5 / 35
陰キャのくせに忙しい
しおりを挟む長く続いた梅雨は気付けば終わっていた。季節は夏真っ盛り。大学生の歩は既に夏休みに入っていた。
外では蝉が大合唱している。その声は窓もドアも閉め切った涼しいこの部屋にいても聞こえてくる。歩は自室のベッドに仰向けに寝転がり、スマホを睨みつけていた。もうかれこれ一週間は、メッセージアプリの滉とのトーク画面を開いたり閉じたりしている。最後にやり取りしたのは二週間前。
「…はあ」
歩はそのやり取りを読み返しため息を吐いた。歩と滉はだいたい月に一度は遊ぶ仲だ。「そろそろ遊ぼーよ」と歩が連絡したのがニ週間前。常ならば、「いーよ。いつ?」と滉から返ってくる。滉は休日に予定を入れていることがほとんどないし、歩は歩で滉最優先で予定を組むから、すぐに「じゃあ〇月〇日ね」という具合で予定が決まる。しかし、今回はなかなかその予定が決まらないのだ。
(新しいバイトでも始めた?)
滉は倉庫でのピッキング作業のバイトをしている。そのバイトは平日のみのはず。たまに臨時で土日のどちらかシフトに入ったりするが、こんなに予定が合わないなんて未だ嘗てなかったことだ。二週間前のメッセージでのやり取りの最後は、滉の「落ち着いたらメッセ送るわ」に対して歩の「はーい」で締められている。
(もう二週間経つけど…)
歩は開いていたメッセージアプリを閉じてスマホの画面を暗転させると、ベッドに腕ごと放り投げた。その振動で、ベッドの上から飲みかけのペットボトルが、ドッと音を立てて物が散乱した床に落ちる。滉の大学も夏季休暇に入っているはずだし、バイトだってほどほどにやっている滉が、歩に会う時間が取れないほど忙しくしている理由が歩には全くわからない。
「…」
会いたいなと、思わずにはいられない。でもきっと、滉はそうではないんだろうなと考えながら、歩はぼんやりと天井を眺める。こういうことがあるから同じ大学に入学できたらよかった。まあ、滉と同じ大学を受験して落ちてしまったのは自分の学力不足だけれど。歩は高3の冬の悔しさを思い出す。歩だって滉と同じトップクラスの進学校で、その中でもトップクラスの成績だったし、最大限の努力はしたつもりだ。滉と同じ大学に入れなかったのは仕方なのないことだった。それでも同じ大学ならほぼ毎日会えたし、同じ授業を受けることができたし、今のように滉の生活を把握できずに悩むこともなかったのだろうと思うと、後悔が歩を襲う。
「はぁ、」
と、今日何度目かのため息を吐いた時。
「っ!」
手にしていたスマホが震えた。歩は反射的に体をひっくり返して腕を立てた状態になり、スマホを確認する。
「!」
通知はメッセージアプリのもので、それは滉からのメッセージの着信を知らせるものだった。
『急だけど、今週の土日なら空いてる』
「…!」
歩の顔がパアッと明るくなる。歩はすぐに『じゃ、その日空けとくわー』と、なんでもないように返したが、心の中はもうお祭り騒ぎだ。
(やった!)
送ったメッセージはすぐに既読になった。経験上これ以上メッセージが送られて来ることはないことが分かっているので、歩はメッセージアプリを閉じてスマホをぎゅっと抱き込む。今日は木曜日だから土曜日は明後日だ。歩はふふ、と一人で笑う。こうして無事、歩は滉と会う約束を取り付けた。
土曜日の朝。中途半端に開けっ放しだったカーテンから差し込む光で歩は目を覚ました。歩は眩しさに顔を顰めながら、のそりと起き上がり、所々カーテンフックの壊れたカーテンを勢いよく開けた。窓の外は快晴だ。気分が良いから今日は換気でもしようと、最後に開けたのがいつだか思い出せない窓もついでに開けた。スマホで時間を確認すると朝の七時だった。滉が起き出すのは昼前後だからそれまでどうしよう。歩は考えながらぼんやり空を眺める。
(とりあえず一服するか)
歩は煙草の箱に手を伸ばして、ピタリとその手を止める。
(…)
歩は手を引っ込めると、散らかった部屋の隅の山をゴソゴソと漁る。そして目当てのもの、加熱式タバコを見つけると、それを手にベッドの下に座った。
歩はふーっと煙を吐き出した。加熱式タバコを吸いながら、歩が考えるのはやっぱり滉のことだ。今日会ったら何を話そう。何をしよう。そう考えるだけで気分が弾む。歩は最後に大きく一吸いして、仰向けに頭だけベッドに乗せる。
(しの、早く起きないかなあ)
0
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
俺の指をちゅぱちゅぱする癖が治っていない幼馴染
海野
BL
唯(ゆい)には幼いころから治らない癖がある。それは寝ている間無意識に幼馴染である相馬の指をくわえるというものだ。相馬(そうま)はいつしかそんな唯に自分から指を差し出し、興奮するようになってしまうようになり、起きる直前に慌ててトイレに向かい欲を吐き出していた。
ある日、いつもの様に指を唯の唇に当てると、彼は何故か狸寝入りをしていて…?
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
人並みに嫉妬くらいします
米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け
高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。
消えることのない残像
万里
BL
最愛の兄・大貴の結婚式。高校生の志貴は、兄への想いが「家族愛」ではなく「恋」であったと、失恋と同時に自覚する。血の繋がりという境界線、そして「弟」という役割に縛られ、志貴は想いを封印して祝福の仮面を被る。
しかし数年後、大貴の息子が成長し、かつての兄と瓜二つの姿となったとき、止まっていた志貴の時間は歪な形で動き出す。
志貴(しき):兄・大貴に長年片思いしているが、告げることなく距離を置いていた。
大貴(だいき):志貴の兄。10歳年上。既婚者で律樹の父。無自覚に人を惹きつける性格。志貴の想いには気づいていない。
律樹(りつき):大貴の息子。明るく素直だが、志貴に対して複雑な感情を抱く。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる