悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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lets休暇

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チャンチュンと小鳥の鳴く音で目を覚ます。ああ、せっかく眠れていたのに。大きな天蓋付きのベッドから体を起こして、メイドが開けておいてくれたらしい窓から入り込んだ朝の空気を目一杯吸い込む。
身体に不調はない。まぁ、なら睡眠の果たすおおむねの役割は果たせているだろう。ダラダラと寝ていないでセリオンを起こしにいかなければ──

「……あんた、寝起きいいよね」
「ぅお」

ベッドから降りかけた俺の後ろから、低く甘いテノールが降ってくる。無骨な男の腕が腹に回され、ずしりと大型の獣みたいな重さが背中にかかった。
そのなまぬるさと強い力に戸惑いを覚えつつ、俺は振り返る。

「──セリオン! こっそり部屋に入ってくるな、お兄ちゃんびっくりしちゃっただろ!」
「……」
「え? 無視なんだけど。この態度だよ」

信じられないがセリオンである。
成長期を無事に終えたセリオンは、あの小さくて吹けば飛びそうな猫の抜け毛みたいだった頃から見る影もなく、俺よりも背が高い銀髪イケメンになってしまっていた。顔立ちはオーロラさんに似ているが女性的というわけでもなく。
作中随一の高身長キャラらしく骨ばった手と喉仏に、煙草とピアスが似合いそうな気怠げな色気。
誰もを魅了するダウナー系依存執着責めイケメンである。

うーん、やっぱマジでこんな感じで成長するんだな。もちもちのセリオンが可愛すぎたので正直半信半疑だった。

「セリオン、朝露採取するぞ。お前今年もまた一年しか進級できなかったんだから……こんなに優秀なのになぁ」
「……あんたが七年になったら本気出す。意味ないし」
「なんで俺の進級が関わってくるんだ。さては馬鹿にしてるな?? お兄ちゃんも無事に進級できます~これでも教師陣からの信頼は厚いんだぞ!」
「いや……まぁいいか。せいぜいがんばってね」

そう、セリオンは今年も何故か一年しか進級せず、現在三年生である。おかしいな、本編だと飛び級常習犯のはずなんだけど。セリオンは正しく優秀に成長したってのに……
まぁ、おかげで六年生である俺が監督生として一緒に過ごせるので、実のところありがたくもあるんだが。

「七年生になったら、寮戻ってね。監督生の意味ないもんね?」
「そ、そのつもりだけどいざ追い出されると悲しいぞセリオン……」
「勝手に悲しがってなよ」
「言い草」

七年になったら寮の移動も行われる。それまでに俺が学園に居られればの話だけど。
というかセリオン、力強くなったな……!
さっきからほのかにベッドから降りようとしてるけど全然拘束が解けない。まだ寝たいのか? まったくお寝坊さんめ! こういうめんどくさがりやなところを見るたびにモチモチの弟を思い出し、変わらないなぁと懐古してしまう。
まぁ実際成長期が一年しかなかったので変わっては居ないのだが。

「アーノルド様、失礼いたしま──ひゃあっ!?」

イチャイチャ(語弊がある)していると、扉が軽くノックされて美少年が顔を出した。この子ももう成長期が来ているはずだが、平均身長に中性的な整った顔立ち、可愛らしさと凛々しさを両立したような姿に仕上がっている。

メイド服がやけに似合う彼の名前はルース。なんとなく久しぶりの気分。まぁ年一しか帰省しないしな。

「しっしし失礼しました!! おっお邪魔してしまい……!」
「いやいや、すまないな。俺が起こしてくれと頼んでいたんだから謝る必要もない」

今にも卒倒しそうなくらい真っ赤になったウブな少年に苦笑し、軽く力を入れてセリオンの腕を剥がした。ちょっと抵抗していたみたいだが、本気の力比べになれば俺の方が強いんだぞ。
魔法使わない戦闘の方が頻度高いからな、フィジカルには自信があるぜ!

「セリオンはこう見えてまだ甘えたの子供だから……急に成長してびっくりしただろう?」
「え!? いやどう見ても……あっいや何でもないです! アーノルド様が仰るのなら! ルースは口をつぐみます!」
「うーん、何か隠してるのはわかるこの感じ久々だな」

ルースは嘘がつけない。純朴で可愛らしいので。今もまた何か言いたいことを飲み込んだのだろう。この感じ、癖者しかいない学校じゃ見れないから癒されるな……
さらさらとセリオンの銀髪を撫でていれば、それが何やら不満だったらしく首をふるりと振られた。

「ガキ扱いしないで欲しいんだけど」
「こらセリオン、言葉が強いぞ」
「……もうこどもじゃないんだし。あんたの背だって越した」

素直で可愛いな俺の弟。こういうところが子供扱いの原因なんだぞ。言わないけどね。
ダラダラしていても始まらない。パチンと指を鳴らせばいつもの作業着代わりのローブへ着替えられた。今日は来客も予定もないので、魔法の開発とか錬金術とかしながら陰気に過ごすつもりだ。街に降りてもいいけど。

「ルース、早起きをさせてしまってすまないな。これで美味しいものでも買ってきなさい」
「え!? こ、こんなに……」

懐からチップを取り出してルースに渡せば、戸惑ったように返されかける。大貴族の家に仕えているとは思えない素朴さだ、こういうところもまた愛される要因なんだよ諸君。分かるか? 分かれ。

「最近任される仕事が増えたんだろう? 婆やから聞いたよ。特別扱いもよろしくないから、俺から渡せるのはこの程度だが」

メイト長には秘密だぞ、とその唇に人差し指を当てれば、ルースは少し目を見開いて頬を染める。あっ待ってこれセクハラに値する? まだそういう概念が樹立していない世界線だからセーフか??

「過度なお触り厳禁でーす。自分とこのメイドだからって、調子乗りすぎ。ルース困ってる」

ダメでした。
セリオンが俺をルースから引き剥がし、後ろからずしっと寄りかかる。よほど俺の背を超えたのが嬉しいのか、ここ最近は移動するにしろ何にしろ後ろからくっついてくるようになった。反抗期終わったのか?

「てかあんたいつも人に近いよね。迷惑だと思うよ」
「魔力だけじゃなく言葉の火力も高いなお前は」

全然終わってなかったわ。
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