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親友とのクリスマス
しおりを挟むそういえば、去年のクリスマス・イブとクリスマスは土日だった。滉は両日共に歩と過ごした去年のクリスマスを思い出す。
あの日はお互いの都合のいい日がたまたまその日で、二人でコンビニの小さなホールケーキとコーラ、そしてレジ横のチキンを買って滉のアパートに帰った。
コンビニで買ったものを皿に移すこともせず適当にテーブルに並べ、グラスに入れたコーラで乾杯する。
「野郎二人でクリスマスパーティーですか…」
自嘲して、滉はぐびっとコーラを煽る。パチパチと音を立てる冷たいコーラが喉を通り胃に落ちる。
「いーじゃん。恋人と過ごすのが全てじゃないよー」
ソファに並んで座る歩は上機嫌に笑って、チキンを食べている。
実際、滉はクリスマスを誰とどう過ごすかなんてどうでもいい。特に、女性に縁のない滉にとって、クリスマスは恋人と過ごす日というより、家族でクリスマスの特番を観ながらロウソクの刺さったケーキを食ってプレゼントを貰う日という認識であり、クリスマスに、クリスマスを共に過ごす恋人がいないことを自虐するのは一種の作法というか、一種のノリみたいなものだ。そこに滉自身の思想などない。
もっとも、家族みんなでクリスマスを祝うなんて子どもの頃の話で、サンタ・クロースの正体に気付く歳になると、「お姉ちゃんとお兄ちゃんは彼氏彼女とどっか行ったわよ」と言外に「あんたは彼女の一人もいないわけ?」と母に心配されていた。
いや、心配なのか?母から向けられた視線はだいぶ冷ややかだった。
とはいえ、母は姉と兄が不在でも滉の為にケーキ屋さんでケーキを買って、唐揚げをたくさん揚げてくれたわけだが。
今年はきっと離婚して出戻りした姉と姪、つまり母にとって娘と孫と三人で楽しく過ごしていることだろう。
「のんは今彼女とかいないの」
幼馴染の歩は、それこそ幼稚園の頃から女の子に爆モテだったし、今年は大学生になり環境も変った。幼稚園の頃から非モテ陰キャの滉とは違いさぞ楽しい大学生生活をエンジョイしていることだろう。
「いないよ~。いたら今ここでこうしてないでしょ」
しかし、返ってきた返答は意外なものだった。あはは、と歩はあっけらかんと笑う。今日の歩はいつにもまして機嫌がいい。(本当にコーラ?酒飲んでない?)と歩の手元のグラスと自分のグラスを見比べる。
「…コーラ、だよね?」
「ん?そうだよ?」
歩は、こてんと首を傾げて不思議そうな顔をして滉を見返す。
「…だよね」
「ほら、しの!ケーキ食べな!あ~ん」
歩は、ホールケーキにプラスチックフォークを突き刺すと、かなり大きめの一口を滉の前に突きつける。クリスマスだからかいつもより浮かれた様子の歩に少し困惑しながらも、滉は大人しく歩に従って口を開く。
「あま…」
「あはは!付いてるよ~!」
そう言って、歩は滉の口の端についたクリームを親指で拭うと、それをぺろりと舐める。それを見て、男相手だと言うのに滉はドキッとしてしまう。
(俺が女なら惚れてた…)
「楽しいね。しの。」
「え、ああ、うん。楽しい。」
いつもよりハイテンションな歩つられて、滉までもだんだん楽しい気分になってくる。
「また来年も一緒にいれたらいいね」
歩はそう言って大きな目を細めた。
(懐かしいな)
たった一年前のことだというのに、その思い出は酷く懐かしく、滉の心を締め付ける。
「滉、このチキン美味しいよ!」
滉が過去に意識を飛ばしている間に、酒やら料理が目の前に並べられている。
「食べてみて!」
里穂は、チキンのトマト煮込みを皿に取り分けて滉に寄越す。
「あ、ありがとう」
勧められるままぱくっと一口口に入れる。香草と一緒に煮込まれているのか、食べ慣れない味がした。
「ね!おいしいでしょ?」
里穂はニコニコ笑う。
「うん。そうだね」
滉はそう言って曖昧に笑った。
歩は、今年はどんな風に過ごしているんだろうか。
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