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4、私の首は明日無事かしら?
しおりを挟む落ち着かない様子で何度か部屋をうろうろして、それからベッドに腰を下ろした。
ふわっとして軽くて、腰がゆっくり沈む。
「わっ、すごい。なんて座り心地のいいお布団なの!」
イレーナはシーツを触ってみた。
サラサラして気持ちいい。
「こんな贅沢な寝具で眠れるなんて最高じゃない」
イレーナは感動のあまり、ベッドにうつ伏せにダイブしてみた。
すると、ふわっと身体が包み込まれる感覚がして、まるで身体が浮かんでいるような気分になった。
「すごいわ。こんなに寝心地のいいお布団は初めて!」
さわさわと手でシーツを撫でていたら、背後から急に声がした。
「気に入ったならよかった」
聞き覚えのある低い声に、イレーナは飛び起きた。
振り返るとそこには皇帝ヴァルクが立っていたのである。
イレーナはベッドに夢中になるあまり、扉を開ける音にも気づかなかったらしい。
慌てて身体を起こし、深く頭を下げた。
狼狽えてはいけない。
だが、心臓はバクバクと壊れそうなほど音を立てている。
イレーナは寝間着の裾を持ち、挨拶をした。
「イレーナでございます。このたびはよろしくお願いいたします」
顔を上げるとそこには皇帝陛下。
目を合わせるのも恐ろしい。
(ああ、どうしてベッドにダイブしちゃったんだろう)
イレーナは先ほど自分がおこなった行為を後悔していた。
しかし、意外にもヴァルクはイレーナの興味に乗ってくれたのである。
「このベッドが気に入ったのか?」
「え? あ、はい! とても寝心地がよくてうっかり寝そべってしまいました。お許しくださいませ」
「そうか。そんなに気に入ったなら、いくらでも堪能すればいい」
「はい。ありがとうございま……きゃあっ!」
礼を言っている途中に、イレーナはヴァルクに抱き上げられてしまった。
「へ、陛下……あの……」
「どうした? 気に入ったのだろう? ほら」
「きゃああっ!」
あろうことか、ヴァルクはイレーナをベッドに放り投げたのだ。
身体が沈んだかと思うと、ふわっと反発し、ふたたび静かに沈んでいく。
イレーナは底知れぬ快感を覚えて、思わず「ああぁ……」と妖艶な声を上げてしまった。
(なんって気持ちいいのー!)
このまま幸せな感覚に包まれて眠ってしまいたい。
などと思っていたら、ヴァルクが笑う声が聞こえて我に返った。
急いで飛び起きて、彼に抗議する。
「ひ、ひどいではありませんか! 突然このような……」
「だが、気持ちいいだろう?」
「うっ……はい。とても……」
それに関しては反論できない。
イレーナが返す言葉に迷っていると、ヴァルクはベッドに腰を下ろし、こちらをじっと見つめた。
そういえば、さっきまでひどく緊張していたのに少し落ち着いている。
(もしかして、気をまぎらわせてくれたのかしら?)
じっと見つめられて恥ずかしくなり、思わず顔を背けるも、ヴァルクは冷静に話を続けた。
「この寝具はセシルア王国から取り寄せたものだ。中身は羽毛らしいぞ」
「噂には聞いたことがありますけど、羽毛布団ってこんなにふわふわしているんですね!」
「俺にはやわらかすぎて困る。だが、女にとってはいいのだろう?」
「はい、それはもう! このお布団で眠ったら朝起きられなくなってしまいます!」
ヴァルクはふっと顔を背けて笑った。
イレーナはぽかんとしていたが、すぐさま我に返る。
(しまったー。皇帝陛下との初夜に私はなんという言動を! 私の首は明日無事かしら?)
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