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片方のピアス
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本日の最終講義を終えた滉は、多くの学生達を残してひっそりと講義室を後にした。今日は少しだけ授業が押してしまった。スマホで時間を確認すると、いつも乗っている電車はあと7分で発車してしまう。これに乗り遅れればピッキングのバイトにも遅れてしまう。滉はスマホを上着のポケットに突っ込み歩調を速めた。
なんとか目的の電車に乗り込むことが出来た滉は出入り口にほど近い席に腰を下ろした。バイト先は大学と自宅の最寄り駅の丁度中間に位置している。電車に乗ってしまえば大学の最寄り駅から十五分ほどでバイト先の最寄り駅に着く。
滉はポケットからスマホを取り出し、サービス開始直後からプレイし始めてもうすぐ三年になるソシャゲを起動させる。起動してる間にイヤホンを両耳に突っ込んだ。そのソシャゲでは丁度ハロウィンイベントが開催されている。ハロウィンまで、あと丁度一週間。普段ならイベントが開催されてすぐイベント限定SSRのガチャを引き、イベントストーリーを読む滉だが、今回はイベント開催から既に二週間以上経っているのにチャプター1までしか終わっていない。さすがにそろそろ本腰を入れなければと焦りはじめるが、実際はイベント終了の期限が近付いてもなかなか食指が動かない。三ヶ月前までは「俺が飽きる前にサ終したらどうしよう」なんて思っていたがどうやら杞憂だったらしい。滉は目的の駅に到着するまでの十五分間、作業のようにスマホを無心でタップし続けたのだった。
滉が自宅に帰ったのは零時を過ぎた深夜だった。
滉は、ローテーブルの上にコンビニで買った弁当とコーラの入ったビニール袋を置くと、ソファーに腰掛けた。バイトの帰りが終終電ギリギリなのはよくあることだが、今日はやたらと疲れた。滉はテーブルの上のビニール袋に手を伸ばし、中からコーラを取り出す。そのまま滉はペットボトルのキャップを捻る。
「うわっ、」
ブシュー!とペットボトルからコーラが噴き出す。
吹き出たコーラは容赦なく滉の服、ソファー、床を濡らしていく。
「あわわわ」
やっとコーラが大人しくなった頃には一面コーラだらけになっていた。滉は指先からポタポタとコーラの水滴を滴らせながら、今日一の特大ため息をついた。
コーラでベトベトになった手を洗って、コーラで汚れた服は洗濯機に。
「あ」
汚れてしまった革張りのソファーを拭いていると、ソファーのクッションの隙間から銀色に輝くものを見つけた。
「これ…」
手にとって見ると、滉の爪程の大きさの小さなフープピアスだった。見覚えのないそのピアスはもちろんピアスホールのない滉のものではない。
(誰のだ?)
考えられるのは歩か滉の彼女の里穂りほだ。滉の部屋に出入りするのはその二人くらいだからその二人のどちらかであることは確かだが、どちらのものか滉には判別出来ない。男でも女でも身に付けられそうなデザインであるが、そもそも里穂はピアスなんて着けていただろうか?歩がピアスを着けているのは知っている。高校生の時に急に歩がピアスを着けだしたのを見て、滉は歩が不良になってしまったと思ったのだ。だからとても印象に残っている。
コーラの始末を終えた滉は、ソファーに寝転んで小さなピアスを指先で弄ぶ。余計な装飾がないシルバーのシンプルなフープピアスの対は、いったい今どこにいるんだろうか。
(似合いそうなのは、のんかな…)
滉は、歩の両耳にこのピアスが輝く姿を想像する。神様が丁寧に作った様なあの顔ならどんなピアスでも似合うのだろうが、歩の選ぶものはこういうシンプルで品のある物が多い気がする。
(会いたいな)
幼馴染の顔を思い出して感傷的な気持ちになる。どうして連絡をしてこないのか、どうして連絡を返してくれないのか、滉には見当もつかない。そう言えば歩以外に友達らしい友達のいない滉は友達とケンカなんてしたことがないのだ。だから友達との仲直りの仕方も知らない。
(…ケンカといえるのかも分からないけど)
滉は片方だけのピアスを壊れないように気をつけながら、ぎゅっと握り込む。
「なんか、俺と似てるなー」
ピアスに感情移入するなんてバカみたいだと、乾いた笑いが漏れた。片方だけのピアスに感情移入する日も、歩と友達じゃなくなる日も、そんな日が来るなんて、滉は想像もしていなかった。
テーブルの上の弁当はもうきっと冷え切ってしまっているだろう。せっかく温めて貰ったのにと勿体ない気持ちになりながらも、滉はそれを食べる気になれない。
なんとか目的の電車に乗り込むことが出来た滉は出入り口にほど近い席に腰を下ろした。バイト先は大学と自宅の最寄り駅の丁度中間に位置している。電車に乗ってしまえば大学の最寄り駅から十五分ほどでバイト先の最寄り駅に着く。
滉はポケットからスマホを取り出し、サービス開始直後からプレイし始めてもうすぐ三年になるソシャゲを起動させる。起動してる間にイヤホンを両耳に突っ込んだ。そのソシャゲでは丁度ハロウィンイベントが開催されている。ハロウィンまで、あと丁度一週間。普段ならイベントが開催されてすぐイベント限定SSRのガチャを引き、イベントストーリーを読む滉だが、今回はイベント開催から既に二週間以上経っているのにチャプター1までしか終わっていない。さすがにそろそろ本腰を入れなければと焦りはじめるが、実際はイベント終了の期限が近付いてもなかなか食指が動かない。三ヶ月前までは「俺が飽きる前にサ終したらどうしよう」なんて思っていたがどうやら杞憂だったらしい。滉は目的の駅に到着するまでの十五分間、作業のようにスマホを無心でタップし続けたのだった。
滉が自宅に帰ったのは零時を過ぎた深夜だった。
滉は、ローテーブルの上にコンビニで買った弁当とコーラの入ったビニール袋を置くと、ソファーに腰掛けた。バイトの帰りが終終電ギリギリなのはよくあることだが、今日はやたらと疲れた。滉はテーブルの上のビニール袋に手を伸ばし、中からコーラを取り出す。そのまま滉はペットボトルのキャップを捻る。
「うわっ、」
ブシュー!とペットボトルからコーラが噴き出す。
吹き出たコーラは容赦なく滉の服、ソファー、床を濡らしていく。
「あわわわ」
やっとコーラが大人しくなった頃には一面コーラだらけになっていた。滉は指先からポタポタとコーラの水滴を滴らせながら、今日一の特大ため息をついた。
コーラでベトベトになった手を洗って、コーラで汚れた服は洗濯機に。
「あ」
汚れてしまった革張りのソファーを拭いていると、ソファーのクッションの隙間から銀色に輝くものを見つけた。
「これ…」
手にとって見ると、滉の爪程の大きさの小さなフープピアスだった。見覚えのないそのピアスはもちろんピアスホールのない滉のものではない。
(誰のだ?)
考えられるのは歩か滉の彼女の里穂りほだ。滉の部屋に出入りするのはその二人くらいだからその二人のどちらかであることは確かだが、どちらのものか滉には判別出来ない。男でも女でも身に付けられそうなデザインであるが、そもそも里穂はピアスなんて着けていただろうか?歩がピアスを着けているのは知っている。高校生の時に急に歩がピアスを着けだしたのを見て、滉は歩が不良になってしまったと思ったのだ。だからとても印象に残っている。
コーラの始末を終えた滉は、ソファーに寝転んで小さなピアスを指先で弄ぶ。余計な装飾がないシルバーのシンプルなフープピアスの対は、いったい今どこにいるんだろうか。
(似合いそうなのは、のんかな…)
滉は、歩の両耳にこのピアスが輝く姿を想像する。神様が丁寧に作った様なあの顔ならどんなピアスでも似合うのだろうが、歩の選ぶものはこういうシンプルで品のある物が多い気がする。
(会いたいな)
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「なんか、俺と似てるなー」
ピアスに感情移入するなんてバカみたいだと、乾いた笑いが漏れた。片方だけのピアスに感情移入する日も、歩と友達じゃなくなる日も、そんな日が来るなんて、滉は想像もしていなかった。
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