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いざゆけ魔法学校
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バタバタと風がはためき流石に寒さを感じ始める、そんな空気も薄いはるかかなたから飛び降りた人間はどうなるか。
死、絶望、柘榴の実。
オッケーそれでファイナルアンサー? 正解は──
「ッ、ぉわぁああああああああ!!!!!」
正解は叫びながら落ちるです! ウルセーーッッッ何度でも何度でも怖いもんは怖い! この世界は好都合に未完成なので!! ンなこと言ってる場合ではないですね!
バタバタとコートがはためき取り残されたトランクが近づいてくる。俺は懐から依代を取り出す。まだフィレンツェ領まだフィレンツェ領!
「──夢想顕現!」
二束三文で買った贋作の魔法道具を、錬金術を使って変質させる。
傘のような形、頬を掠める空気がかさの内側に溜まり抵抗を生み、落ちる速度をガクンと下げる。
さらにこれは都合の良い魔法でできた道具ではあるので、わりあい強く空気抵抗を受け、長く宙を漂っていられる上に推進力が強い。
要するにお手軽滑空。パラシュート!
「フゥ……」
ひとまずひと段落だ。詠唱にもならない風魔法で軽く上空に体を煽り、俺はフィレンツェ公爵領を脱した。
あとは腰に巻いたパラシュートにつながるベルトと両脇の紐にしがみつきつつ和やかな空の旅と洒落込むことにする。
魔法道具なら魔力が切れてるだろう、とお思いかもしれないが実はそうではない。
錬金術は物質を変化させる魔術。一度そう変化したものは、魔力が切れようと戻ることはない。つまり炭素を金に変えてもどうやったって金になる。まぁ錬金の痕は見ればわかるので、売るようなこともできないが。
推進力が高くなかなか落ちていかないパラシュートは、他の領空を超え海を越え、徐々に霧に隠れた学園の姿を見せてくれる。
基本的に他領の空を飛ぶのは厳禁だが、こういう通学手段に使うしかないって時は許可されているのだ。
領地争いで戦争なんかしていたのも遥か昔の話で、今は国王の統治する元平和な大地でのびのびと次世代の魔法使いが育っていっている。
「ようやく帰ってきた……」
孤島を覆うように城壁が建っている。霧に囲まれたそこは学生たちの楽園であり箱庭。
身分年齢関係なく、学力と魔力だけでクラスが振り分けられ、才能だけが全ての世界。
そこにいるのは教師たち以外は魔力ある子供達だけで、しかし警備は手厚い。超一流の魔法使いたちと彼らの操るゴーレム、更には学校を出ればたちまち遭遇する実験用魔物たちが護っているからだ。
まぁ、実験用魔物とはいえ魔力あるうまそうな子供に群がっているだけなので、結界の貼ってある校内から出てはいけないのだけれど。
「っと、と、行き過ぎってば」
上空からの侵入を防ぐため、気流の感覚が変わっている。少しでも油断したら持っていかれそうになるがまぁ、この辺りで構わない。
ギャアギャアと不快な鳴き声が上から聞こえてきた。美味しそうな魔力の匂いに釣られて、この時期は翼竜が自分の巣からこちらに戻ってくるのだ。帰省帰りみたいなもん。
「よっ」
かちり、とベルトを外した。
そのまま急降下する体、スレスレで翼竜にパラシュートが噛みちぎられる。念の為においつけしておいてよかった!
トランクを呼び出し取っ手を掴む。うおお男の子の大事な部分がヒュンって縮んじゃうぜ!!
支えが無くなり体全体で空気の抵抗を受けながら二転三転し魔法学校に落ちていく。上空にも結界が貼られているので魔法を使いながら入城はできない、勝負は一瞬。
計算通りぴかぴかの一年生たちが入場してくるため、朝から整えられている広い芝生──の隣の雑草置き場を目指し。
「浮遊!」
小さな頃に習う基礎の魔法を詠唱し──実力ある魔法使いであれば破棄しても良いが、俺は唱えないとうまく使えない──少しずつ体が無重力に作り変わっていく。
(これも凄い魔法使いなら一瞬なんだけどな……)
徐々に徐々に近づいてくる雑草達、しかし落ちる速度は確実に遅くなっている。
体がぐん、と浮かぶ感覚。風の抵抗、無重力──
「ぶへぇっ」
の前に激突。ちょっと勢いを殺し切れなかったぜ!
雑草の山に頭を突っ込み、草くさいと引っこ抜く。頭に引っかかった草をぷるぷると払った。
「い、つつつつ……」
「フィレンツェさん?」
「げ」
顔を挙げると、そこには鬼婆がいた。
死、絶望、柘榴の実。
オッケーそれでファイナルアンサー? 正解は──
「ッ、ぉわぁああああああああ!!!!!」
正解は叫びながら落ちるです! ウルセーーッッッ何度でも何度でも怖いもんは怖い! この世界は好都合に未完成なので!! ンなこと言ってる場合ではないですね!
バタバタとコートがはためき取り残されたトランクが近づいてくる。俺は懐から依代を取り出す。まだフィレンツェ領まだフィレンツェ領!
「──夢想顕現!」
二束三文で買った贋作の魔法道具を、錬金術を使って変質させる。
傘のような形、頬を掠める空気がかさの内側に溜まり抵抗を生み、落ちる速度をガクンと下げる。
さらにこれは都合の良い魔法でできた道具ではあるので、わりあい強く空気抵抗を受け、長く宙を漂っていられる上に推進力が強い。
要するにお手軽滑空。パラシュート!
「フゥ……」
ひとまずひと段落だ。詠唱にもならない風魔法で軽く上空に体を煽り、俺はフィレンツェ公爵領を脱した。
あとは腰に巻いたパラシュートにつながるベルトと両脇の紐にしがみつきつつ和やかな空の旅と洒落込むことにする。
魔法道具なら魔力が切れてるだろう、とお思いかもしれないが実はそうではない。
錬金術は物質を変化させる魔術。一度そう変化したものは、魔力が切れようと戻ることはない。つまり炭素を金に変えてもどうやったって金になる。まぁ錬金の痕は見ればわかるので、売るようなこともできないが。
推進力が高くなかなか落ちていかないパラシュートは、他の領空を超え海を越え、徐々に霧に隠れた学園の姿を見せてくれる。
基本的に他領の空を飛ぶのは厳禁だが、こういう通学手段に使うしかないって時は許可されているのだ。
領地争いで戦争なんかしていたのも遥か昔の話で、今は国王の統治する元平和な大地でのびのびと次世代の魔法使いが育っていっている。
「ようやく帰ってきた……」
孤島を覆うように城壁が建っている。霧に囲まれたそこは学生たちの楽園であり箱庭。
身分年齢関係なく、学力と魔力だけでクラスが振り分けられ、才能だけが全ての世界。
そこにいるのは教師たち以外は魔力ある子供達だけで、しかし警備は手厚い。超一流の魔法使いたちと彼らの操るゴーレム、更には学校を出ればたちまち遭遇する実験用魔物たちが護っているからだ。
まぁ、実験用魔物とはいえ魔力あるうまそうな子供に群がっているだけなので、結界の貼ってある校内から出てはいけないのだけれど。
「っと、と、行き過ぎってば」
上空からの侵入を防ぐため、気流の感覚が変わっている。少しでも油断したら持っていかれそうになるがまぁ、この辺りで構わない。
ギャアギャアと不快な鳴き声が上から聞こえてきた。美味しそうな魔力の匂いに釣られて、この時期は翼竜が自分の巣からこちらに戻ってくるのだ。帰省帰りみたいなもん。
「よっ」
かちり、とベルトを外した。
そのまま急降下する体、スレスレで翼竜にパラシュートが噛みちぎられる。念の為においつけしておいてよかった!
トランクを呼び出し取っ手を掴む。うおお男の子の大事な部分がヒュンって縮んじゃうぜ!!
支えが無くなり体全体で空気の抵抗を受けながら二転三転し魔法学校に落ちていく。上空にも結界が貼られているので魔法を使いながら入城はできない、勝負は一瞬。
計算通りぴかぴかの一年生たちが入場してくるため、朝から整えられている広い芝生──の隣の雑草置き場を目指し。
「浮遊!」
小さな頃に習う基礎の魔法を詠唱し──実力ある魔法使いであれば破棄しても良いが、俺は唱えないとうまく使えない──少しずつ体が無重力に作り変わっていく。
(これも凄い魔法使いなら一瞬なんだけどな……)
徐々に徐々に近づいてくる雑草達、しかし落ちる速度は確実に遅くなっている。
体がぐん、と浮かぶ感覚。風の抵抗、無重力──
「ぶへぇっ」
の前に激突。ちょっと勢いを殺し切れなかったぜ!
雑草の山に頭を突っ込み、草くさいと引っこ抜く。頭に引っかかった草をぷるぷると払った。
「い、つつつつ……」
「フィレンツェさん?」
「げ」
顔を挙げると、そこには鬼婆がいた。
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