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45、正妃に圧をかけられています
しおりを挟む久しぶりにアンジェの茶会に呼ばれたイレーナは控えめなドレスで出席した。
最近、アンジェの関係者と思われる一部の者たちからの反発が強く、城内を歩いているだけでよからぬ噂を流された。
(なるべく目立ちたくないのに、目立ってしまうのよね)
イレーナはため息をつく。
せめてアンジェより質素な格好をして自分を際立たせないようにしていた。
相変わらずアンジェは美しかった。
イレーナよりも上質な生地で作られたドレスと高価な宝石を身につけ、立ち居振る舞いはしなやかで、まばゆいくらいの気品を放っている。
「最近あなたのご活躍を耳にするわ。素晴らしい功績ね」
「ありがとうございます」
アンジェの話に落ち着いて応じるイレーナ。
「今日はバルコニーのテラスに席をご用意いたしましたのよ。晴れてとても気持ちがいいから外でお茶でも飲みませんこと?」
「はい」
茶の用意はすでにされていて、使用人たちは部屋の隅で待機している。
イレーナはアンジェに促されるまま、バルコニーへ向かった。
テーブルにはチョコレートやケーキ、スコーン、マカロン、プディングなど多くの菓子が並び、周囲にはピンクや赤の薔薇が飾られている。
「綺麗ですね」
「私たち妃はいつも陰で支える存在ですもの。たまには息抜きしないとね」
「そうですね」
イレーナは純粋にアンジェの言葉を受け入れた。
「あなたたちは下がってちょうだい。ふたりきりで話がしたいの」
アンジェは以前と同じように使用人たちに部屋から退室すよう命じた。
イレーナも侍女のリアに席を外すよう指示する。
アンジェとふたりきりの茶会は二度目だ。
まったく警戒することはなかった。
「最近、陛下とは上手くやっているのかしら?」
「え、ええと……まあ、ほどほどには」
「そう。わたくしはほとんど顔を合わせることがないのよ。あなたのことを余程お気に召していらっしゃるのね」
「そうなのでしょうか。最近はご多忙のようでたまに会う程度ですけど」
アンジェはふわっと気品あふれる笑顔をイレーナに向けている。
その表情を見ると、イレーナはいくらか心がほぐれた。
安心しきったのもあってか、イレーナはアンジェに訊かれたことに次々答える。
「民のための学校の思いつきは驚いたわ。民のために高級布団を格安で生産するアイデアもね。どうやったらそんな考えが思い浮かぶのかしらね」
「実は私は公女と言っても庶民の方々と触れ合う機会が多かったので、民の目線で物事を考えてしまう癖があるのです」
「そう。あなたは特殊な育ち方をしたのね」
「おかげで妃としての嗜みが欠けていると侍女に叱られてばかりです。アンジェさまを見習いたいです」
アンジェはお茶を飲んでカップを静かに置く。
そして笑顔を崩さないまま、イレーナに言った。
「あなた、身分不相応という言葉をご存じかしら?」
イレーナはどきりとした。
アンジェは笑顔だが、そのセリフからは身のほどを知れと言っているようなものだ。
「はい、存じておりますし、理解しております」
「そう。でしたら、少し控えめにすべきでしょうね。陛下に何を訊ねられても、すべてに正直に答えるのは側妃としての立場を超えていると自覚すべきだわ。それがわかっていれば、多少口を閉じることもできるはずよ」
つまり、バカを演じろと言われているのだろう。
イレーナはぐっと唇を引き結んだ。
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