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精神安定剤
しおりを挟むセックスは精神安定剤だ。
出すもの出せばすっきりするし、生まれたままの姿で相手を受け入れ、相手に受け入れられるという経験は自己肯定感を高めることにも繋がると思う。セックスという行為は、歩にとって不安や孤独感を紛らわせてくれる最も手っ取り早く、最も効果的なメンタルケアの一つだった。
歩は裸のまま仰向けに寝そべって天井を仰ぎ見た。かつて毎日使っていたこのベッドはあの日のままで、懐かしさすら覚える。
自分と洋の汗やらなんやらの体液で汚れた体は、洋によって綺麗に清められている。一方洋は、こちらに背を向けベットの端に腰掛けていた。歩は気怠い体を動かす気にはなれなくて、目線だけを洋の方へ向ける。
「よう、」
出した声が僅かに掠れていて、自分でも少し驚く。
「ん?喉渇いた?今水持ってくるよ」
肩越しに振り向いた洋は、気遣わしげに歩を見て蜂蜜のように甘い声で言う。それに対して、歩は静かに首を横に振って洋の腰に後ろから抱き着く。やっぱり動くと少し体がしんどい。女の子を抱く時はこんなことにはならないから、やはり男の身で男に抱かれるのはそれだけ無茶な事で、身体に大きな負担をかけているのかもしれない。
(洋、意外とがっつくしなあ)
歩は洋の腰にしがみついたまま目を閉じる。すると、洋の大きな手が歩の髪を優しく撫でる。時折耳を擽られるように撫でられ、歩はまるで猫にでもなったような心地だ。
(滉も、セックスしたあとはこうやって女に優しくするのかな)
ふとそんなことを思うが、あの陰キャ・非モテの滉のセックスやセックスのあとのピロートークなんて、とてもじゃないが想像出来ない。
(でも、してるんだよなあ。きっと)
歩は頭の中で不毛な自問自答をして、そしてひっそりと深く落ち込む。長年好きだった相手が、自分が手を拱いているうちに他の女に掠め盗れてしまった。しかし、ノンケの滉に告白して玉砕するのを恐れ、甘んじて親友ポジションに収まっていたのは他でもない歩だ。他の女に盗られても、いや、滉が他の女を選んでも、歩は文句一つ言う権利だって持ち合わせていない。
(なんでだよ。クソ。女と話したことなんて殆どないくせに)
歩が内心で、怒ったり悲しんだり悔しがっている間ずっと、洋は穏やかな目で歩を見下ろし髪を撫で続けていた。
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