悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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プロローグ

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フィレンツェ家、正門前。何かから隠れるようにヴィンセントがしゃがみ込んでいた。

俺が降り立ったのを見ると一瞬目を見開き、焦り、急激にニヤつき始める。何かを誤魔化すにしろ何でそんなに腹立つ顔しかできないんだ? こいつは。

「いーところにきた! なぁなぁ優等生、ちょっと頼みが──」
「これはこれはヴィンセント殿下!!!!!!!!! こんなところで一体何を!?!?!?!?!?」
「っだぁーーデカい声出すな! おっ前わかってるだろ要件!?」

当たり前すぎ俺を誰だと思ってんだ。
ドヤ顔する俺に気が付かず慌てふためくヴィンセント。愉快……。

おおかた、お目付役の執事が探しているとかだろう。王家の執事長は厳しいと有名で、老紳士然とした見た目からは想像も出来ないくらいキレやすい。
俺も何度か王宮に遊びに行った時、客なのにしばかれたことがある。

(別に今女遊びしてましたって突き出してもいいんだけどな……)

ヴィンセントは国でも珍しい回復魔法の使い手だ。と言うのも、いつの間にか鼻っ柱が治っていてピンピンしているから。

とはいえ回復魔法は術者の気力を相応に消耗する。本来やりたいものでもないはずだろうが、どうしても回復しなければいけない理由があると見た。

王宮に怪我の原因を知られたら困るのだ。
つまり……娼館に行ったことは、あの執事長には秘密にしておきたいはず。
そして俺はあの娼館に顔を出していることがバレたら大変なことになる。

「……交渉の余地があるな」
「ん?」
「ヴィンセント殿下、取引といこう」

キリッとした顔を作りヴィンセントの隣に座る。

今朝からなんだお前その口調と思われるかもしれないが、これは外面用の俺です。
アレだよ、お母さんが学校からの電話に出る時声高くなるみたいな感覚。

俺の言葉に何を言いたいのか察したらしく、苦虫を噛み潰したような顔をするヴィンセントが、小さく毒づく。

「弱み握れたと思ったっつーのに……」
「ほう。まぁ俺はこのまま貴殿のことを報告してもいいが」

完全にハッタリだがそこはまだまだ子供。堂々とした態度と俺の思い入れを知らないからか、ヴィンセントはすっかり騙されたらしい。
こうやって子供らしく可愛くしてればいいんだが、まぁ、土台無理な話である。期待はしてない。


──そういうわけで、俺たちは二人揃って着衣を整え媚薬入り香水を払い、何食わぬ顔でフィレンツェの正門から屋敷内に入った。
大理石の大広間ではどうやら身内同士のパーティが行われている様子で、俺たちを見つけた執事長と父が慌てたように駆けてくる。

「ヴィンセント殿下、アーノルド様! こんな時間までいったいどこへ行っていらっしゃったのですか!」
「殿下、お待ちしておりました。アーノルド、殿下をどこへ連れて行っていたんだ」

あっセリオンいる! 壁の方でオーロラ様に抱きつきながら、セリオンがちらりとこっちを見た。こう見るとやっぱり十三歳のかわい子ちゃんだなぁ。いくら魔法の天才とはいえ、可愛さの天才まで担わなくていいのでは????

(……っと。まずはこの場を誤魔化すか)

本気で心配してくれる執事長には申し訳ないが、その隣にいる男は体裁しか気にしていない。
不出来な俺が、殿下に迷惑をかけたのではないか、それにより処罰されるのではないかと怯えているだけだ。

攻略対象の一人だが、つくづく小心者である。

「心配ないって! ちょっと学友と会ったから、話が盛り上がっただけ。ねーがっきゅーちょー!」

おい腰を抱くな。
癖らしく腰に回された手を振り払うのも不敬かと思い直し、青ざめた顔でこちらを伺う執事長に微笑みを返した。
小さな社交とはいえ使用人も来ているわけで、給仕をするルースがこちらを盗み見ているのがわかる。
煌びやかなシャンデリア、王家に連なる数人が行う、素朴かつ何よりも高級なパーティ。
流石にここで粗相をするわけにはいかない。

「ああ。少し前に魔法薬学があってな……俺は錬金を趣味としているから、殿下に少しお話ししていたんだ。気付いたら夜で、パーティをすっぽかすところだった」
「アーノルド、殿下になんという口を……」
「良いってフィレンツェ公! 俺はまだ学生だし、座学に関しちゃこいつのがユーシューだっての。なぁーアーノルド?」
「はは、困った事だ。貴方が卒業すれば、俺は良き友人とこうして話す機会が失われてしまう」

と言いながら、俺は腰をつねられているし殿下は足を踏まれている。何が悲しくて男と、しかも嫌味なクソガキとくっつかにゃならんのだ。

執事長はしばらく困惑していた様子だったが、真っ白な顎髭を少しだけ撫で、まぁ、と渋々頷く。

「アーノルド様がそう仰るのなら……」
「えっ? 爺やの俺への信用ってないの?」
「ヴィンセント殿下、あまりアーノルド様にご迷惑をお掛けしないように」

言われてやんの!

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