陰キャに恋は早すぎる

ツワブキ

文字の大きさ
7 / 35

意外なチョイス

しおりを挟む
 滉の家につく頃にはすっかり日が沈み、玄関を開けると部屋の中は真っ暗だった。照明を点けて明るくなった部屋で、買ってきたものを狭いキッチン台に広げる。弁当は滉によって順番にレンジへ突っ込まれた。

「あ、割り箸もらいそびれたね」

 買った物が入っていたレジ袋を丸めながら、歩が呟く。

「あー、ストックあるから大丈夫」

 滉はキッチンの引き出しから割り箸二膳を取り出した。歩は「さんきゅ」と言ってそれを受け取った。

 チンと、滉の後ろでレンジが、今日最後の加熱終了を知らせる音を響かせた。温まった食事をテーブルに運び、ソファーとテーブルの間に二人で並んで腰を下ろす。滉が適当に選んだ地上波番組を二人でぼんやり視ながら、プラスチックトレイの弁当を食べる。

「最近の地上波ってクイズとドッキリしかやってないよね。あ~、なんだっけ。あ!『テューダー朝』!」

歩が答えたすぐ後に、テレビの中の芸能人が「テューダー朝!」と叫ぶ。それに対しピンポーン!と軽快な音がなって、解答した芸能人のしたり顔が映る画面下に、テューダー朝の補足情報が表示されている。

「…それと旅とグルメだね。『カエサル』」

そう言って、滉はつまらなそうにマーボー豆腐の豆腐を箸でつまんで口に入れる。その横顔見て、歩は夕暮れ間近の電車の風景を思い出す。



 中学を卒業して同じ高校に進学した二人は、高校三年間を通して一緒に登下校をしていた。一、二年生の頃はクラスが別だった為一緒に帰れない日も週に一度か二度あったが、三年生になって同じクラスになった二人は帰りも毎日一緒に帰っていた。その日二人は電車内のドア付近に向かい合って立っていた。車内の座席に凭れるように立つ歩の前に、片手に吊り革を掴んだ滉が立っている。滉はもう片方の手で、持ち運びに便利な掌サイズの一問一答形式の参考書を広げている。

 滉と歩の家の最寄り駅は、二人が通う高校の上り方面に位置している。帰路に着く人達の多くとは逆方向へと向かうこの列車はいつも比較的空いている。

「『1522年に史上初となる世界周航を達成したマゼランが戦死した地は何処か』…って、こんなん共テに出るか?」

参考書の問題を読み上げた滉が、参考書に胡乱げな目を向ける。

「さあ?でもオレはクイズ番組みたいでちょっと楽しいよ。『ベトナム』」

「ぶー。正解は『フィリピン』」

「……オレは受験に必要なものだけを効率よく覚えるんだ。どうせ受験終わったら全部忘れる知識だもん」

 歩は不貞腐れながら窓の外に目をやった。まだ五時だと言うのに、外はもう間もなく夜になろうとしている。もうすぐ、高校も卒業。そうしたら、滉と歩は別々の大学へと進学する。



(しのに合わせて国立目指して五教科やってたら、今のとこも合格危うかったかも)

 本当は同じ大学に進学したかったが、歩の学力では滉の志望する大学への入学は望み薄だった。とは言え、歩だって名門中の名門私大に通っているわけだが。

「懐かしい」

「ん?何が?」

 一人過去に意識を飛ばしていた歩と違い、滉は何のことかさっぱりわからないとばかりに首を傾げる。

「あはは、何でもない」

 ぱくりとマーボー豆腐丼を口に入れる。少し辛いが箸が進む味付けだ。

「まじで何?少年十字軍が?」

「いや、違うけど」

 歩はふっと吹き出して否定する。

「前世の記憶的な?」

 弁当を食べ終えたらしい滉が、空になった弁当のトレイに箸を置く。笑うだけで何も言わない歩に、滉は「もー、何。謎独り言やめて。気になるから」と文句を垂れる。それに「ごめんごめん」と軽く返して、滉に一歩遅れて弁当を完食した歩は箸を置いた。

 食事で出たゴミを二人でまとめた後は、例によってゲームをしたりアニメを観たりして、最後に映画を観た。その映画は刑事が主人公の推理小説が原作の作品で、恋愛要素はおまけ程度である原作小説よりも、恋愛要素が強調されて描かれていた。映像化ではよくある改変だ。映画自体は三年前に公開された作品だが、先日ドラマ化の発表があったので世間では話題になっている作品でもある。

「しのがこれみたいって言ったの意外だった」

 画面に映るエンドロールを眺めながら、歩が言った。歩自身は、三年前に映画化で話題になった時に原作小説を読み映画館にも足を運んだが、滉に原作小説を勧めようとも、滉を映画館に誘おうとも、全く、少しも思いもしなかったのだ。

「なんとなく、観てみよっかなって思っただけ」

 それを聞いて、歩も(まあそんなこともあるか)とその話題を打ち切る。

 ふぁー、と歩は欠伸を一つして立ち上がる。もう日付はとっくに変わっているし、常ならばとっくに布団に入っている時間だ。

「しのー、風呂借りるね」

「んー」

 今日はシャワーでいいやと、そんなことを考えながら、歩は着替えの入ったリュックを片方の肩に担いで風呂場へと向かった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

推し変なんて絶対しない!

toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。 それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。 太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。 ➤➤➤ 読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。 推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。 【2025/11/15追記】 一年半ぶりに続編書きました。第二話として掲載しておきます。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

俺の幼馴染みが王子様すぎる。

餡玉(あんたま)
BL
早瀬空(15)と高比良累(15)は、保育園時代からの幼馴染み。だが、累の父親の仕事の都合で、五年間離れ離れになっていた—— そして今日は、累が五年ぶりにドイツから帰国する日。若手ヴァイオリニストとして一回りも二回りも成長した累を迎えに、空港へ出向くことになっている。久しぶりの再会に緊張する空に対して、累の求愛行動はパワーアップしていて……。 ◇『スパダリホストと溺愛子育て始めます 愛されリーマンの明るい家族計画』(原題・『子育てホストと明るい家族計画』)の続編です。前作の十年後、高校生になった空と累の物語。そして彼らを取り巻く大人たちの、ほのぼの日常ラブコメディ。 ◇このお話はフィクションです。本作品に登場する学校名・音楽団体名はすべて架空のものです。 ◆不定期更新 ◇本編完結済、番外編更新中 ◆表紙イラストは朔さま(https://www.pixiv.net/users/44227236)のフリー素材をお借りしています

処理中です...