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第50話
しおりを挟む第一王子専属区画の前。
ミリアは静かに立っていた。
その瞳は、
もう“優しいミリア”ではない。
(……わたくしは……
奪われた側……
だから……
取り返す……)
護衛が扉を開ける。
ミリアは、
ゆっくりと微笑んだ。
「……エリシア様……
お話がありますの……」
その声は甘く、
静かで――
どこか“壊れていた”。
部屋の中。
エリシアはベッドに座り、
胸を押さえた。
(……嫌な……気配……
何か……来る……)
精霊たちが震える。
――エリシア。
――影が来る。
――すぐそこ。
エリシアは、
弱い呼吸で呟いた。
「……ミリア様……?」
扉の向こうから、
ミリアの声が聞こえる。
「エリシア様……
少しだけ……
お話を……」
その声は、
優しいようで、
どこか“冷たい”。
エリシアの胸が強くざわついた。
(……違う……
この声……
いつものミリア様じゃない……)
アルベルトは扉の前に立ち、
護衛に向かって言った。
「ミリア様を中に入れるのは……
今は危険だ」
護衛は驚く。
「で、殿下……?
ミリア様はただ――」
アルベルトは鋭く言った。
「違う。
“何かがおかしい”」
胸の奥で、
強烈な警鐘が鳴っていた。
(……エリシアが危ない……
このままでは……)
精霊たちが叫ぶ。
――殿下!!
――急いで!!
――影がエリシアに触れる!!
アルベルトは扉に手をかけた。
「ミリア様、失礼する」
だが――
ガチャッ
扉の向こうから、
ミリアが先に開けた。
ミリアは、
ゆっくりと部屋に入ってきた。
その動きは静かで、
まるで影が滑り込むようだった。
エリシアは息を呑む。
「……ミリア様……?」
ミリアは微笑んだ。
「エリシア様……
お元気そうで……
本当に……よかった……」
その声は優しい。
だが――
瞳は笑っていない。
エリシアの背筋に冷たいものが走る。
(……怖い……
ミリア様……
どうして……こんな……)
ミリアは、
ゆっくりとエリシアに近づいた。
「エリシア様……
わたくし……
ずっと思っていたのです……」
エリシアは震える声で言った。
「……な、何を……?」
ミリアは微笑んだまま囁いた。
「――あなたさえいなければ、
わたくしは“選ばれていた”」
エリシアの心臓が跳ねた。
(……ミリア様……
そんな……)
ミリアの手が、
エリシアの肩に触れようとした瞬間――
バンッ!!
扉が勢いよく開いた。
アルベルトが、
息を切らして飛び込んでくる。
「エリシア!!」
エリシアは叫んだ。
「殿下!!」
ミリアは振り返り、
ゆっくりと微笑んだ。
「……殿下……
どうして……
邪魔をなさるのです……?」
アルベルトは、
エリシアを背にかばいながら言った。
「ミリア様。
これ以上、
エリシアに近づくことは許さない」
ミリアの瞳が揺れる。
「……殿下まで……
わたくしから奪うのですか……?」
アルベルトは静かに言った。
「誰も奪っていない。
エリシアは“自分で選んだ”」
ミリアの表情が歪む。
「……選んだ……?
エリシア様が……?
殿下を……?」
エリシアは、
アルベルトの背中越しに言った。
「……はい……
わたしは……
殿下の隣にいたいです……
これからも……ずっと……」
ミリアの瞳から、
ぽたりと涙が落ちた。
「……どうして……
どうして……
わたくしじゃ……
だめなの……?」
アルベルトは、
悲しそうに目を伏せた。
「ミリア様……
あなたは悪くない。
ただ……
エリシアと私は……
互いを選んだだけだ」
ミリアは、
その言葉に完全に崩れ落ちた。
「……いや……
いや……
いやぁぁぁ……!!」
精霊たちが震える。
――エリシア。
――殿下。
――ミリア、壊れる。
――危ない。
アルベルトは、
護衛を呼んだ。
「ミリア様を……
医療区画へ。
今は休ませるべきだ」
ミリアは、
泣き叫びながら連れて行かれた。
「エリシア様ぁぁぁ……!!
どうして……
どうして……
わたくしじゃ……
だめなの……!!」
その声は、
王城中に響いた。
ミリアが連れ去られたあと。
エリシアは、
震える体でアルベルトにしがみついた。
「……殿下……
怖かった……
ミリア様が……
わたしを……」
アルベルトは、
強く抱きしめた。
「もう大丈夫だ。
君は私が守る。
絶対に……離さない」
エリシアは、
その胸の中で泣いた。
(……殿下……
本当に……
わたしを……)
精霊たちが、
二人の周りで光を散らす。
――エリシア。
――殿下はあなたを選んだ。
――あなたも殿下を選んだ。
――二人は光。
アルベルトは、
エリシアの髪にそっと触れた。
「エリシア……
君が無事で……
本当に……よかった」
エリシアは、
涙の中で微笑んだ。
「……殿下……
わたし……
殿下が……好きです……」
アルベルトの胸が震えた。
「……エリシア……
私も……君が好きだ」
二人は、
静かに抱き合った。
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