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第19話「迎え――冷徹な辺境伯の使者」
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翌朝。
屋敷の前に、黒い馬車が止まった。
黒鉄の装飾。
紋章は北方の狼。
王都の馬車とは違う、重く威圧的な存在感。
玄関前に立つ家族の顔は、
どこか“ほっとした”ように見えた。
(……私を追い出せるから)
胸が冷たくなる。
馬車の扉が開き、
黒い外套をまとった男が降りてきた。
背が高く、鋭い目つき。
まるで戦場から来たような雰囲気。
「フェルナンデス家の令嬢、リディア様はどちらだ」
低く、よく通る声。
父が私を前に押し出す。
「こちらだ。
……どうぞ、連れて行ってくれ」
(連れて行ってくれ……?
まるで荷物のように)
使者は私を見て、
一瞬だけ目を細めた。
「……なるほど。噂通りの“無表情”だな」
胸が痛む。
けれど、私は何も言わなかった。
使者は続ける。
「我が主、アレクシス・ヴァルター辺境伯は、
“妻となる者を迎えよ”と命じられた。
ゆえに迎えに参った」
継母が満足げに笑う。
「まあ、ありがたいことね。
うちの娘をもらってくださるなんて」
ミレイユがわざとらしくため息をつく。
「お姉様、北方は寒いですわよ。
でも……お姉様にはお似合いですわ」
使者は冷たい目でミレイユを一瞥した。
「……軽口を叩くな。
辺境伯の妻は“軽い存在”では務まらん」
ミレイユの顔が引きつる。
“礼儀を知らぬ者を嫌う”
そんな厳しさがあった。
父が私に向き直る。
「リディア。
お前はもう家の者ではない。
北方で……せいぜい生き延びろ」
継母は冷たく笑う。
「あなたが死んでも、こちらには関係ないわ。
辺境伯の妻なんて、どうせ長くは持たないもの」
ミレイユは勝ち誇ったように言う。
「お姉様、せいぜい頑張ってくださいませ。
殿下はもうわたしのものですから」
私は静かに頭を下げた。
「……今まで、お世話になりました」
その言葉に、
家族は誰一人として返事をしなかった。
使者が馬車の扉を開ける。
「乗れ。
……辺境伯様は、待っておられる」
私は馬車に乗り込んだ。
扉が閉まる音が、
まるで“過去が終わる音”のように響いた。
馬車が動き出す。
(……私は、本当に家を出たのだ)
胸の奥が静かに痛む。
でも――
ほんの少しだけ、
冷たい風とは違う“何か”が胸に灯った。
(ここよりは……きっと、まし)
そう思えた。
そして、
馬車の窓から見える空は、
どこか自由に見えた。
屋敷の前に、黒い馬車が止まった。
黒鉄の装飾。
紋章は北方の狼。
王都の馬車とは違う、重く威圧的な存在感。
玄関前に立つ家族の顔は、
どこか“ほっとした”ように見えた。
(……私を追い出せるから)
胸が冷たくなる。
馬車の扉が開き、
黒い外套をまとった男が降りてきた。
背が高く、鋭い目つき。
まるで戦場から来たような雰囲気。
「フェルナンデス家の令嬢、リディア様はどちらだ」
低く、よく通る声。
父が私を前に押し出す。
「こちらだ。
……どうぞ、連れて行ってくれ」
(連れて行ってくれ……?
まるで荷物のように)
使者は私を見て、
一瞬だけ目を細めた。
「……なるほど。噂通りの“無表情”だな」
胸が痛む。
けれど、私は何も言わなかった。
使者は続ける。
「我が主、アレクシス・ヴァルター辺境伯は、
“妻となる者を迎えよ”と命じられた。
ゆえに迎えに参った」
継母が満足げに笑う。
「まあ、ありがたいことね。
うちの娘をもらってくださるなんて」
ミレイユがわざとらしくため息をつく。
「お姉様、北方は寒いですわよ。
でも……お姉様にはお似合いですわ」
使者は冷たい目でミレイユを一瞥した。
「……軽口を叩くな。
辺境伯の妻は“軽い存在”では務まらん」
ミレイユの顔が引きつる。
“礼儀を知らぬ者を嫌う”
そんな厳しさがあった。
父が私に向き直る。
「リディア。
お前はもう家の者ではない。
北方で……せいぜい生き延びろ」
継母は冷たく笑う。
「あなたが死んでも、こちらには関係ないわ。
辺境伯の妻なんて、どうせ長くは持たないもの」
ミレイユは勝ち誇ったように言う。
「お姉様、せいぜい頑張ってくださいませ。
殿下はもうわたしのものですから」
私は静かに頭を下げた。
「……今まで、お世話になりました」
その言葉に、
家族は誰一人として返事をしなかった。
使者が馬車の扉を開ける。
「乗れ。
……辺境伯様は、待っておられる」
私は馬車に乗り込んだ。
扉が閉まる音が、
まるで“過去が終わる音”のように響いた。
馬車が動き出す。
(……私は、本当に家を出たのだ)
胸の奥が静かに痛む。
でも――
ほんの少しだけ、
冷たい風とは違う“何か”が胸に灯った。
(ここよりは……きっと、まし)
そう思えた。
そして、
馬車の窓から見える空は、
どこか自由に見えた。
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