陰キャに恋は早すぎる

ツワブキ

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意外なチョイス

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 滉の家につく頃にはすっかり日が沈み、玄関を開けると部屋の中は真っ暗だった。照明を点けて明るくなった部屋で、買ってきたものを狭いキッチン台に広げる。弁当は滉によって順番にレンジへ突っ込まれた。

「あ、割り箸もらいそびれたね」

 買った物が入っていたレジ袋を丸めながら、歩が呟く。

「あー、ストックあるから大丈夫」

 滉はキッチンの引き出しから割り箸二膳を取り出した。歩は「さんきゅ」と言ってそれを受け取った。

 チンと、滉の後ろでレンジが、今日最後の加熱終了を知らせる音を響かせた。温まった食事をテーブルに運び、ソファーとテーブルの間に二人で並んで腰を下ろす。滉が適当に選んだ地上波番組を二人でぼんやり視ながら、プラスチックトレイの弁当を食べる。

「最近の地上波ってクイズとドッキリしかやってないよね。あ~、なんだっけ。あ!『テューダー朝』!」

歩が答えたすぐ後に、テレビの中の芸能人が「テューダー朝!」と叫ぶ。それに対しピンポーン!と軽快な音がなって、解答した芸能人のしたり顔が映る画面下に、テューダー朝の補足情報が表示されている。

「…それと旅とグルメだね。『カエサル』」

そう言って、滉はつまらなそうにマーボー豆腐の豆腐を箸でつまんで口に入れる。その横顔見て、歩は夕暮れ間近の電車の風景を思い出す。



 中学を卒業して同じ高校に進学した二人は、高校三年間を通して一緒に登下校をしていた。一、二年生の頃はクラスが別だった為一緒に帰れない日も週に一度か二度あったが、三年生になって同じクラスになった二人は帰りも毎日一緒に帰っていた。その日二人は電車内のドア付近に向かい合って立っていた。車内の座席に凭れるように立つ歩の前に、片手に吊り革を掴んだ滉が立っている。滉はもう片方の手で、持ち運びに便利な掌サイズの一問一答形式の参考書を広げている。

 滉と歩の家の最寄り駅は、二人が通う高校の上り方面に位置している。帰路に着く人達の多くとは逆方向へと向かうこの列車はいつも比較的空いている。

「『1522年に史上初となる世界周航を達成したマゼランが戦死した地は何処か』…って、こんなん共テに出るか?」

参考書の問題を読み上げた滉が、参考書に胡乱げな目を向ける。

「さあ?でもオレはクイズ番組みたいでちょっと楽しいよ。『ベトナム』」

「ぶー。正解は『フィリピン』」

「……オレは受験に必要なものだけを効率よく覚えるんだ。どうせ受験終わったら全部忘れる知識だもん」

 歩は不貞腐れながら窓の外に目をやった。まだ五時だと言うのに、外はもう間もなく夜になろうとしている。もうすぐ、高校も卒業。そうしたら、滉と歩は別々の大学へと進学する。



(しのに合わせて国立目指して五教科やってたら、今のとこも合格危うかったかも)

 本当は同じ大学に進学したかったが、歩の学力では滉の志望する大学への入学は望み薄だった。とは言え、歩だって名門中の名門私大に通っているわけだが。

「懐かしい」

「ん?何が?」

 一人過去に意識を飛ばしていた歩と違い、滉は何のことかさっぱりわからないとばかりに首を傾げる。

「あはは、何でもない」

 ぱくりとマーボー豆腐丼を口に入れる。少し辛いが箸が進む味付けだ。

「まじで何?少年十字軍が?」

「いや、違うけど」

 歩はふっと吹き出して否定する。

「前世の記憶的な?」

 弁当を食べ終えたらしい滉が、空になった弁当のトレイに箸を置く。笑うだけで何も言わない歩に、滉は「もー、何。謎独り言やめて。気になるから」と文句を垂れる。それに「ごめんごめん」と軽く返して、滉に一歩遅れて弁当を完食した歩は箸を置いた。

 食事で出たゴミを二人でまとめた後は、例によってゲームをしたりアニメを観たりして、最後に映画を観た。その映画は刑事が主人公の推理小説が原作の作品で、恋愛要素はおまけ程度である原作小説よりも、恋愛要素が強調されて描かれていた。映像化ではよくある改変だ。映画自体は三年前に公開された作品だが、先日ドラマ化の発表があったので世間では話題になっている作品でもある。

「しのがこれみたいって言ったの意外だった」

 画面に映るエンドロールを眺めながら、歩が言った。歩自身は、三年前に映画化で話題になった時に原作小説を読み映画館にも足を運んだが、滉に原作小説を勧めようとも、滉を映画館に誘おうとも、全く、少しも思いもしなかったのだ。

「なんとなく、観てみよっかなって思っただけ」

 それを聞いて、歩も(まあそんなこともあるか)とその話題を打ち切る。

 ふぁー、と歩は欠伸を一つして立ち上がる。もう日付はとっくに変わっているし、常ならばとっくに布団に入っている時間だ。

「しのー、風呂借りるね」

「んー」

 今日はシャワーでいいやと、そんなことを考えながら、歩は着替えの入ったリュックを片方の肩に担いで風呂場へと向かった。


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