元・公立高生徒会副会長は王道学園に馴染めない

Q矢(Q.➽)

文字の大きさ
13 / 24

13 元副会長、空を見上げる

しおりを挟む


御池君が右隣り。
左隣は空席だと思っていたが、まさかルプスだったとは。
登校して来ていたクラスメート達は、こちらを見てヒソヒソしている。
ルプスを見て、目を丸くしている生徒もいた。何故だ。

と言うか、ルプス…会話は流暢だったけど、字は何というか…個性的…だったけど、その辺は問題無いのか?
筆記は大丈夫なのか?

そう思いながら見ていただけだったんだが、ルプスは目に見えて小さくなって僕を見ている。


「……しの、まだ怒ってる?」

そう言われて我に返る。
そうだった。
腹立たしい事は腹立たしいが、起きてしまった事は仕方ないし、出来る対処としてはこれからは勝手に不埒な事をさせない事が大事だ。
それに…まぁ、反省はしているようだしな、と食事とあの謝罪文を脳裏に浮かべながら思った。

ま、仕方ない、か。

「昨日、夕食、ありがとう。
もう怒ってはいない。」

「ほんと?」

「だがこの先勝手な事をされるのは困る。」

「…どれをやめたら良い?」

「……。」


どれを。

まさか、ルプスは何故僕が怒っていたのか、理解していないのか。
え、そんな事ある?…あるかもな。
僕は気持ちを切り替えて、ルプスに質問してみた。


「どれだと思う?小さい声で言ってみ?」

ルプスは腕を組みながら、まあまあの時間長考している。
駄目そうだ。これは理解させるのに骨が折れるかもしれない案件っぽいと判断した僕は、ルプスに小声で言った。

「寮に帰ってから聞くね。」


ホストじみた担任が朝のホームルームの為に教室に入って来たから、これ以上の会話の続行は難しい。
それが終われば、直ぐに一限目の英語担当の教師が来る筈だ。

ルプスは僕の言葉に、嬉しそうにウンウン頷いているが、お前わかってるのか?
怒られた原因を考えとけって言われたんだからな?
週末何処へ行きたいか考えとけって言われたんじゃないからな?

本当に理解しているのか不安になってルプスを見る僕、見返してきてニコニコしているルプス。

……何だろうなあ。この顔を見てると、これ以上強く怒る事の方が、自分が狭量のように感じてしまう。

……最初の躾が大事なんだよ、と言っていた中学時代の友人のしたり顔が脳裏を掠める。

             ……躾…。

確かあの友人は大型犬を飼っていたんだった。





一時間目が終わり、短い休み時間に入って間も無く。

「佐藤君!!
体調はもう平気なのかな?」

教室に入ってくるなり、僕の席を目敏く見つけて早足で歩み寄ってくる神薙副会長。
いやもう神薙だ。呼び捨てで良い、こんな輩は。


「ご心配ありがとう。平気です。」

だから接触して来るんじゃない…。
しかし僕の望みも虚しく、神薙は僕の前の生徒を退かして迄その椅子に座り込んで僕に話しかける。嘘だろお前…。

「きっと疲れが出たんだね。何かあったら私に……」

よく回る口だなあ、と僕は次の授業の準備をする。
疲れが出たというより、アンタも原因のひとつなのだが、と内心毒づくが、口にはしない。
これ以上生徒会役員と事を構えるのは御免だ。
隣りからはルプスの小さな唸り声が聞こえているが、昨日程には威嚇する様子は無い。
もしかしてソレも、僕が怒った可能性のひとつに数えているのか。違うぞ。
唸ったのは逆に良かった。
只、その前(夜中)と後が悪かった。
頼むから僕を使ったマウント合戦はやめてくれ。

ふと、一人で喋っていた神薙がルプスに気づいて驚いた表情をした。

「え、君…何故朝からいるんだ?」

「お前だって…。いつも仕事を理由に生徒会室に篭ってセフレとサボってる癖に。」

「くっ…野蛮な野良犬め。」

「もう飼い主がいる。」


なんつー会話だ。

僕は聞こえない振りをしていたが、知りたくない情報がいくつも入ってくる。


「飼い主って、まさか佐藤君の事じゃないだろうな?」

「しのの事に決まってるだろ。エセ眼鏡。」

「伊達って言えよ!!
佐藤君がお前みたいな野蛮な野良を拾う訳ないだろうが!!」

「どうでも良い。
俺はしのと同室なんだからな。」

「くっ……!!」


やっぱ伊達だったのか。

いつの間にか立ち上がって言い争っていた2人だったが、ルプスの放った同室と言う言葉に悔しげと言うか悲しげに僕を見下ろしてくる神薙。

しらんしらん。
部屋決めをしたのは僕じゃないし、そこしか空いてなかったんなら仕方ないだろ。

僕は神薙の視線をスルーして窓の外の空を見た。


良い天気だ。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

処理中です...