悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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いざゆけ魔法学校

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バーバヤーガ。山に住む、子供を攫う妖精だ。妖精と言ってもこの世界の妖精は想像上のものとは勝手が違い、可愛くて小さなフェアリーではなく妖怪に近いものだ。
妖婆バーバヤーガは古代の魔女が変質したものとされている。

「始業式から危険飛行とは、どういうつもりですか。あなたが上手く飛べないのは知っているのですから、上級生たる規範を示してください。そんなことをやっているから後から来たエルファンドくんにあんな態度を取られるのですよ」
「すみません」
「貴方の弟さんが来るのは知っていますが、それにしたってはしゃぎ過ぎです。魔法の馬車嫌いなど大人になれば通用しないのですから」

完全に正論である。
シワが細かく刻んだ指で神経質そうにトントンと書物を叩きながら、魔女の帽子に紺碧の外套といった、まさに歳を重ねた魔女といったふうなこの人は、俺の担任であるマーガレット先生。

可愛らしい名前に似合わぬ厳格さで、俺の才能無しを見て尚立派な魔法使いに育成しようとするのだからいい教育者ではあるのだ。

「そもそも翼竜ワイバーンが出るような上空を飛行しないでくださいね。これは貴方に魔法の力が少ないから言うのではなく、生徒全員そうです。学級長としての規律を守りなさい」
「……はあい」
「口調!」
「はい」

分かってはいるけれど、素直に従えるかと言ったら思春期の身体がそれを許さない。
なんで俺を見捨てないんだろうという戸惑いと、いずれ俺のこと嫌になるんだろという疑心。こんなことしても見捨てられなかったらいいな、という期待。
そういう、本来母親に向かうべきだったものが先生に向かっている。まぁそういう分析はできる。なんて恥ずかしい……。

「全く。貴方は一年生の頃から変わらず甘い子なのですから……
ですが四年生に進級したのは貴方の実力です、今年からは実践的な魔法の授業が始まりますから、学級長として恥ずかしくない態度をお願いしますね」

クドクドとやけに長いお説教にはい、と返す。
そう、進級。この学校は入った年度に関係なく、一年に一回の進級試験が行われる。
その試験において一定の結果を出せたものは進級したり、その結果によって飛び級したり留年したり。
俺は死に物狂いで一度も留年することがなくこうして四年生に上がれたわけだが、ヴィンセントは飛び級したし、セリオンは類を見ない二年飛ばしをやる。
うーん、フィレンツェの無能枠……。

「ひとまず今日は休みなさい。あなたの部屋は通達した通りの場所です──これ以上もう、わがままを聞きませんからね」
「! はーい!」
「返事」
「はい!」

そうだ、そうだった! マーガレット先生が許可するわけないと思って忘れてた!
そう、実は俺の寮は部屋が変わっている。階級順なので王子と最も近い隣室から、今年の一年生が集う区画へ。

後者を突っ切り、大きな門を通り橋を通り階段を降り、街のように作られている家々を飛ばし、マーガレット先生の預けてくれた鍵を取り出す。
二階建ての似たようなドアが並んでいる部屋のうち、校舎がよく見える二階の端部屋に鍵を突っ込んだ。

ガチャリと音を立て、扉を開け──

「あ、同室のひ、と…………は?」
「セリオン、お兄ちゃんだぞー!」

ひょっこりと出迎えた愛おしい弟をぎゅーっと抱きしめた。

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