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星メロ
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歩の「起きた?」というメッセージに返信があったのは、午後三時を過ぎた頃だった。「ごめん、今起きた」と端的に綴られたそのメッセージに目を通し、歩はリュックを担いで立ち上がる。家を出る前に鏡で少し乱れてしまった髪を整えた。玄関を開けると、同時にむわっと熱気が入ってくる。歩はそれに構わず外に足を踏み出した。耳にイヤホンを挿して、蝉の大合唱を遮断し歩き出す。太陽は真上を少し過ぎているが、ギラギラと殺人的な日射しをこちらに向けてきている。髪が崩れるからとキャップを被ってこなかったことを歩は少しだけ後悔した。
歩の住むアパートの最寄り駅から滉の住むアパートの最寄り駅までは電車で一本だ。そこから滉の家までは15分弱。歩けない距離ではないが、こう暑いとその15分で熱中症にでもなりそうだ。歩は汗の滲んだ額をハンカチで拭う。やっとの思いで滉のアパートの前まできた。見上げると、一部屋だけ分厚いカーテンがびっちりと閉じられている。アパートの玄関のオートロックを解除してもらい、部屋の前までくると、部屋のインターホンを押す前にガチャリと玄関ドアが開いた。
「入って」
「おじゃましまーす」
迎え入れてくれた滉はよれたTシャツを着て、ダルそうに頭を掻いていた。
「久々だね」
部屋の隅に荷物を置きながら歩が言うと、滉は「ん」と短く返事をして、ソファに深く腰掛ける。まだ少し眠いのだろうか、滉は背もたれに頭を乗せて天井をぼんやりと眺めている。
「眠い?」
「んー」
滉のすぐ隣に腰掛けて、歩はその顔を覗き込む。顔色は悪くないから眠いだけかもしれない。
「昨日寝るの遅かったの?」
「あー、ちょっと遅かったかも」
「寝る?」
「…いや。起きる。」
「ん。あ、そう言えばさ、しのがこの前言ってた『星メロ』のアニメ観たよ」
「え!まじ!?」
滉はばっと体を起こして歩に向き直る。
「うん」
「どうだった!?面白かった!?どのキャラが好き!?」
早口に捲し立てるように言う滉に、一方の歩は「うーん」と少し考える。『星のメロディー』、通称 『星メロ』とは、滉が好きなライトノベルの一つで、異星人と地球人の二人の少女が音楽を通じて心を通わせ宇宙を冒険し、強大な敵組織と戦う物語だ。
「まだ2話までしか観てないからなあ」
「3話で話が急展開してめっちゃ面白くなるんだよ!あー、とりあえず3話まで見終わったら感想LINEして」
「うん」
「原作の小説全巻あるけど貸そうか?のん、ラノベ読まないからもしかしたら読みづらいかもだけど…」
「じゃあ一巻だけ借りていい?」
「うん!貸す貸す!」
滉はニコニコと満面の笑みで言うと、さっそく本棚から『星メロ』の一巻を抜き取って歩に手渡した。
「ありがと」
「いやー、のんが『星メロ』読んで何を思うのかめちゃくちゃ気になりますわ~」
歩はそれに笑うだけで返すと手元の本の表紙に目を落とした。アニメの絵とは少し違って、水彩画の様な淡い色合いの優しいイラストが描いてある。よく分からないが、滉の目が覚めたようでよかった。そんなことを考えながら、歩は本の端が折れたりしないように丁寧に『星メロ』をリュックの中にしまった。
その日はいつものように二人でゲームをしたりアニメを観たりしながら過ごした。
「そろそろお腹空いたね」
『星メロ』の作者が自身のSNSアカウントで「影響を受けた」と発言していたヤクザ映画を見終わったところで、歩の腹の虫が抗議の声を上げた。歩は昼を食べ損ねたことを今になって思い出す。
「スーパーになんか買いに行こうか」
そう言って滉が窓の外に視線を投げる。西の空はまだ明るい。「そうだね」と、歩はソファから立ち上がる。ずっと同じ様な姿勢で映画を観ていたから体が少し痛い。
外はじっとりと暑い。しかし、降り注ぐ強い日差しがない分いくらか涼しい。スーパーは滉の家から五分ほど歩いたところにある。自炊をするための材料を買うにしても弁当や惣菜を買うにしても財布に優しいので、いつもそれなりに人が入っている。今日はポイントが通常の五倍付与される日らしく、いつもより客が多くいた。
「カートいる?」
「いや、いいよ」
応えながら、滉は買い物カゴを手に売り場へ足を踏み入れ、歩もそれに続く。
「しの、何食べる?」
「んー」
売り場を見回しながら二人で並んで歩く。
「弁当でいいかな。のんは?」
「じゃあオレも弁当にする」
弁当売り場で滉がマーボー豆腐丼を手にし、カゴに入れる。
「それ辛い?」
「どうだろ。辛くないと思うけど」
「オレも食べれる?」
「食べれんじゃない?」
「じゃあオレもそれにしよ」
そう言って、歩も同じ弁当をカゴに入れた。
「これだけで足りるかなあ?パンとか買う?」
「うん。カップ麺も買っとこう」
滉は言いながら弁当の横についで買い狙いで置かれていたカップ麺もカゴに放り込む。その他飲み物やら菓子類やらを適当に買い込んで、二人はスーパーを出た。
歩の住むアパートの最寄り駅から滉の住むアパートの最寄り駅までは電車で一本だ。そこから滉の家までは15分弱。歩けない距離ではないが、こう暑いとその15分で熱中症にでもなりそうだ。歩は汗の滲んだ額をハンカチで拭う。やっとの思いで滉のアパートの前まできた。見上げると、一部屋だけ分厚いカーテンがびっちりと閉じられている。アパートの玄関のオートロックを解除してもらい、部屋の前までくると、部屋のインターホンを押す前にガチャリと玄関ドアが開いた。
「入って」
「おじゃましまーす」
迎え入れてくれた滉はよれたTシャツを着て、ダルそうに頭を掻いていた。
「久々だね」
部屋の隅に荷物を置きながら歩が言うと、滉は「ん」と短く返事をして、ソファに深く腰掛ける。まだ少し眠いのだろうか、滉は背もたれに頭を乗せて天井をぼんやりと眺めている。
「眠い?」
「んー」
滉のすぐ隣に腰掛けて、歩はその顔を覗き込む。顔色は悪くないから眠いだけかもしれない。
「昨日寝るの遅かったの?」
「あー、ちょっと遅かったかも」
「寝る?」
「…いや。起きる。」
「ん。あ、そう言えばさ、しのがこの前言ってた『星メロ』のアニメ観たよ」
「え!まじ!?」
滉はばっと体を起こして歩に向き直る。
「うん」
「どうだった!?面白かった!?どのキャラが好き!?」
早口に捲し立てるように言う滉に、一方の歩は「うーん」と少し考える。『星のメロディー』、通称 『星メロ』とは、滉が好きなライトノベルの一つで、異星人と地球人の二人の少女が音楽を通じて心を通わせ宇宙を冒険し、強大な敵組織と戦う物語だ。
「まだ2話までしか観てないからなあ」
「3話で話が急展開してめっちゃ面白くなるんだよ!あー、とりあえず3話まで見終わったら感想LINEして」
「うん」
「原作の小説全巻あるけど貸そうか?のん、ラノベ読まないからもしかしたら読みづらいかもだけど…」
「じゃあ一巻だけ借りていい?」
「うん!貸す貸す!」
滉はニコニコと満面の笑みで言うと、さっそく本棚から『星メロ』の一巻を抜き取って歩に手渡した。
「ありがと」
「いやー、のんが『星メロ』読んで何を思うのかめちゃくちゃ気になりますわ~」
歩はそれに笑うだけで返すと手元の本の表紙に目を落とした。アニメの絵とは少し違って、水彩画の様な淡い色合いの優しいイラストが描いてある。よく分からないが、滉の目が覚めたようでよかった。そんなことを考えながら、歩は本の端が折れたりしないように丁寧に『星メロ』をリュックの中にしまった。
その日はいつものように二人でゲームをしたりアニメを観たりしながら過ごした。
「そろそろお腹空いたね」
『星メロ』の作者が自身のSNSアカウントで「影響を受けた」と発言していたヤクザ映画を見終わったところで、歩の腹の虫が抗議の声を上げた。歩は昼を食べ損ねたことを今になって思い出す。
「スーパーになんか買いに行こうか」
そう言って滉が窓の外に視線を投げる。西の空はまだ明るい。「そうだね」と、歩はソファから立ち上がる。ずっと同じ様な姿勢で映画を観ていたから体が少し痛い。
外はじっとりと暑い。しかし、降り注ぐ強い日差しがない分いくらか涼しい。スーパーは滉の家から五分ほど歩いたところにある。自炊をするための材料を買うにしても弁当や惣菜を買うにしても財布に優しいので、いつもそれなりに人が入っている。今日はポイントが通常の五倍付与される日らしく、いつもより客が多くいた。
「カートいる?」
「いや、いいよ」
応えながら、滉は買い物カゴを手に売り場へ足を踏み入れ、歩もそれに続く。
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「じゃあオレも弁当にする」
弁当売り場で滉がマーボー豆腐丼を手にし、カゴに入れる。
「それ辛い?」
「どうだろ。辛くないと思うけど」
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「食べれんじゃない?」
「じゃあオレもそれにしよ」
そう言って、歩も同じ弁当をカゴに入れた。
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「うん。カップ麺も買っとこう」
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