身の程を知るモブの俺は、イケメンの言葉を真に受けない。

Q矢(Q.➽)

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だが、本当の衝撃は、寧ろそこから始まった。

風祭は更に続ける。


「その証拠を突きつけて、泰と別れろって言ったら、あの晩、あの時間に来るように指定された。」

「…本條が指定したのか。」

「うん。だから泰が帰ってくの見計らって入ったんだ、アイツのマンションに。」

「……。」

「そしたら、アイツ、僕にあんな事…。
多分、無理矢理ヤッてそれで脅して黙らせるつもりだったんじゃないかな。
籠絡するのが得意技みたいだし。
で、丁度その時に泰が戻って来たから…。」

「ああ…じゃあ、あれは…。」

「不意打ちに泰の姿を見て、僕もアイツも固まっちゃったけど、泰が出てった後アイツの力が弱まったから取り敢えず殴り付けて逃げたんだ。」

「あの後?直ぐ?」

「うん。でももう、泰に連絡つかなくて。
全部シャットアウトされてるのかって気づいたら、泰に会わなきゃいけないのに、会うのも怖くなって。
でもやっぱちゃんと弁解しなきゃと思って翌日此処にきたんだけど、…泰、いなくて…。」

また瞳を潤ませる風祭。
膝の上に置いた両の拳を固く握り締めている。

風祭の言葉を信じるなら、風祭は本條の浮気相手ではなく、直談判に行って襲われかけてたって事になるんだろうか。

本條が?
口を噤ませて、証拠を握り潰す為に、風祭を?

何でそこ迄しなきゃなんないんだろうか。

俺に知られて別れる事になっても、本條には特にダメージは無い。


「……あ、そうか…!」

俺は1つの可能性に閃いた。

「本條、実はカザ狙いだったんじゃね?」

「はぁ?」

「だって、普通、そういう話するのにあんな日に呼ばなくね?」

「いや、そんな訳ないだろ…。
飛躍し過ぎだよ、泰…。」

再びガクリと項垂れる風祭。

そうかなぁ…。

だってさ。
風祭経由で次々伝わってくる本條のイメージだと、すごく節操無しな感じするじゃん。しかも男女問わないんだろ?
俺と別れろって話するのに接触を図られてる内に、美形の風祭に目をつけても不思議じゃないような気がするんだよなあ。

風祭を見て考え込む俺。

風祭は、

「いややめてよ…有り得ないから。」

と、表情を失くしたので、どうやら本当に嫌なようである。

その様子を見る限り、本当に本條とのそういう関係は無いんだろう。
浮気ってのも、たまたまあの場面を見た俺の思い込みだったんだな。

風祭は風祭なりに、俺の為を思って動いてくれていたのだ。…まあ、嫉妬という私情は入っているんだろうが、それでも俺を裏切ってた訳ではなかったと知れただけ、気が楽になった。

直ぐに卑屈に疑ってしまったのは、俺が自分に自信が無いからなのかもしれない。

俺は、本條と付き合いだしてからずっと、本條に釣り合わない平凡という陰口を聞いてきた。
本條に見合って、尚且つ付き合いたいと思ってる奴らから。

釣り合わない。自分でもそれは認識してる。
してるけど、わかってても、それを更に他人から言われるのってなかなかしんどいものがある。

本條は俺に優しかったけど、好きにさせられてしまうくらい優しかったけど、きっと本條には俺では役者不足だってのはわかってた。

好きだけど、俺は別れ時を探っていたのかもしれない。

だって俺には、優しさでコーティングされた本條の本質が、全然見えなかった。
本條からは耳触りの良い言葉だけを与えられて、周囲からは悪意をぶつけられて、何となく自分には向かない恋愛をしてるなって思ってたとこ、ある。

そして、きっと本條も俺と本気で恋愛なんかしていなかった。



「…きちんと、別れないとな…。」

風祭の告げた全てを一方的に信じる訳じゃない。
本條が、浮気していながらも一応は俺とオツキアイをしていた気でいたのなら、きちんと向こうの言い分も聞いた上で、フェアに別れよう。


俺はそう考えを纏めて、本條に連絡を取る為にスマホを上着のポケットから出した。

「あ、やべ…。」

裕斗からLIMEがやたら入っている。
開いてみたら無事着いたかの確認で、緊張してた気持ちがホワッとする。
取り敢えず、着いたという事とスタンプだけ送っとくか…。

それから本條のブロックを解く。
すると数秒置かず、メッセージが入り出した。

『ねえ、会いたい』
『本当に出来心だったんだ、そろそろ許して』
『ほんとにブロックしてるの?』
『俺の事好きじゃないの?なんで許してくれないの?』
『どこにいる?』
『もう絶対しないから』
『限界だよ、顔が見たい。どこに行っちゃったの?』
『好き、好き好き好き。』
『もうヤス以外見ないからお願い』
『ちゃんとヤスだけにしたんだよ。スマホだって見てくれて良い。』
『抱きたい抱きたい抱きたい』
『なんで許してくれないの?』
『好きなのはヤスだけなのになんで』



「…………。」

「…………。」

風祭と一緒にそれを眺めながら顔を見合わせる。
LIMEはブロック中のメッセージは受信しない。
つまりこれは、リアルタイムで本條がずっと送り続けているという事。


「………アイツって、こんな感じなの?」

風祭が我に返ったように俺に聞いてきた。

「…いや、何時もはもっと普通だ…。」

「…そっか…。」

どうしよう。
これ、会っても大丈夫なやつだろうか。

「泰、どうするの?」

風祭が少し不安そうに俺の顔を覗き込む。

「そうだなぁ……まあ、話はしなきゃな。」

まさかとは思うが、本條はこの10日、ずっとこの調子でメッセージを送り続けていたんだろうか。

(…まさかな。)


まさかと思いながら、少し背筋が寒くなった。

文章からすると、やはり浮気していたんだな、とはわかった。出来心、だの、もうしない、だの、ヤスだけ見るから、だの。 

本條は意外と俺の事が好きなんだろうか?


「…………いや、無いな。無い。」


俺はかぶりを振った。
思い上がるな、俺。
本條は 只、こういう対応をされ慣れていないだけなんだろう。
本條みたいな人間は、何時だって相手を切り捨てる側なんだろうし。


「…こんな奴と話なんて、大丈夫?俺、ついてくよ。」

風祭は気持ち悪いものを見るかのようにスマホの画面を見て、次には俺を気遣うようにそう言った。
でも、本條にこれ以上風祭を関わらせたら更にややこしい事になる予感しかしない。


「大丈夫。」

俺はそう言って、本條に返信を打った。








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