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46、この国の人たちはお茶をかけるのが好きねぇ

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 これは圧力をかけられているのだ。
 アンジェは表情も口調も穏やかだが、その内側から苛立ちが滲み出て、それがひしひしと伝わってくる。

 つまり、側妃の分際で正妃の真似事はやめろと警告を受けているのである。


 イレーナに側妃の自覚があれば、たとえ能力があったとしても、正妃より秀でてはいけない。
 正妃を立てなければならないのだ。
 それをイレーナは忘れて、その場でバカ正直に陛下の問いに答え、彼の力になり、政務に口を挟みすぎている。

 自分でも目立っていることを危惧していたが、やはりアンジェは相当怒りが溜まっていたのだろう。


「出しゃばった真似をして申しわけございません。アンジェさまのご気分を損ねてしまったことは謝ります」

 イレーナはまず、アンジェに対する謝罪をした。
 しかし、そのあとすぐに自分に意見を続けた。


「ですが、私にも正義というものがございます。陛下のためになり、ひいては国のためになることであれば、私は陛下に助言をいたしたく存じます。生意気なことを申しておりますことは重々承知しております」

 イレーナは深く頭を下げたまま、アンジェに訴える。

「しかし、私は民が困っている姿を見て放っておくことなどできません。これだけは譲れないのです」


 アンジェは突然立ち上がり、イレーナのそばへ寄ると、おもむろにプディングを手に取る。
 そして、それをイレーナの胸もとにぶちまけた。

 イレーナはドレスが汚れてしまったことよりもまず、怒りの気持ちがわいてきた。


「アンジェさま、私に苛立ちを感じていらっしゃるなら言葉でおっしゃってください。この国にはパンも食べられない子どもたちがいるのです。食べ物で八つ当たりなどおやめください」

 イレーナの反撃に対し、アンジェは今度はイレーナの飲みかけのカップを持ち、中身の茶をぶちまけた。


(はぁ……この国の人たちは他人にお茶をかけるのが好きなのねぇ)


 腹が立つというより呆れてしまった。
 アンジェは今までにないほど取り乱している。
 肩で荒々しく息をして、イレーナを睨みつける。
 そこには気品あふれる正妃の姿などなかった。


「あなたのそういうところが、わたくしは大嫌いよ」
「生意気を言って、申しわけございません」
「正義ですって? そんなもの、皇城では通用しないわ」


 イレーナは黙り込んだ。
 これ以上、何を言ってもアンジェの怒りを買うことしかできないだろう。

 噂では聞いたことがある。
 どこの国も、妃がふたり以上いるところは、こうした問題に必ずぶち当たるのだ。
 イレーナの育ったカザル公国は一夫一婦制だったので、こんなことは起こらなかった。


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