13 / 35
片方のピアス
しおりを挟む
本日の最終講義を終えた滉は、多くの学生達を残してひっそりと講義室を後にした。今日は少しだけ授業が押してしまった。スマホで時間を確認すると、いつも乗っている電車はあと7分で発車してしまう。これに乗り遅れればピッキングのバイトにも遅れてしまう。滉はスマホを上着のポケットに突っ込み歩調を速めた。
なんとか目的の電車に乗り込むことが出来た滉は出入り口にほど近い席に腰を下ろした。バイト先は大学と自宅の最寄り駅の丁度中間に位置している。電車に乗ってしまえば大学の最寄り駅から十五分ほどでバイト先の最寄り駅に着く。
滉はポケットからスマホを取り出し、サービス開始直後からプレイし始めてもうすぐ三年になるソシャゲを起動させる。起動してる間にイヤホンを両耳に突っ込んだ。そのソシャゲでは丁度ハロウィンイベントが開催されている。ハロウィンまで、あと丁度一週間。普段ならイベントが開催されてすぐイベント限定SSRのガチャを引き、イベントストーリーを読む滉だが、今回はイベント開催から既に二週間以上経っているのにチャプター1までしか終わっていない。さすがにそろそろ本腰を入れなければと焦りはじめるが、実際はイベント終了の期限が近付いてもなかなか食指が動かない。三ヶ月前までは「俺が飽きる前にサ終したらどうしよう」なんて思っていたがどうやら杞憂だったらしい。滉は目的の駅に到着するまでの十五分間、作業のようにスマホを無心でタップし続けたのだった。
滉が自宅に帰ったのは零時を過ぎた深夜だった。
滉は、ローテーブルの上にコンビニで買った弁当とコーラの入ったビニール袋を置くと、ソファーに腰掛けた。バイトの帰りが終終電ギリギリなのはよくあることだが、今日はやたらと疲れた。滉はテーブルの上のビニール袋に手を伸ばし、中からコーラを取り出す。そのまま滉はペットボトルのキャップを捻る。
「うわっ、」
ブシュー!とペットボトルからコーラが噴き出す。
吹き出たコーラは容赦なく滉の服、ソファー、床を濡らしていく。
「あわわわ」
やっとコーラが大人しくなった頃には一面コーラだらけになっていた。滉は指先からポタポタとコーラの水滴を滴らせながら、今日一の特大ため息をついた。
コーラでベトベトになった手を洗って、コーラで汚れた服は洗濯機に。
「あ」
汚れてしまった革張りのソファーを拭いていると、ソファーのクッションの隙間から銀色に輝くものを見つけた。
「これ…」
手にとって見ると、滉の爪程の大きさの小さなフープピアスだった。見覚えのないそのピアスはもちろんピアスホールのない滉のものではない。
(誰のだ?)
考えられるのは歩か滉の彼女の里穂りほだ。滉の部屋に出入りするのはその二人くらいだからその二人のどちらかであることは確かだが、どちらのものか滉には判別出来ない。男でも女でも身に付けられそうなデザインであるが、そもそも里穂はピアスなんて着けていただろうか?歩がピアスを着けているのは知っている。高校生の時に急に歩がピアスを着けだしたのを見て、滉は歩が不良になってしまったと思ったのだ。だからとても印象に残っている。
コーラの始末を終えた滉は、ソファーに寝転んで小さなピアスを指先で弄ぶ。余計な装飾がないシルバーのシンプルなフープピアスの対は、いったい今どこにいるんだろうか。
(似合いそうなのは、のんかな…)
滉は、歩の両耳にこのピアスが輝く姿を想像する。神様が丁寧に作った様なあの顔ならどんなピアスでも似合うのだろうが、歩の選ぶものはこういうシンプルで品のある物が多い気がする。
(会いたいな)
幼馴染の顔を思い出して感傷的な気持ちになる。どうして連絡をしてこないのか、どうして連絡を返してくれないのか、滉には見当もつかない。そう言えば歩以外に友達らしい友達のいない滉は友達とケンカなんてしたことがないのだ。だから友達との仲直りの仕方も知らない。
(…ケンカといえるのかも分からないけど)
滉は片方だけのピアスを壊れないように気をつけながら、ぎゅっと握り込む。
「なんか、俺と似てるなー」
ピアスに感情移入するなんてバカみたいだと、乾いた笑いが漏れた。片方だけのピアスに感情移入する日も、歩と友達じゃなくなる日も、そんな日が来るなんて、滉は想像もしていなかった。
テーブルの上の弁当はもうきっと冷え切ってしまっているだろう。せっかく温めて貰ったのにと勿体ない気持ちになりながらも、滉はそれを食べる気になれない。
なんとか目的の電車に乗り込むことが出来た滉は出入り口にほど近い席に腰を下ろした。バイト先は大学と自宅の最寄り駅の丁度中間に位置している。電車に乗ってしまえば大学の最寄り駅から十五分ほどでバイト先の最寄り駅に着く。
滉はポケットからスマホを取り出し、サービス開始直後からプレイし始めてもうすぐ三年になるソシャゲを起動させる。起動してる間にイヤホンを両耳に突っ込んだ。そのソシャゲでは丁度ハロウィンイベントが開催されている。ハロウィンまで、あと丁度一週間。普段ならイベントが開催されてすぐイベント限定SSRのガチャを引き、イベントストーリーを読む滉だが、今回はイベント開催から既に二週間以上経っているのにチャプター1までしか終わっていない。さすがにそろそろ本腰を入れなければと焦りはじめるが、実際はイベント終了の期限が近付いてもなかなか食指が動かない。三ヶ月前までは「俺が飽きる前にサ終したらどうしよう」なんて思っていたがどうやら杞憂だったらしい。滉は目的の駅に到着するまでの十五分間、作業のようにスマホを無心でタップし続けたのだった。
滉が自宅に帰ったのは零時を過ぎた深夜だった。
滉は、ローテーブルの上にコンビニで買った弁当とコーラの入ったビニール袋を置くと、ソファーに腰掛けた。バイトの帰りが終終電ギリギリなのはよくあることだが、今日はやたらと疲れた。滉はテーブルの上のビニール袋に手を伸ばし、中からコーラを取り出す。そのまま滉はペットボトルのキャップを捻る。
「うわっ、」
ブシュー!とペットボトルからコーラが噴き出す。
吹き出たコーラは容赦なく滉の服、ソファー、床を濡らしていく。
「あわわわ」
やっとコーラが大人しくなった頃には一面コーラだらけになっていた。滉は指先からポタポタとコーラの水滴を滴らせながら、今日一の特大ため息をついた。
コーラでベトベトになった手を洗って、コーラで汚れた服は洗濯機に。
「あ」
汚れてしまった革張りのソファーを拭いていると、ソファーのクッションの隙間から銀色に輝くものを見つけた。
「これ…」
手にとって見ると、滉の爪程の大きさの小さなフープピアスだった。見覚えのないそのピアスはもちろんピアスホールのない滉のものではない。
(誰のだ?)
考えられるのは歩か滉の彼女の里穂りほだ。滉の部屋に出入りするのはその二人くらいだからその二人のどちらかであることは確かだが、どちらのものか滉には判別出来ない。男でも女でも身に付けられそうなデザインであるが、そもそも里穂はピアスなんて着けていただろうか?歩がピアスを着けているのは知っている。高校生の時に急に歩がピアスを着けだしたのを見て、滉は歩が不良になってしまったと思ったのだ。だからとても印象に残っている。
コーラの始末を終えた滉は、ソファーに寝転んで小さなピアスを指先で弄ぶ。余計な装飾がないシルバーのシンプルなフープピアスの対は、いったい今どこにいるんだろうか。
(似合いそうなのは、のんかな…)
滉は、歩の両耳にこのピアスが輝く姿を想像する。神様が丁寧に作った様なあの顔ならどんなピアスでも似合うのだろうが、歩の選ぶものはこういうシンプルで品のある物が多い気がする。
(会いたいな)
幼馴染の顔を思い出して感傷的な気持ちになる。どうして連絡をしてこないのか、どうして連絡を返してくれないのか、滉には見当もつかない。そう言えば歩以外に友達らしい友達のいない滉は友達とケンカなんてしたことがないのだ。だから友達との仲直りの仕方も知らない。
(…ケンカといえるのかも分からないけど)
滉は片方だけのピアスを壊れないように気をつけながら、ぎゅっと握り込む。
「なんか、俺と似てるなー」
ピアスに感情移入するなんてバカみたいだと、乾いた笑いが漏れた。片方だけのピアスに感情移入する日も、歩と友達じゃなくなる日も、そんな日が来るなんて、滉は想像もしていなかった。
テーブルの上の弁当はもうきっと冷え切ってしまっているだろう。せっかく温めて貰ったのにと勿体ない気持ちになりながらも、滉はそれを食べる気になれない。
0
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
【2025/11/15追記】
一年半ぶりに続編書きました。第二話として掲載しておきます。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
俺の幼馴染みが王子様すぎる。
餡玉(あんたま)
BL
早瀬空(15)と高比良累(15)は、保育園時代からの幼馴染み。だが、累の父親の仕事の都合で、五年間離れ離れになっていた——
そして今日は、累が五年ぶりにドイツから帰国する日。若手ヴァイオリニストとして一回りも二回りも成長した累を迎えに、空港へ出向くことになっている。久しぶりの再会に緊張する空に対して、累の求愛行動はパワーアップしていて……。
◇『スパダリホストと溺愛子育て始めます 愛されリーマンの明るい家族計画』(原題・『子育てホストと明るい家族計画』)の続編です。前作の十年後、高校生になった空と累の物語。そして彼らを取り巻く大人たちの、ほのぼの日常ラブコメディ。
◇このお話はフィクションです。本作品に登場する学校名・音楽団体名はすべて架空のものです。
◆不定期更新
◇本編完結済、番外編更新中
◆表紙イラストは朔さま(https://www.pixiv.net/users/44227236)のフリー素材をお借りしています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる