9 / 282
プロローグ
8
フィレンツェ家、正門前。何かから隠れるようにヴィンセントがしゃがみ込んでいた。
俺が降り立ったのを見ると一瞬目を見開き、焦り、急激にニヤつき始める。何かを誤魔化すにしろ何でそんなに腹立つ顔しかできないんだ? こいつは。
「いーところにきた! なぁなぁ優等生、ちょっと頼みが──」
「これはこれはヴィンセント殿下!!!!!!!!! こんなところで一体何を!?!?!?!?!?」
「っだぁーーデカい声出すな! おっ前わかってるだろ要件!?」
当たり前すぎ俺を誰だと思ってんだ。
ドヤ顔する俺に気が付かず慌てふためくヴィンセント。愉快……。
おおかた、お目付役の執事が探しているとかだろう。王家の執事長は厳しいと有名で、老紳士然とした見た目からは想像も出来ないくらいキレやすい。
俺も何度か王宮に遊びに行った時、客なのにしばかれたことがある。
(別に今女遊びしてましたって突き出してもいいんだけどな……)
ヴィンセントは国でも珍しい回復魔法の使い手だ。と言うのも、いつの間にか鼻っ柱が治っていてピンピンしているから。
とはいえ回復魔法は術者の気力を相応に消耗する。本来やりたいものでもないはずだろうが、どうしても回復しなければいけない理由があると見た。
王宮に怪我の原因を知られたら困るのだ。
つまり……娼館に行ったことは、あの執事長には秘密にしておきたいはず。
そして俺はあの娼館に顔を出していることがバレたら大変なことになる。
「……交渉の余地があるな」
「ん?」
「ヴィンセント殿下、取引といこう」
キリッとした顔を作りヴィンセントの隣に座る。
今朝からなんだお前その口調と思われるかもしれないが、これは外面用の俺です。
アレだよ、お母さんが学校からの電話に出る時声高くなるみたいな感覚。
俺の言葉に何を言いたいのか察したらしく、苦虫を噛み潰したような顔をするヴィンセントが、小さく毒づく。
「弱み握れたと思ったっつーのに……」
「ほう。まぁ俺はこのまま貴殿のことを報告してもいいが」
完全にハッタリだがそこはまだまだ子供。堂々とした態度と俺の思い入れを知らないからか、ヴィンセントはすっかり騙されたらしい。
こうやって子供らしく可愛くしてればいいんだが、まぁ、土台無理な話である。期待はしてない。
──そういうわけで、俺たちは二人揃って着衣を整え媚薬入り香水を払い、何食わぬ顔でフィレンツェの正門から屋敷内に入った。
大理石の大広間ではどうやら身内同士のパーティが行われている様子で、俺たちを見つけた執事長と父が慌てたように駆けてくる。
「ヴィンセント殿下、アーノルド様! こんな時間までいったいどこへ行っていらっしゃったのですか!」
「殿下、お待ちしておりました。アーノルド、殿下をどこへ連れて行っていたんだ」
あっセリオンいる! 壁の方でオーロラ様に抱きつきながら、セリオンがちらりとこっちを見た。こう見るとやっぱり十三歳のかわい子ちゃんだなぁ。いくら魔法の天才とはいえ、可愛さの天才まで担わなくていいのでは????
(……っと。まずはこの場を誤魔化すか)
本気で心配してくれる執事長には申し訳ないが、その隣にいる男は体裁しか気にしていない。
不出来な俺が、殿下に迷惑をかけたのではないか、それにより処罰されるのではないかと怯えているだけだ。
攻略対象の一人だが、つくづく小心者である。
「心配ないって! ちょっと学友と会ったから、話が盛り上がっただけ。ねーがっきゅーちょー!」
おい腰を抱くな。
癖らしく腰に回された手を振り払うのも不敬かと思い直し、青ざめた顔でこちらを伺う執事長に微笑みを返した。
小さな社交とはいえ使用人も来ているわけで、給仕をするルースがこちらを盗み見ているのがわかる。
煌びやかなシャンデリア、王家に連なる数人が行う、素朴かつ何よりも高級なパーティ。
流石にここで粗相をするわけにはいかない。
「ああ。少し前に魔法薬学があってな……俺は錬金を趣味としているから、殿下に少しお話ししていたんだ。気付いたら夜で、パーティをすっぽかすところだった」
「アーノルド、殿下になんという口を……」
「良いってフィレンツェ公! 俺はまだ学生だし、座学に関しちゃこいつのがユーシューだっての。なぁーアーノルド?」
「はは、困った事だ。貴方が卒業すれば、俺は良き友人とこうして話す機会が失われてしまう」
と言いながら、俺は腰をつねられているし殿下は足を踏まれている。何が悲しくて男と、しかも嫌味なクソガキとくっつかにゃならんのだ。
執事長はしばらく困惑していた様子だったが、真っ白な顎髭を少しだけ撫で、まぁ、と渋々頷く。
「アーノルド様がそう仰るのなら……」
「えっ? 爺やの俺への信用ってないの?」
「ヴィンセント殿下、あまりアーノルド様にご迷惑をお掛けしないように」
言われてやんの!
俺が降り立ったのを見ると一瞬目を見開き、焦り、急激にニヤつき始める。何かを誤魔化すにしろ何でそんなに腹立つ顔しかできないんだ? こいつは。
「いーところにきた! なぁなぁ優等生、ちょっと頼みが──」
「これはこれはヴィンセント殿下!!!!!!!!! こんなところで一体何を!?!?!?!?!?」
「っだぁーーデカい声出すな! おっ前わかってるだろ要件!?」
当たり前すぎ俺を誰だと思ってんだ。
ドヤ顔する俺に気が付かず慌てふためくヴィンセント。愉快……。
おおかた、お目付役の執事が探しているとかだろう。王家の執事長は厳しいと有名で、老紳士然とした見た目からは想像も出来ないくらいキレやすい。
俺も何度か王宮に遊びに行った時、客なのにしばかれたことがある。
(別に今女遊びしてましたって突き出してもいいんだけどな……)
ヴィンセントは国でも珍しい回復魔法の使い手だ。と言うのも、いつの間にか鼻っ柱が治っていてピンピンしているから。
とはいえ回復魔法は術者の気力を相応に消耗する。本来やりたいものでもないはずだろうが、どうしても回復しなければいけない理由があると見た。
王宮に怪我の原因を知られたら困るのだ。
つまり……娼館に行ったことは、あの執事長には秘密にしておきたいはず。
そして俺はあの娼館に顔を出していることがバレたら大変なことになる。
「……交渉の余地があるな」
「ん?」
「ヴィンセント殿下、取引といこう」
キリッとした顔を作りヴィンセントの隣に座る。
今朝からなんだお前その口調と思われるかもしれないが、これは外面用の俺です。
アレだよ、お母さんが学校からの電話に出る時声高くなるみたいな感覚。
俺の言葉に何を言いたいのか察したらしく、苦虫を噛み潰したような顔をするヴィンセントが、小さく毒づく。
「弱み握れたと思ったっつーのに……」
「ほう。まぁ俺はこのまま貴殿のことを報告してもいいが」
完全にハッタリだがそこはまだまだ子供。堂々とした態度と俺の思い入れを知らないからか、ヴィンセントはすっかり騙されたらしい。
こうやって子供らしく可愛くしてればいいんだが、まぁ、土台無理な話である。期待はしてない。
──そういうわけで、俺たちは二人揃って着衣を整え媚薬入り香水を払い、何食わぬ顔でフィレンツェの正門から屋敷内に入った。
大理石の大広間ではどうやら身内同士のパーティが行われている様子で、俺たちを見つけた執事長と父が慌てたように駆けてくる。
「ヴィンセント殿下、アーノルド様! こんな時間までいったいどこへ行っていらっしゃったのですか!」
「殿下、お待ちしておりました。アーノルド、殿下をどこへ連れて行っていたんだ」
あっセリオンいる! 壁の方でオーロラ様に抱きつきながら、セリオンがちらりとこっちを見た。こう見るとやっぱり十三歳のかわい子ちゃんだなぁ。いくら魔法の天才とはいえ、可愛さの天才まで担わなくていいのでは????
(……っと。まずはこの場を誤魔化すか)
本気で心配してくれる執事長には申し訳ないが、その隣にいる男は体裁しか気にしていない。
不出来な俺が、殿下に迷惑をかけたのではないか、それにより処罰されるのではないかと怯えているだけだ。
攻略対象の一人だが、つくづく小心者である。
「心配ないって! ちょっと学友と会ったから、話が盛り上がっただけ。ねーがっきゅーちょー!」
おい腰を抱くな。
癖らしく腰に回された手を振り払うのも不敬かと思い直し、青ざめた顔でこちらを伺う執事長に微笑みを返した。
小さな社交とはいえ使用人も来ているわけで、給仕をするルースがこちらを盗み見ているのがわかる。
煌びやかなシャンデリア、王家に連なる数人が行う、素朴かつ何よりも高級なパーティ。
流石にここで粗相をするわけにはいかない。
「ああ。少し前に魔法薬学があってな……俺は錬金を趣味としているから、殿下に少しお話ししていたんだ。気付いたら夜で、パーティをすっぽかすところだった」
「アーノルド、殿下になんという口を……」
「良いってフィレンツェ公! 俺はまだ学生だし、座学に関しちゃこいつのがユーシューだっての。なぁーアーノルド?」
「はは、困った事だ。貴方が卒業すれば、俺は良き友人とこうして話す機会が失われてしまう」
と言いながら、俺は腰をつねられているし殿下は足を踏まれている。何が悲しくて男と、しかも嫌味なクソガキとくっつかにゃならんのだ。
執事長はしばらく困惑していた様子だったが、真っ白な顎髭を少しだけ撫で、まぁ、と渋々頷く。
「アーノルド様がそう仰るのなら……」
「えっ? 爺やの俺への信用ってないの?」
「ヴィンセント殿下、あまりアーノルド様にご迷惑をお掛けしないように」
言われてやんの!
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼不定期連載となりました。
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
事なかれ主義の回廊
由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます