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オレってアイツのなに?
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「なあ、恋愛と友愛の違いってなんだと思う?」
「はぁ…、…え?なに?」
目の前で酒の入ったグラスを揺らす友人──能登歩の唐突な言葉に、山本隆雅は思わずメニューを眺めていた顔を上げた。
「だから、恋愛と友愛の違い。恋人と友達の境界って何?」
歩は気怠げにそう繰り返し、冷めた目でグラスの中の揺れる酒を眺めている。
「え、ええ、」
困惑を浮かべつつも、隆雅は必死に言葉を探す。
「うーん、性欲が含まれるのが恋愛で、含まれないのが友愛?」
「じゃあ性欲を向けてこない恋人は恋人じゃないってこと?」
「え、ええ?それは…、ええ」
にべもなく歩に言われて、隆雅は再び唸る。
隆雅の友人、能登歩は3ヶ月ほど前、長年の片思いを実らせた。その相手というのが、隆雅とも面識のある歩の元恋人─洋の弟だというから、隆雅は二重にも三重にも驚いたのだ。
──新しい恋人とうまくいっていないのだろうか。
元来歩は自分から人を食事や遊びに誘ったりはしない質だ。加えて新しい恋人と付き合ってからというもの、めっきり付き合いが悪くなった歩が、今夜わざわざこうして隆雅を居酒屋に連れ込んだのだ。よほどのことがあったに違いない。
歩は、隆雅を急かしたりこそしないものの、じっとこちらを見据えてその答えを待っている。どうも適当な言葉で納得するような気配はない。
「彼氏さんとうまくいってないのか?」
素直にそのまま聞けば、正面の歩の顔が分かりやすく歪んだ。あまり見たことのない顔だと思った。
そもそも、酒が弱いわけでもない歩がこんなに目に見えて酔っているのも珍しい。
今日は珍しい事ばかりだと思いながら、隆雅は手にしていたメニューを脇に寄せた。
「…彼氏がオレのこと本気で好きなのかわかんない」
歩は目を伏せたまま、ぽつりぽつりと話し出す。
「彼氏─、しのはノンケなんだ。男のオレのことを恋愛対象としてみれない。」
「でも、付き合ってるんだろ?それに、告白は向こうからだって前に言ってたじゃん。それなら、」
言いさして、隆雅は言葉を飲み込む。歩がゆるゆると首を横に振ったからだ。
「アイツがオレと付き合ってんのは、オレという友達が離れてしまうのが嫌なだけなんだよ。アイツ、オレ以外に友達なんていないし」
隆雅は歩の言葉にぱちくりと瞬きをする。
そんな理由で異性愛者の男が同性と付き合うだろうか。自分だったらそんな理由で男となんて、とんでもない。
「実際、オレたちは付き合って3ヶ月経つけど、セックスどころかキスさえしてない」
吐き出す調子で言ったきり、歩は何かを耐えるように黙り込む。しかし、それもほんの数秒のことだった。はぁ、と小さくため息を落として歩は続ける。
「…別に、しのとキスやセックスがしたいから付き合ったわけじゃない。しのはノンケだってわかってるから、そういうのできないかもって、できたらうれしいけど、そういう行為ができないかもしれないってことも承知の上だった」
隆雅は目で頷いて先を促す。
「でもさ、付き合う前と今のオレたち、何も変わんないんだ。一緒に住んで、一緒のベッドで寝てるけど、それだけ。ベッドだって、アイツ最初オレ用にシングルベッド買おうとしてたんだよ?」
そこまでいい終えて、歩は酒を呷る。
「好きの一言も言ってくれなくて、触れてもくれない。オレ、アイツのなんなの?」
歩はグラスを置いてテーブルに突っ伏す。
「しかもさ、」
突っ伏したままの歩が声を低める。突っ伏したままだから、その声はくぐもって聞こえる。
「ゴムの箱見つけてさ。何個か使ってるやつ。前の彼女と使ったのかな。分かってたけどさ、付き合ってほしいってアイツから言ったくせに、女とはできたことが男のオレとはできないんだって思ったら、悲しいし、惨めだし、…辛い。」
最後はほとんどひとり言のように言った歩を見下ろして、隆雅はなんと声を掛けていいかわからないまま、掛けるべき言葉を探しては思考が空回る。
歩の方はテーブルに突っ伏したまま完全に沈黙している。
隆雅は歩に悟られないように小さく息を吐くと、ぽんぽんと歩の肩を叩く。
「とりあえず、いったん忘れて今日は飲もうぜ!」
ゆっくりと顔を上げた歩の目は僅かに赤かった。隆雅はそれに気付かない素振りで明るく笑う。
「ほら、次何飲む?」
ぽかんと隆雅を見上げていた歩の表情が僅かに和らぐ。
「一番強いの」
「はぁ…、…え?なに?」
目の前で酒の入ったグラスを揺らす友人──能登歩の唐突な言葉に、山本隆雅は思わずメニューを眺めていた顔を上げた。
「だから、恋愛と友愛の違い。恋人と友達の境界って何?」
歩は気怠げにそう繰り返し、冷めた目でグラスの中の揺れる酒を眺めている。
「え、ええ、」
困惑を浮かべつつも、隆雅は必死に言葉を探す。
「うーん、性欲が含まれるのが恋愛で、含まれないのが友愛?」
「じゃあ性欲を向けてこない恋人は恋人じゃないってこと?」
「え、ええ?それは…、ええ」
にべもなく歩に言われて、隆雅は再び唸る。
隆雅の友人、能登歩は3ヶ月ほど前、長年の片思いを実らせた。その相手というのが、隆雅とも面識のある歩の元恋人─洋の弟だというから、隆雅は二重にも三重にも驚いたのだ。
──新しい恋人とうまくいっていないのだろうか。
元来歩は自分から人を食事や遊びに誘ったりはしない質だ。加えて新しい恋人と付き合ってからというもの、めっきり付き合いが悪くなった歩が、今夜わざわざこうして隆雅を居酒屋に連れ込んだのだ。よほどのことがあったに違いない。
歩は、隆雅を急かしたりこそしないものの、じっとこちらを見据えてその答えを待っている。どうも適当な言葉で納得するような気配はない。
「彼氏さんとうまくいってないのか?」
素直にそのまま聞けば、正面の歩の顔が分かりやすく歪んだ。あまり見たことのない顔だと思った。
そもそも、酒が弱いわけでもない歩がこんなに目に見えて酔っているのも珍しい。
今日は珍しい事ばかりだと思いながら、隆雅は手にしていたメニューを脇に寄せた。
「…彼氏がオレのこと本気で好きなのかわかんない」
歩は目を伏せたまま、ぽつりぽつりと話し出す。
「彼氏─、しのはノンケなんだ。男のオレのことを恋愛対象としてみれない。」
「でも、付き合ってるんだろ?それに、告白は向こうからだって前に言ってたじゃん。それなら、」
言いさして、隆雅は言葉を飲み込む。歩がゆるゆると首を横に振ったからだ。
「アイツがオレと付き合ってんのは、オレという友達が離れてしまうのが嫌なだけなんだよ。アイツ、オレ以外に友達なんていないし」
隆雅は歩の言葉にぱちくりと瞬きをする。
そんな理由で異性愛者の男が同性と付き合うだろうか。自分だったらそんな理由で男となんて、とんでもない。
「実際、オレたちは付き合って3ヶ月経つけど、セックスどころかキスさえしてない」
吐き出す調子で言ったきり、歩は何かを耐えるように黙り込む。しかし、それもほんの数秒のことだった。はぁ、と小さくため息を落として歩は続ける。
「…別に、しのとキスやセックスがしたいから付き合ったわけじゃない。しのはノンケだってわかってるから、そういうのできないかもって、できたらうれしいけど、そういう行為ができないかもしれないってことも承知の上だった」
隆雅は目で頷いて先を促す。
「でもさ、付き合う前と今のオレたち、何も変わんないんだ。一緒に住んで、一緒のベッドで寝てるけど、それだけ。ベッドだって、アイツ最初オレ用にシングルベッド買おうとしてたんだよ?」
そこまでいい終えて、歩は酒を呷る。
「好きの一言も言ってくれなくて、触れてもくれない。オレ、アイツのなんなの?」
歩はグラスを置いてテーブルに突っ伏す。
「しかもさ、」
突っ伏したままの歩が声を低める。突っ伏したままだから、その声はくぐもって聞こえる。
「ゴムの箱見つけてさ。何個か使ってるやつ。前の彼女と使ったのかな。分かってたけどさ、付き合ってほしいってアイツから言ったくせに、女とはできたことが男のオレとはできないんだって思ったら、悲しいし、惨めだし、…辛い。」
最後はほとんどひとり言のように言った歩を見下ろして、隆雅はなんと声を掛けていいかわからないまま、掛けるべき言葉を探しては思考が空回る。
歩の方はテーブルに突っ伏したまま完全に沈黙している。
隆雅は歩に悟られないように小さく息を吐くと、ぽんぽんと歩の肩を叩く。
「とりあえず、いったん忘れて今日は飲もうぜ!」
ゆっくりと顔を上げた歩の目は僅かに赤かった。隆雅はそれに気付かない素振りで明るく笑う。
「ほら、次何飲む?」
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「一番強いの」
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