憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)

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マオとレオと玲くん (10歳)

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「…マオ、どしたの?」

 2段ベッドの上で寝ていた筈の兄が、いつの間にか降りて来て俺の顔を覗き込んでいた。

「うなされてたよ」
「……大丈夫…」
「そう?お水とか、持ってこようか?」
「…要らない、大丈夫」

 甲斐甲斐しく俺の世話を焼こうとしてくる兄に、軽く手を振る。

「少し、変な夢見ただけだから。…今って何時?」
「2時30分だね。未だ夜中だよ」
「そっか」

 何だ、未だそんな時間か。俺、よっぽどうるさかったんだな。
起こしちゃったのか。

「ごめんね」

 申し訳なくて謝ると、兄は微笑んで俺の頭を撫でた。何時もなら避ける所だけど、今回は申し訳なかったからそのまま撫でられておく。

「もっかい寝直しなよ。見ててあげるから」
「……いや、かえって落ち着かないから兄さんも寝て」

 俺がそう言って布団を被り直すと、兄は名残り惜しげに離れた。俺よりも長い足が梯子をあがっていく。
 
 現実世界での兄と俺は、共に10歳になっていた。




 兄のレオは、勉強も運動も何でも人並み以上にこなす。俺は至って普通。前世で生まれ暮らしていた時とは似ているようで少し異なるこの世界は、平和で便利でそれなりに過ごしやすい。
 スイッチひとつ、ボタンひとつで火や光が点されるなんて、前世では考えられなかった。水だって軽く押すだけでいくらでも使える。
 そして、生まれながらにそれらが当たり前のようにある環境で育てばそれが普通になる。恵まれた世界の良い時代に送ってくれたのは感謝だな。

「マオ、髪跳ねてる」

 結局あの後は寝付きが悪くて目は閉じても意識が冴えて寝られなかった。朝起きて顔を洗ってたら後ろから叔父の声がして、その跳ねてるらしい髪の束を指で摘まれた。
 赤ん坊の頃から事ある毎に身体的接触を図られるので、年齢的にそろそろやめて欲しい。
 過去の俺なら自然で嬉しかった行為も、今生の俺の心は彼ら限定で冷めきっている。

 恨んでるのかな、俺。俺を裏切った彼を。
 でも今ここにいる叔父か兄のどちらかが彼だったとしたって、彼そのものではないし、記憶だって無いんだろうから、俺の態度は良くないんだろうな。
 わかってる。
 でも駄目なんだ、心…魂の奥の奥が彼を拒否してしまう、どうしても。今の彼が俺に酷い事をした訳でもないのに。

「ほんと、マオの髪は直ぐに寝癖ついちゃうよね。柔らかいからかな」

 叔父は後ろから俺の髪を長い指で梳かす。そんな事してくれなくても、俺は毎朝ちゃんと自分で直してるんだけど。

「……大丈夫。ありがとう玲くん」

 玲くん。俺は子供の頃から彼をそう呼んでる。叔父と呼ぶには年の離れた兄のような年齢だから。
 叔父…玲くんは、洗面台の鏡の前でタオルで顔を拭く俺の背後に立ったまま、鏡越しに俺を見つめてくる。
 自分と違ってそれなりに姿の変わった俺の何処かに、前の俺の面影でも探しているのかもしれない。

「玲さん、マオの事は僕がやるから」

 ボーイソプラノと共に、俺と玲さんの間に割って入るレオ。

「蒸しタオル作ってきたよ、あてるね」
「……ありがと。自分でやるからレオも学校行く準備しなよ」

 蒸しタオルだけをありがたく受け取って、自分であてる。彼らに触られる事が、慣らされてはいるけどやっぱり抵抗がある。申し訳ないけど。
 手持ち無沙汰になった兄は後ろの玲くんを少し睨んで洗面所の扉から出て行った。
 何かと気を使ってくれてるのに悪いとは思うけど、心が受け付けないんだ。
 鏡越しに、未だ後ろにいる玲くんにも声をかける。

「いつも言ってるけどさ、俺は一人で大丈夫だからあまり構わないでくれて良いよ」

 それに玲くんは少し寂しそうに頷いて、リビングの方へ行ってしまった。
  2人が居なくなって、ようやく俺は ふぅ、と息を吐く。

 何で競うように構ってくるんだろうか。もういい加減に放置してて欲しい。今の俺は、あの頃の俺とは違うんだから。

 玲くんは記憶があるんだろうけど、俺にもそれを期待されるのは迷惑だ。どうせ、関係を深めたって結局は他人を選ぶんだろうに。
 そんな考え方しか出来ない程、俺はとことん拗らせてしまっていた。

























                                           
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