悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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プロローグ

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オーロラさんと別れて庭園に行く道中、セリオンがまたしらたまのようなほっぺをぷくぷくに膨らましていた。
本人は自覚がないのだろうが、拗ねると焼いた餅みたいになるところが本当に可愛いんだよ分かるか? 分かるな。

「世界の中心で愛を叫びたい……」
「は? なに? 今すぐ辞めて」

ほっぺをつつくと膨らんでるのに気が付いたのか空気を抜いてじっとりと睨んできた。カワイ~! 天才!

「あんた、なんで母さんと仲悪いわけ」
「オッホ」

さすが子供は普通にクリティカルというか話しづらいことを聞いてくるなぁ~~!!!!

「……ほーらセリオン、庭ついたぞー。無くなる前に朝露を回収して」
「てか、今日街行くって聞いてなかったんだけど?」

嘘だからね!!!!!!!
実を言うと、俺はこの屋敷にいるのは好きじゃない。天蓋付きの寝台に広い部屋、豪華な食事に高等教育を与えられている身で言うことではないが。

(本妻の息子で天才のセリオンじゃなくて、魔法も碌に使えない妾の子である俺が爵位を継ぐのにみんな納得してないんだよな……)

だから居辛い。言ってはなんだがその程度の話だ。セリオンいないと帰ってくるわけねーだろこんな前時代的なダボ屋敷! まぁ前時代なんすけど。

「ンまぁ、お兄ちゃんにも色々用事があるってワケよ。それとも寂しくなっちゃった? ンー可愛い弟め! チューしちゃお」
「本当に最悪気持ち悪いどうかしてるんじゃないの」
「言い過ぎ」

ほんとにするわけじゃないのに……。
帰ってこないと啖呵を切ったとはいえ、ルースが編入して卒業するまで俺は公爵家の子息である。
えっ公爵家? って?? そうです、実は俺公爵家なんですよ~~似合わないとか言うな怒るぞ。

「せっかく学校から出てこれたんだし、屋敷に引き篭もるなんてお兄ちゃんの性分が許さないって奴よ」
「ふーん……わけわかんない」
「セリオンはこの歳で引きこもりだからなー」

薔薇園のように中庭ではなく、馬車の乗り入れる正門から出れば薔薇以外の多種多様な植物が彩る庭園と噴水が出迎えてくれる。

丘の上に出来たこの屋敷は、御伽噺で見る妖精のお屋敷みたいに幻想的で、カントリーっぽい優しさがある。洋風のガーデンフェンス越しに下町が見えているのが特徴だ。

「って、あれ。馬車が入ってる。誰かゲストでも招いてたかな」
「こんな朝に? ……変な奴」
「こらこら。うちに来るとしたら相当な人だろ、無礼だぞ」

正門から出たアーチの近く、休んでいる馬と豪奢な馬車が置いてあった。
首を傾げる俺とは反対に、セリオンが近くの生垣に近づいて専用の瓶を取り出す。興味なさすぎでは?

「うーん……家系の紋章は隠されてるし、お忍びなんだろうけど。ウチってちょっと複雑だから来た人によっては困るな」
「そんなことより早く採集して」
「はいはい」

顎で使われているぜ。
浄めたフラスコのくちを開けて、一際綺麗な朝露をそっと葉の上から滑らせて零さないように入れる。
地味に一日で採れる数が限られているので、場所によっては高値で取引されている素材だ。

「くそ~これが保存きく奴だったらな、高値で売り捌くのに!」
「馬鹿じゃないの」
「いやいや、セリオンだってびっくりするって! 俺はただでさえ物入りだってのにさ」
「へぇ、何に使うの」
「……」
「だんまり」

いやその、物入りなんですよ。ほら男の子にはこう、秘密みたいなものがあるって言うか。

こんなマジック的世界に来たらどれだけ高くても厨二病魔法道具とか欲しいって言うか。そう言うのってたいてい贋作なのに高いって言うか。

あとまぁこう男の子の生理的アレでね。

(俺の小遣いって全部監視されてんだもん……! 俺自身が稼げる分なんて微々たるもんだしさぁ~!)

公爵家から莫大な資金はもらっているが、それは建前上のもの。
学業のために使うならともかく、エセマジックアイテムの収集とか街のお菓子とか、そういう趣味に偏ったものは購入すればすぐにバレて怒られるのだ。
特に性的なアレとか、バレたら確実に女性とか送られてくる。ハニトラという奴だ。公爵子息なため。

「何も言えないなら最初っから黙ってれば」
「ンン……」

やだもうほんと! もっと俺に優しくして!

ただ実際、セリオンに教えられるものではない。なにしろ本妻の子供なのだ、変な趣味を仕込んだら何を言われるか。マジでこの家はカス、セリオンいなかったら帰ってきてない、なんならもう早く出たい。

悲しい。黙っていよう……。
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