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13 元副会長、空を見上げる
しおりを挟む御池君が右隣り。
左隣は空席だと思っていたが、まさかルプスだったとは。
登校して来ていたクラスメート達は、こちらを見てヒソヒソしている。
ルプスを見て、目を丸くしている生徒もいた。何故だ。
と言うか、ルプス…会話は流暢だったけど、字は何というか…個性的…だったけど、その辺は問題無いのか?
筆記は大丈夫なのか?
そう思いながら見ていただけだったんだが、ルプスは目に見えて小さくなって僕を見ている。
「……しの、まだ怒ってる?」
そう言われて我に返る。
そうだった。
腹立たしい事は腹立たしいが、起きてしまった事は仕方ないし、出来る対処としてはこれからは勝手に不埒な事をさせない事が大事だ。
それに…まぁ、反省はしているようだしな、と食事とあの謝罪文を脳裏に浮かべながら思った。
ま、仕方ない、か。
「昨日、夕食、ありがとう。
もう怒ってはいない。」
「ほんと?」
「だがこの先勝手な事をされるのは困る。」
「…どれをやめたら良い?」
「……。」
どれを。
まさか、ルプスは何故僕が怒っていたのか、理解していないのか。
え、そんな事ある?…あるかもな。
僕は気持ちを切り替えて、ルプスに質問してみた。
「どれだと思う?小さい声で言ってみ?」
ルプスは腕を組みながら、まあまあの時間長考している。
駄目そうだ。これは理解させるのに骨が折れるかもしれない案件っぽいと判断した僕は、ルプスに小声で言った。
「寮に帰ってから聞くね。」
ホストじみた担任が朝のホームルームの為に教室に入って来たから、これ以上の会話の続行は難しい。
それが終われば、直ぐに一限目の英語担当の教師が来る筈だ。
ルプスは僕の言葉に、嬉しそうにウンウン頷いているが、お前わかってるのか?
怒られた原因を考えとけって言われたんだからな?
週末何処へ行きたいか考えとけって言われたんじゃないからな?
本当に理解しているのか不安になってルプスを見る僕、見返してきてニコニコしているルプス。
……何だろうなあ。この顔を見てると、これ以上強く怒る事の方が、自分が狭量のように感じてしまう。
……最初の躾が大事なんだよ、と言っていた中学時代の友人のしたり顔が脳裏を掠める。
……躾…。
確かあの友人は大型犬を飼っていたんだった。
一時間目が終わり、短い休み時間に入って間も無く。
「佐藤君!!
体調はもう平気なのかな?」
教室に入ってくるなり、僕の席を目敏く見つけて早足で歩み寄ってくる神薙副会長。
いやもう神薙だ。呼び捨てで良い、こんな輩は。
「ご心配ありがとう。平気です。」
だから接触して来るんじゃない…。
しかし僕の望みも虚しく、神薙は僕の前の生徒を退かして迄その椅子に座り込んで僕に話しかける。嘘だろお前…。
「きっと疲れが出たんだね。何かあったら私に……」
よく回る口だなあ、と僕は次の授業の準備をする。
疲れが出たというより、アンタも原因のひとつなのだが、と内心毒づくが、口にはしない。
これ以上生徒会役員と事を構えるのは御免だ。
隣りからはルプスの小さな唸り声が聞こえているが、昨日程には威嚇する様子は無い。
もしかしてソレも、僕が怒った可能性のひとつに数えているのか。違うぞ。
唸ったのは逆に良かった。
只、その前(夜中)と後が悪かった。
頼むから僕を使ったマウント合戦はやめてくれ。
ふと、一人で喋っていた神薙がルプスに気づいて驚いた表情をした。
「え、君…何故朝からいるんだ?」
「お前だって…。いつも仕事を理由に生徒会室に篭ってセフレとサボってる癖に。」
「くっ…野蛮な野良犬め。」
「もう飼い主がいる。」
なんつー会話だ。
僕は聞こえない振りをしていたが、知りたくない情報がいくつも入ってくる。
「飼い主って、まさか佐藤君の事じゃないだろうな?」
「しのの事に決まってるだろ。エセ眼鏡。」
「伊達って言えよ!!
佐藤君がお前みたいな野蛮な野良を拾う訳ないだろうが!!」
「どうでも良い。
俺はしのと同室なんだからな。」
「くっ……!!」
やっぱ伊達だったのか。
いつの間にか立ち上がって言い争っていた2人だったが、ルプスの放った同室と言う言葉に悔しげと言うか悲しげに僕を見下ろしてくる神薙。
しらんしらん。
部屋決めをしたのは僕じゃないし、そこしか空いてなかったんなら仕方ないだろ。
僕は神薙の視線をスルーして窓の外の空を見た。
良い天気だ。
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