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lets休暇
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セリオンはいつも通り朝露を採取し、俺もそれについていく。まだ一人でやっていた時は要領も悪く上手く採取出来なかったものだが、やっていくうちにいつの間にか慣れてしまった。セリオンの方が要領がいいので、実のところもうすっかり速さも正確さも追いつかれているのだけれど。
「ねぇ、兄さん。今日は何するの」
「俺が毎日イベントごとやってると思ってる……? 今日は家でポチの作法教育と、まぁ暇だったら遊んでやっても良いかな。体も鈍ってるし」
それと、次にある夜会の準備かな。そろそろ王家から招待がかかる時期だし。俺自身の剣の稽古もつけてほしいからじいやにアポ取らないといけないし……。
などなど予定を頭に浮かばせつつ伝えれば、セリオンは視線をキョロキョロと彷徨わせ、なら、と言葉を紡ぐ。
「手伝う、から……早く終わったら、お母様と一緒にお茶会とか……」
「オーロラ様と? ううん、あの方が良いなら良いが……お前のわがままで通しちゃダメだぞ? オーロラ様にも都合があるんだから……」
遠慮がちなのは、俺がオーロラ様のことが嫌いだと思っているからだろう。いくらわがまま概念プリンセスであるセリオンでも、お互いに不可侵な相手をかかわらせるのには躊躇いを覚えるらしい。
とはいえ、オーロラ様のことは苦手だが嫌いではない。二人がいいのなら俺は構わないのだが……。
(うーん、いや、今日は何か大事なことがあったような)
日付を思い返してみる。夜会の日か? いや忘れるはずないし、誰かの約束……というわけでもない。いつも予定を書いている手帳には何も書いていなかった。すっぽかしている線は消していいだろう。じゃあ一体──
(ん? 待てよ。イベントごと……?)
引っかかる。イベント、というワードだ。イベント──ゲームのイベント?
(そういえば、ルースの招待はいつだ)
いやもう確定だろ、だって俺、時系列調整のために何度も見直したんだもの!
日本の時間に直して三月二十一日。入学の八日前に、ルースの入学招待状が来るのだ。
「悪い、セリオン! 今日の予定は無理そうだ、オーロラ様にまだ伝えてなかったら、明日……ああいや、明後日にしちゃダメか?」
「は? 何で……ポチよりぼく優先でしょ」
「いやポチ案件じゃないというかまぁめでたいことなんだよ!」
どうやらフラストレーションが溜まっていたらしいセリオンが嫌そうに睨みつけてくる。こいつ兄のこと睨みすぎだろ、俺にだって傷付く心はあるんだぞ! まぁ少なくとも弟の睨みで傷つくほど弱くはないけれども。
霧がかった早朝の肌寒い空気。予定通りなら、ルースのベッド枕元に招待状が現れているはずである。さっさと今日の分の朝露を集め、専用のケースにしまう。
「ねぇ、どこいくの。ぼくも行く」
「ン? まぁ良いぞ、お前にも教えてやろうと思ってたことだし……」
ゲーム本編だと入学の決定したルースに公爵が大喜びし、盛大に送別会を開いたものだ。それで悪役である俺に目をつけられるわけだが、まぁ俺は俺なのでしませんよ、嫌がらせなんかね。血縁である限り、弟であることは変わらないのだから。
何より、公爵は色ボケだが母さんが生きている限り一途でもある。可愛い顔だからと趣味でメイドを着せるどうしようもない奴だが、毎日母さんと面会しているのも知っている。愛しているのだ、あれでも。
(オーロラ様を愛していてやれよと思わないでもないが)
というか、思うが。自分が娶った女を幸せに出来ない男など。俺がもしティアをお嫁さんに出来たら、きっと世界でいちばんお姫様にしてずっと笑っていてもらうのに。あの子の泣き顔は、俺の心臓も引き絞られるみたいに痛いから。
(とはいえ。ルースはメイドや執事からも人望があるし、もう少し浮かれていても良いと思うんだが)
言い訳ではないが招待状の日を忘れていたのはそのせいでもある。もう少し賑やかでお祭りムードになるはずなのだが、今日はどうも平常通りだった。お友達であるセリオンにも伝えてると思ってたが、本人はオーロラさんとのお茶会なんか気にしてるし。二人でしてれば良いのに……。
「あ、ルース!」
「アーノルド様?」
今日は早朝のシフトだったルースが玄関を掃いている。今日も可愛らしく完璧な美少年、凛々しさと愛らしさをうまい具合に融合させた少年。うーん最高キャラデザ。俺のヘキを詰めただけあるな。
「ルース、今日、招待状きただろ?」
「っえ、何故それを──」
やっぱり!
ようやくだ──ようやく、俺のシナリオが始まる。終わりが近づいて来る。
ようやく終われる!
「おめでとう、ルース! 心から歓迎するよ!」
「ねぇ、兄さん。今日は何するの」
「俺が毎日イベントごとやってると思ってる……? 今日は家でポチの作法教育と、まぁ暇だったら遊んでやっても良いかな。体も鈍ってるし」
それと、次にある夜会の準備かな。そろそろ王家から招待がかかる時期だし。俺自身の剣の稽古もつけてほしいからじいやにアポ取らないといけないし……。
などなど予定を頭に浮かばせつつ伝えれば、セリオンは視線をキョロキョロと彷徨わせ、なら、と言葉を紡ぐ。
「手伝う、から……早く終わったら、お母様と一緒にお茶会とか……」
「オーロラ様と? ううん、あの方が良いなら良いが……お前のわがままで通しちゃダメだぞ? オーロラ様にも都合があるんだから……」
遠慮がちなのは、俺がオーロラ様のことが嫌いだと思っているからだろう。いくらわがまま概念プリンセスであるセリオンでも、お互いに不可侵な相手をかかわらせるのには躊躇いを覚えるらしい。
とはいえ、オーロラ様のことは苦手だが嫌いではない。二人がいいのなら俺は構わないのだが……。
(うーん、いや、今日は何か大事なことがあったような)
日付を思い返してみる。夜会の日か? いや忘れるはずないし、誰かの約束……というわけでもない。いつも予定を書いている手帳には何も書いていなかった。すっぽかしている線は消していいだろう。じゃあ一体──
(ん? 待てよ。イベントごと……?)
引っかかる。イベント、というワードだ。イベント──ゲームのイベント?
(そういえば、ルースの招待はいつだ)
いやもう確定だろ、だって俺、時系列調整のために何度も見直したんだもの!
日本の時間に直して三月二十一日。入学の八日前に、ルースの入学招待状が来るのだ。
「悪い、セリオン! 今日の予定は無理そうだ、オーロラ様にまだ伝えてなかったら、明日……ああいや、明後日にしちゃダメか?」
「は? 何で……ポチよりぼく優先でしょ」
「いやポチ案件じゃないというかまぁめでたいことなんだよ!」
どうやらフラストレーションが溜まっていたらしいセリオンが嫌そうに睨みつけてくる。こいつ兄のこと睨みすぎだろ、俺にだって傷付く心はあるんだぞ! まぁ少なくとも弟の睨みで傷つくほど弱くはないけれども。
霧がかった早朝の肌寒い空気。予定通りなら、ルースのベッド枕元に招待状が現れているはずである。さっさと今日の分の朝露を集め、専用のケースにしまう。
「ねぇ、どこいくの。ぼくも行く」
「ン? まぁ良いぞ、お前にも教えてやろうと思ってたことだし……」
ゲーム本編だと入学の決定したルースに公爵が大喜びし、盛大に送別会を開いたものだ。それで悪役である俺に目をつけられるわけだが、まぁ俺は俺なのでしませんよ、嫌がらせなんかね。血縁である限り、弟であることは変わらないのだから。
何より、公爵は色ボケだが母さんが生きている限り一途でもある。可愛い顔だからと趣味でメイドを着せるどうしようもない奴だが、毎日母さんと面会しているのも知っている。愛しているのだ、あれでも。
(オーロラ様を愛していてやれよと思わないでもないが)
というか、思うが。自分が娶った女を幸せに出来ない男など。俺がもしティアをお嫁さんに出来たら、きっと世界でいちばんお姫様にしてずっと笑っていてもらうのに。あの子の泣き顔は、俺の心臓も引き絞られるみたいに痛いから。
(とはいえ。ルースはメイドや執事からも人望があるし、もう少し浮かれていても良いと思うんだが)
言い訳ではないが招待状の日を忘れていたのはそのせいでもある。もう少し賑やかでお祭りムードになるはずなのだが、今日はどうも平常通りだった。お友達であるセリオンにも伝えてると思ってたが、本人はオーロラさんとのお茶会なんか気にしてるし。二人でしてれば良いのに……。
「あ、ルース!」
「アーノルド様?」
今日は早朝のシフトだったルースが玄関を掃いている。今日も可愛らしく完璧な美少年、凛々しさと愛らしさをうまい具合に融合させた少年。うーん最高キャラデザ。俺のヘキを詰めただけあるな。
「ルース、今日、招待状きただろ?」
「っえ、何故それを──」
やっぱり!
ようやくだ──ようやく、俺のシナリオが始まる。終わりが近づいて来る。
ようやく終われる!
「おめでとう、ルース! 心から歓迎するよ!」
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