えている。歩ばかり、滉を求めている。歩は手にしていたスマホをボトムのポケットに押し込む。バラバラの人達を乗せた電車は決められたレールを真っ直ぐ進んでいく。歩はそれに身を任せて静かに目を閉じた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

推し変なんて絶対しない!

toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。 それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。 太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。 ➤➤➤ 読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。 推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。 【2025/11/15追記】 一年半ぶりに続編書きました。第二話として掲載しておきます。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

処理中です...