陰キャに恋は早すぎる

ツワブキ

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引っ越し作業

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「ごめんね、終わったよ」

 そう言って洋はソファで寛ぐ歩の側まで来る。

「おつかれー」

 洋とよりを戻してから半月ほどが経とうとしている。

 以前付き合っていた頃から一年以上が経っているから、洋の生活も多少変化していて、最近は今日のように持ち帰りの仕事を休日までしていることが多い。

「お昼ご飯どうする?」

 洋にそう言われて、壁掛け時計を見上げると12時を過ぎたところだった。

「んー…」

 確かに腹は空いているが、食べたいものがすぐに思いつかない。

「食べたいものが思い付かないなら一緒にスーパー行こうか。買い物しながら決めればいいよ。」

「そうだね」

 歩は洋の提案に頷いて立ち上がる。





 一月の厳しい寒さはダウンを着たところでどうにかなるものではない。

 家からスーパーまではゆっくり歩いて十分弱だ。



「さみぃー」

 歩はダウンのファスナーを上まで閉めて、顎を埋める。

「歩はもう少し外に出たほうがいいよ。冬休みももうすぐ終わりでしょ?」

「…出てるよ」

「バイトとスーパーくらいでしか出てないようだけど?」

「…」

「そういえば、引っ越しの荷造りは順調かな?もし必要なら手伝いに行くよ」

 洋と付き合うことになって、歩はまた洋と暮らすことになった。

 ルームメイトの隆雅に経緯を話すと、彼はルームシェアの解消を快く承諾してくれ、アパートは今月末で引き払うことに決まった。

「もう二週間後だからね。そろそろ荷物を纏めないと」

 後半は独り言のように呟いて、洋は赤信号で足を止めた。

 歩は洋とよりを戻してからそのアパートにはほとんど戻っておらず、引っ越し作業も全くと言っていいほど進んでいない。

 歩は洋とよりを戻して以降、毎日洋の家でダラダラと過ごしている。

 きっと引っ越しの準備が何も進んでいないことも、洋にはお見通しなのだろう。

「…」

「…隆雅くんにお家にお邪魔していい日を聞いておいて」

「…はい」



 

 スーパーでの買い出しを終え、昼食も食べ終えた二人は洋の車で歩のアパートへと向かっていた。

 あの後、歩が隆雅に洋を家に連れて行っていいかと連絡したところ、隆雅は二つ返事でそれを了承してくれた。

 どうやら隆雅も歩の引っ越し準備の進捗を気にしていたようで、今日でも構わないと申し出てくれた。





「急にお訪ねしてすみません。これ、よかったら」

 洋は途中で買った洋菓子の入った袋を出迎えてくれた隆雅に差し出した。

「あ、すみませんわざわざ…気ぃ遣わせちゃって…」

 恐縮しながら受け取った隆雅はチラチラと上目遣いに洋を見ている。

「オレの部屋こっち」

「お邪魔します」

「どうぞどうぞ」

 歩に続いて洋がアパートの部屋に上がり込む。隆雅はダイニングテーブルに手土産の袋を避けてから二人に続いた。



「うわ、これは…」

 歩が扉を開けた瞬間、洋は思わず絶句する。

「汚いっすよねー…」

 それを横目に隆雅が洋の心情を代弁する。

「散らかってるだけ。腐ったもんとかないし虫もいないよ」

 そう言って、歩は先陣切ってその部屋に分け入る。



 そうして、三人での歩の部屋の片付けが始まった。

「歩ー、これ要る?」

「要らない!」

「歩、これは?」

「要らない!」

 三人で要るものと要らないものを分けながら要るものを大雑把に分類して箱に詰めていく。

 家具は殆どが処分。唯一棚は隆雅が使いたいと申し出たので隆雅に譲った。

 家電の殆どは隆雅と折半で購入したものだったが、それも隆雅が使うと言ったので全て譲った。

 そうなると、歩がこの家から運び出すものはそう多くはなかった。

 大学で使うノートパソコンと諸々の周辺機器、教科書類、後は服や靴などだ。

 もので埋め尽くされていた床も、二時間もすれば八割ほど見えるようになった。

 

「あ、これ」

 歩は棚の上に置かれたままだった一冊の本を手にした。

 (星メロ…)

 それは以前滉に借りた小説だ。本自体は綺麗な状態であるが、本の入っていた袋は薄っすらと埃を被っていて、時間の経過を思わせる。

 歩はパラパラと本をめくってみる。結局借りたはいいが一度も読んでいなかった。

(返しそびれちゃったな…)

 直接返すのはもう難しいから、今度滉の家のポストにでも入れるか。そう考えて歩は丁寧に手持ちのバッグにそれをしまった。

 

 歩の部屋が完全に片付いたのはすっかり日が暮れた頃だった。

「隆、今日はありがとう。洋も。」

 粗大ごみのシールを貼った家具だけになった部屋で、歩は二人を交互に見て礼を言った。

「終わってよかった。お疲れ様。隆雅くんもありがとう」

「いえいえ!これで一安心だな!歩」

「うん」

 粗大ごみの回収の手配も終え、後は指定した日に粗大ごみを運び出して終わりだ。

「よかったらこのあと三人で食事でもいかない?隆雅くんへのお礼も兼ねて」

「え!いいんすか!やった!」

 長時間の作業ですっかり打ち解けたのか、最初よりもお互いかなり気安い口調で会話をしている洋と隆雅を微笑ましく思いながら、歩はバッグの中の本が気になって仕方ない。

(明日バイトのあとに行くか…)





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